EYE's Journal

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35-1

シリーズ35 商業高校における進学指導
Part.1 
現場に聞く
神戸星城高等学校
進学指導に関わる情報・ノウハウの共有により、
商業高校の新たな価値の創造・アピールを目指す

神戸星城高等学校 進学指導部長
近藤 直輝 先生
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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「商業高校から進学する」という新しいスタイルを提唱・推進する兵庫県の私立商業高校、神戸星城高等学校。2011年以降は6年連続で、商業高校から国公立大学への現役合格者数において全国1位をキープし続けている。同校の進学指導部長を務めながら、進学指導に関わる情報ネットワーク『全国商業高校進学懇話会』の維持・拡充にも尽力する近藤直輝先生に、高い実績の原動力となっている独自の進学指導システムや、『全国商業高校進学懇話会』の目的・意義などについて話を伺った。

商業高校の特性を活かした
『国公立大学システム』を実践

▲近藤 直輝 先生

神戸星城高校は、志望大学への現役合格を目指す『特進A・Bコース』(共学)、希望企業などへの就職や大学・専門学校への進学を目標とする『キャリアコース』(女子)の2コースを置く。

最大の特徴は、両コースにおいて、『国公立大学合格システム』、『就職合格システム』、『検定試験合格システム』、『マナー・礼法徹底システム』、『実践・体験システム』の五つからなる独自の教育システム『神戸星城ハイパフォーマンス・システム』を導入し、「就職するための高校」という、これまでの商業高校のイメージを覆す高い進学実績を実現している点にある。

2011年に初めて、商業高校から国公立大学への現役合格者数で全国1位を達成した。以降、6年連続で全国1位をキープしており、2016年度入試では、進学志望者約260名のうち56名が、国公立4年制大学への現役合格を果たしている。

こうした実績をあげるうえで大きな役割を果たしているのが、1999年の男女共学化以降、約10年をかけて確立したという『国公立大学合格システム』。「生徒と時間を共有すること」に重点を置き、動機づけから学力向上、特別推薦入試枠の条件となる資格の取得、面接・小論文対策まで、受験に至るまでの全てのプロセスを徹底サポートするものだ。

1年から面談を重視するとともに、簿記などの検定試験の合格に向けて教員と一体となって取り組み、徐々にハードルをあげ、それらを越えていく体験を積み重ねることを通じて、『やればできる』という自信につなげている。目指す人材像について、近藤先生は次のように語る。

「高校時代に培った専門性とその過程で培った誠実に学ぶ姿勢を活かし、自信を持ってリーダーシップを発揮できる人になってほしい。これは、大学が商業高校出身の学生に期待することでもあると考えています。

近年は、進学先を首席で卒業したり、就職後に起業をしたりと、本校独自の進路指導の真価を発揮するケースも見られるようになってきました。それをもっと当たり前のことにしていきたいという思いがあります」

全国の商業高校の発展を目指す
『全国商業高校進学懇話会』

同校のさらなる飛躍と、近藤先生が掲げる志の実現のカギを握るものとして挙げられるのが、1992年、兵庫県下の数校により立ち上げられた『全国商業高校進学懇話会』だ。

「この会は、進学指導に関わる情報を共有しようという思いから発足しました。限られた商業高校の進学実績が高いというだけでは、商業高校の生徒にとって大学に進学する重要なルートの一つである特別推薦入試枠を確保し続けることはできません。全国の商業高校が大学の期待に応える人物を育成し、より多くの生徒が特別推薦入試を利用することが重要なのです」

恒例となっている年に一度の集まりにおいては、商業高校のみといった参加条件は設けていない。紹介などによって輪が広がり続けており、進学指導において何らかの課題を抱えている高校の教員をはじめ、約80にものぼる教育機関や教育関連企業から総勢200名近くが参加する会へと発展を遂げた。

「私は第11回から運営に携わっており、毎回テーマを設定しています。2016年度に開催した第26回のテーマはキャリア教育。岡山県立倉敷南高校が実践する『倉敷町衆プロジェクト』に関する講演を実施しました。これは、倉敷の自治や文化を担ってきた町衆との連携のもと、地元が抱える課題の発見と解決に取り組むものです」

参加した教員の感想に、「すぐに実践してみたい」、「自分の学校に足りないものが見えた」、「たとえ導入するうえで困難があったとしても、諦めることなく実現に向けて行動する勇気がもらえた」といった前向きな意見が多く見られたことからも、この会の意義の高さが窺える。

「いかに広く情報共有し、互いに高め合えるかということを大事にしています。寄せられた感想には『元気になれた』という言葉も多く、情報をオープンにするということの大切さをあらためて実感することができました」

大学・社会にアピールできる 
次代の商業高校の在り方を追求

『全国商業高校進学懇話会』に参加する高校同士のつながりは、単に、年に1度集まるというだけにとどまらない。特筆すべきは、各大学・学部の推薦入試で出された小論文のテーマや面接での質問内容などをまとめた受験報告書を、必要に応じて提供し合っているということだ。

「互いにノウハウを隠すということは一切しません。『全国商業高校進学懇話会』に参加したどの高校が、どの大学・学部の受験報告書を持っているかをリストにまとめ、データとして共有しています。

もし、卒業生が受けたことのない大学を生徒が受けるとなった場合には、リストからその大学・学部に関する受験報告書を持っている高校を探して連絡し、受験報告書を見せてもらって、小論文や面接の対策を行っています。

新たな大学受験の導入に象徴されるように、これまでのように言われたことをきちんとこなすこと、決まったことを素早くやることが評価される時代ではなくなります。高校時代に何を取り組んだのかが問われるようになり、授業でどのようなことに挑戦し、その経験がどのような成果を生み、その成果を大学の学びにどのようにつなげていくのかということが重要視されるようになります。そして、その部分に対して商業高校だからこそできることがあるという自負もあります。

ただし、だからといって商業高校という枠にとらわれるのではなく、もっともっと広く共有していきたい。現在は「商業」という冠がありますが、いずれはそれをなくしたいと考えています。商業高校がこのような取り組みを通じて、密なネットワークを構築している。そう普通科にもアピールでき、普通科の高校にも参加したいと思ってもらえる会でありたいと思っています」

『全国商業高校進学懇話会』が、商業高校という枠を越え、生徒たちの新たな可能性を切り拓く原動力となることを期待したい。

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