シリーズ2

高校のインターンシップを考える
Part.4 インターンシップ支援事業と学校側・企業側の課題

インターンシップ充実のカギは
学校と企業の相互理解


東京商工会議所新宿支部
統括調査役 経営指導員 橋本 猛 氏
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
更新:2006/09/04
前回まで、インターンシップの意義や推進策、学校の取組例などについて見てきたが、インターンシップのあり方を考えるうえでは、学校側、企業側が抱える問題点を検証することも大切だ。そこで、シリーズ最終回となる今回は、学校と企業の間に入ってインターンシップ支援事業を行っている東京商工会議所新宿支部を訪ね、同事業を担当する橋本猛さんに、支援事業の内容を踏まえながら、学校側、企業側双方が抱える問題点やその改善策などについて話をうかがった。

東京商工会議所でも唯一の
インターンシップ支援制度

東京商工会議所新宿支部は、新宿駅西口の高層ビルが立ち並ぶエリアの一角にある。同支部は、2003年に「総合学習サポート事業」を制度化し、翌2004年から実施している。同事業は、小中高校の職場体験や事業所見学を支援する目的で開始したもので、メニューは2つある。2日〜1週間程度のインターンシップと、半日〜1日の企業・工場見学だ。

実は、こうしたインターンシップの支援制度を設けているのは、東京商工会議所のなかでも同支部だけ。そのあたりの事情について、同事業を担当している橋本さんは次のように話す。

「東京商工会議所としては、ニートと呼ばれる人が増えていることなどもあって、教育問題を非常に重視しています。本部には教育問題の委員会があるほどで、我々がサポートできる範囲で教育に役立つことはやっていきたいと考えています。

ただ、東京商工会議所本部ではインターンシップの直接的な支援、つまり、学校と受入企業を結びつけるような制度は設けていません。もし、学校からそうした相談があれば個別には対応していると思いますし、それとは別に、ハローワークや国の事業に協力するかたちで、いろいろな支部が協力をしています。しかし、それらはあくまでスポット的なものです。

本部で直接的な支援を制度化していないのは、現実問題として対応が難しいからです。本部レベルで行うとなると、学校からインターンシップを実施したいという依頼が集中すると思いますが、それに応えられるだけの受入企業を確保するのがまず難しい。それにエリアも広くなりますから、連絡や調整も難しくなります。新宿支部の事業は、ローカルだからできるのです。対象とする学校も受入企業も新宿区内だけですからね」

新宿区内の小中高校と
企業の橋渡し役を担う

橋本さんが説明するように、同事業の対象は新宿区内の小中高校に限定している。中途半端な対応になるのを避けるため、あえて明確な線引きをしているのだ。受入企業も新宿区内だけで、その数は約10社。多くはないが、金融機関、印刷会社、インテリア関連会社、出版・広告会社、書店、食品関連会社、化粧品会社などバラエティに富んでいる。

ここで、同事業によるインターンシップ実施までの流れを確認しておこう。それはおおむね次のようなものになる。

(1)新宿支部で協力企業リストを作成(企業名・受入条件などを掲載)し、新宿支部ホームページで情報発信

(2)ホームページを参考にして学校から新宿支部へ申込み・相談

(3)学校から依頼のあった企業と新宿支部において受入内容の調整を行い実施計画案を作成

(4)新宿支部から実施計画案を学校に通知

(5)学校と企業とで最終調整

(6)インターシップ実施

(7)企業・学校から実施結果を新宿支部に報告

同事業の実施状況を見ると2005年の場合、高校は実施校が3校、参加生徒数は75人、受入企業は5社、日数は2日〜4日程度となっている。中学校は実施校が2校、参加生徒数は107人、受入企業は3社で、日数は2日程度だ。この年、小学校は実施例がなかった。実施時期は夏休みに集中している。そのため、学校からの依頼は6月後半ぐらいにくることが多いという。

「依頼がくる時期は、私たちから見ると、ちょっと遅いかなと思います。受入企業は、なおさら遅いと感じているのではないでしょうか。できれば3か月前ぐらいに決まるといいのですが。そうはいっても、学校側にも事情があると思います。希望者を募集して最終的に確定させるだけでも時間がかかるでしょうし、テストなどいろいろなスケジュールとの兼ね合いもあるでしょうからね」

学校側の問題点は
教師が企業を知らないこと

同支部は、この事業で学校と受入企業の仲介役を果たしている。そのため、事業を担当している橋本さんには、学校側、受入企業側双方の問題点も見えてくる。

「学校側の問題点は、一言でいえば先生方が企業の現場を知らない、ということですね。ほとんどの先生は企業にお勤めの経験がありませんから、企業のしくみや仕事内容、仕事の流れなどはわからない。そのため、企業はインターンシップを簡単に受け入れてくれると思い込んでいる場合もあります。

生徒さんをインターンシップに送り出すときも、どのような仕事をどのようなかたちで体験させればいいのかがわからない。その結果、受入企業任せになることも少なくありません。

やはり、インターンシップを実施するのであれば、生徒さんにきちんとした目的意識を持たせて送り出すことが大事だと思います。そこが明確になっていないと、企業も対応が難しくなりますし、生徒さんもせっかくインターンシップに参加してもムダな時間を過ごすことになりかねません」

企業は受入担当者やコストなど
多くの問題を抱える

一方の企業側は、さまざまな問題点が絡み合って、インターンシップの受け入れが難しくなっていると橋本さんは指摘する。

「私たちは、インターンシップは教育上、意義のあるものだと思っていて、どんどん推進していきたいと考えています。そのためには、企業側にもインターンシップの重要性を十分に理解していただき、受け入れていただくことが前提になります。しかし、企業側にはたくさんの問題があるのが実状です。

その1つは、受入担当者の問題。生徒さんを職場に受け入れて教育をするような専門の担当者がいない。これは大きなネックになっていると思います。それから、生徒さんの安全という問題もあります。職場で事故が起きないように神経を使わないといけません。とくに製造業などは危険性を伴うような仕事もありますからね。あるいは、食品などを扱う企業では衛生面の問題も出てきます。

あとは、コストの問題も大きいですね。担当者の人件費をはじめインターンシップを受け入れるにはいろいろなコストがかかります。それが、かなり負担になっていると思います」

大学生のインターンシップの場合、企業側には学生の採用活動に結びつけたり、知名度を上げることができるといった「メリット」がある。しかし、高校生のインターンシップの場合は、そういう図式があてはまらないため、企業は「メリット」を感じない。むしろ、コストの問題などは「デメリット」になりかねない、ということだ。

教師の企業体験事業を通じて
理解が促進されることを期待

学校側、企業側の抱える問題点は簡単に解決できるものではない。しかし、橋本さんは前向きだ。東京商工会議所として、同支部として、できることから取り組んでいきたいという。その1つが、先生方に企業の仕事を体験してもらうことだ。

「これは直接的にインターンシップを意識したものではありませんが、東京商工会議所本部では、東京都の学校の先生方に企業の仕事を体験していただく事業を実施しています。今年も夏休み中の1か月間、120人ぐらいを受け入れました。これがどんどん浸透していけば、先生方の企業に対する理解も次第に深まっていくのではないでしょうか」

企業OBがアドバイザーとなる
新たなしくみを提案

また、橋本さんは、インターンシップ支援に直接つながるものとして、企業を定年退職したOBにインターンシップのアドバイザーになってもらうプランを進めようとしている。

「新宿区には、企業を退職したOBなどに社会参画の1つとしてアドバイザーとして学校と企業との仲介をしてもらいたいと考えています。この事業に新宿区もかかわっていただいて、そういう制度をつくれないだろうかという話をしているところです。

企業OBのアドバイザーがいれば、学校の先生方に企業のしくみや仕事についてレクチャーしていただいたり、学校と企業の間でインターンシップの実施内容を調整していただいたりすることが可能になります。

私たちは、学校と企業を結びつける役割を担ってはいますが、それほど細かな対応はできないのが実状です。そういう部分をアドバイザーに依頼できるようになれば、実施スケジュールをもっと早く決められるでしょうし、インターンシップの内容もより具体的に詰めることができるようになると思います」

これまで、同事業でインターンシップを体験した生徒の感想は「非常によかった」というものが多いそうだ。そういう声に応え、同事業をさらに充実させようとしている東京商工会議所新宿支部の取り組みは、橋本さんがいうように「ローカルだからできる」ことなのかもしれない。

しかし、学校側や企業側が抱える問題は、どの地域にもあてはまるはず。同支部の取り組みや考え方は、高校におけるインターンシップのあり方を探っていくうえで多くの示唆を含むものといえるだろう。

■東京商工会議所 新宿支部

▲東京商工会議所新宿支部
橋本 猛氏

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