EYE's Journal

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38-2

シリーズ38 新しい大学入試
Part.2 
入試改革2020レポート(後編)
思考力・判断力・表現力重視の入試に
志望動機の明確化や記述力養成も必要

駿台教育研究所 進学情報事業部 部長
石原 賢一 氏
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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2020年度(2021年度入試)から新たな大学入試制度が導入され、来年4月の高校入学者から、新たな制度のもとで大学を受験することになる。入試改革の意義、新たな入試の内容や実施方法、大学現場や高校現場の意見や対応策、新たな入試の行方や課題などについて、検証していく。

《 Part.1「入試改革2020レポート(前編)」からの続き 》

国立大個別試験は科目減の可能性も 
記述式はより高度な出題めざす

今回の入試改革は、センター試験に替えて評価テストを導入することだけではない。個別の大学ごとの入試も含めたトータルな改革をめざしている。では、各大学の個別試験はどのように変化することになるのだろうか。

「現時点では、評価テストの内容も明確ではないし、各大学も具体的な案を示しているわけではないので、個別試験全体がどう変わるのかはわかりません。ただ、国立大学については評価テストが一定以上の難易度になるようなら個別試験の科目数を減らすところが出てくる可能性はあります。

たとえば、ここ数年、国立大学の中には個別試験で英語を必須にするなど科目を増やすところが出てきています。これは、そういった大学を受験する生徒にとってセンター試験の問題は易しいので、大学が求める学力を備えているか評価しにくいからです。

もし、評価テストがそうした受験生の学力を評価するのに適した問題になれば、あえて個別試験を課す必要がなくなるので、評価テストだけで評価する科目が出てくると思います。それから、国立大学では記述力・論述力を試す問題が増えることになるでしょう。

国大協が昨年11月に表明した記述式問題に関する考え方の中で、共通試験(評価テスト)・個別試験を通して記述式試験を実施すること、個別試験では高度な記述式試験を課すことをめざすことが明示されています」

私大も評価テスト利用入試を実施へ
一般入試はAO入試的要素が加わる

では、私立大学の入試はどのように変わっていくのだろうか。

「私立大学の入試は、それほど大きくは変わらないと思います。評価テストも、現在のセンター試験利用入試のように活用することになるでしょう。評価テストは記述式など新しい要素が加わるので、評価テスト利用入試1型、2型など方式を増やすことも考えられます。

個別試験は、当面は変わらないのではないでしょうか。大きく変わるとすれば、CBTを導入してからでしょう。CBTなら選択肢による解答形式ではなく穴埋めによる解答形式が可能になりますから、出題自体が変わってくることが考えられます」

現在の大学入試では、推薦入試、AO入試も欠かせない存在で、大学によっては募集枠が大きいところもある。

高大接続システム改革会議の「最終報告」では、推薦入試、AO入試、一般入試とも学力の3要素を多面的・総合的に評価することができるように見直すことが提唱されている。そのとおりなら、推薦入試、AO入試、一般入試の境界線がこれまでよりもゆるやかなものになる可能性もあるが、その辺りを含めてどう変化していくと考えればいいのだろうか。

「現在の推薦入試、AO入試は二つに分かれていて、難易度の高い大学では学力も重視されています。そのためにセンター試験を使っているので、それが評価テストに置き換わるということだと思います。一方で難易度の高くない大学における推薦入試、AO入試は学力不問で、これはすぐには変わらないでしょう。

むしろ、一般入試の中にAO入試的な要素が入ってくるのではないかと考えられます。一般入試でも志望理由書や大学入学後の学習計画書などを提出させるところが増えてくるでしょう。といっても、すぐに受験生全員をそれで評価するということは選考に対する労力を考えると現実的ではありません。

たとえば、定員の9割までは評価テストや個別試験の成績で選抜し、1割については志望理由書、学習計画書、面接などを重視して選抜するといった方法になると思います。将来的にはそういった選抜の枠を拡大していく方向になっていくのではないでしょうか」

大学入学者選抜改革

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出典:文部科学省 高大接続システム改革会議「最終報告」PDF(平成28年3月31日)より

評価テストや個別試験が難化すると
受験生の私立志向が高まることも

評価テストを含む新たな入試制度のもとでは、内容次第で志願動向が変化する可能性もあるという。

「評価テストで思考力・判断力・表現力を重視する問題が多くなれば、全体としてセンター試験よりも難易度がアップする可能性があります。高大接続システム改革会議の『最終報告』でも、選抜性の高い大学(いわゆる難関大)でも充分活用できるように、問題の難易度は広範囲に設定するとされています。

さらに、国立大学は個別試験で国語の記述式が加わると思われるので、学費などメリットのある理科系は影響が少ないにしても、都市部では文科系は私立大学を志向する動きが出てくるかもしれません。

とくに評価テストの英語で4技能が必須になると、受験生の負担が大きいので、私立志向が高まることが想定されます」

「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」とそれらを評価する方法のイメージ例(たたき台)

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出典:文部科学省 高大接続システム改革会議「最終報告」PDF(平成28年3月31日)より

当面はセンター+記述式のイメージ 
志望動機の明確化と記述対策が重要

現時点では、まだ明らかになっていない部分もあるが、入試改革に向けた取り組みは進み、2020年度には評価テストを含めて新たな入試がスタートする。高校の現場では、新たな入試をどのようにとらえ、どのように対応したらいいのだろうか。

「生徒たちへの学習指導は、基本的にはこれまでと同様でいいと思います。共通テストが導入されても、少なくとも2023年度までは、まったく新しい試験が始まるというわけではなく、現在のセンター試験に国語や数学の記述問題が加わるというイメージでとらえればいいのではないでしょうか。もちろん、これまでとは異なる部分も出てきます。

一つは、志望動機をより明確にすることです。先ほどお話ししたように、一般入試でもAO入試的な要素が入ってくるので、なぜその大学・学部に進みたいのかを生徒が自分自身の言葉でしっかり語ることができるようにしておくが必要です。

もう一つは記述式問題への対応です。とくに現代の高校生は日常生活においても、自分で文字を書いて何かを伝えるという習慣がありません。ですから、教科にかかわることや学校生活にかかわることなどで文章を書く機会を設けてあげるようにするといいのではないでしょうか。

自分の考えをまとめ、それを文章として書くことは、表現する力が身につくだけでなく、学力の向上にもつながっていくのではないかと思います」

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