EYE's Journal

いま知りたい教育関連のテーマについて、ドリコムアイ編集部が取材・調査

1-3

シリーズ1 教員を育てる
Part.3 
レポート①
実務家でなく専門家をめざす
学校教育高度化専攻のねらいとは(前編)

東京大学大学院 教育学研究科
佐藤 学 研究科長
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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東京大学は、今年4月、大学院教育学研究科に学校教育高度化専攻を開設した。新たな専攻を開設した目的は何か、どのような教育を展開するのか、佐藤学研究科長に話をうかがった。

高度知識社会に対応した学校教育が必要

東京大学が大学院教育学研究科に学校教育高度化専攻を開設したのは、その名称が示すとおり学校教育の高度化を図るためだ。佐藤研究科長は次のように話す。

「21世紀の社会は高度知識社会です。これからは、そういう社会に対応できる教育が必要になります。また、子どもたちの育つ環境や教育を取り巻く環境も複雑になっていますから、新たな問題に対する高度な知識も持っていないと教師の仕事は務まらない。こういう状況のなかで、学校教育を高度化していくことが求められているのです」

学校教育高度化の内容として、東京大学では3つのポイントを挙げている。それは、①教職の高度化、②教育内容の高度化、③学校行政の高度化だ。そして、それぞれの高度化を実現していく3タイプの専門家を養成する。

「学校教育高度化専攻では、最先端の教育を切り開くことができる指導的な教師、カリキュラム研究や教員養成に携わる研究者、そして中央や地方で教育行政に携わる行政官などを育てていきます。そうした人材を養成することで、学校教育全体の高度化を図っていきたいと考えているのです」

学校教育の高度化にかかわる制度としては、2007年度スタートの教職大学院があるが、佐藤研究科長は「教職大学院は『実務家』教育を志向していて、高度な専門知識や技術に裏打ちされた『専門家』を育てる教育にはならない可能性がある」と指摘(実務家と専門家の違いは、Part.1参照)。

かといって、よりよい制度ができるのを待っていたのでは前に進めない。そこで、東京大学が率先して「大学院で教育の専門家を養成するモデルを提示する」(佐藤研究科長)ねらいもある。

東京大学でも教師を志望する学生が増加

また、学校教育高度化専攻の開設には、東京大学の学内事情も反映されている。

「実は、東大生の中で教師を志望する学生がすごく増えているのです。進路に関する調査結果を見ると、全学部の学生の9%が小学校・中学校・高校の教師を第一志望にしている。これは非常に高い数字だと思います。

大学院でも、理学系研究科修士課程では、学生の20%が中学校・高校の教師を第一志望に挙げています。日本の教育の状況を考えると、教師の仕事はますます重要になり、やりがいがあると考えているのではないでしょうか」

専攻内に3つのコースを設置

学校教育高度化専攻には、教職開発コース、教育内容開発コース、学校開発政策コースの3コースを設置している。

教職開発コースは、教職の高度化を軸に据え、授業研究とカリキュラム研究を展開。授業の創造とカリキュラムの開発を担いうる指導的教師、教員養成にも携わることができる実践的研究者などを養成する。

教育内容開発コースは、科学技術教育、数学教育、言語教育、人文社会教育、芸術教育、身体教育の6分野において、学校カリキュラムの高度化を推進できる指導的教師、実践的研究者などを養成する。また、他研究科と協力して、教育内容の学術的検討、教科書の内容分析、学力形成の方策などの研究も進める。

なお、当コースは他研究科に所属する教職志望の院生が副専攻として学ぶこともできる。

学校開発政策コースは、学校教育の高度化を推進する教育政策、教育行政・財政システム、学校経営について研究を行い、この分野で政策立案と評価を行うことのできる研究者、指導的な行政官(教育行政職員、学校管理職・指導主事など)を養成する。

学生は、3つのコースのいずれかに所属するが、コースの垣根を超えて科目を履修することも可能だ。

《Part.4 後編へつづく》

図1 学校教育高度化専攻およびセンターの概念図

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