EYE's Journal

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38-7

シリーズ38 新しい大学入試
Part.7 
文部科学省に聞く
今後の動向と高校の対応(前編)
試行調査検証し共通テストに反映
生徒の学力三要素育む教育を

文部科学省 高等教育局高等教育企画課 専門官
大塚 千尋(おおつか・ちひろ)
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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今年4月の高校入学者から、2020年度実施の大学入学共通テストを受けることになる。昨年11月には試行調査(プレテスト)も実施された。新しい大学入試はもう動き出したといっても過言ではない。そこで、文部科学省で高大接続改革を担当する大塚千尋専門官に、試行調査の評価、今後のスケジュール、高校における対応のあり方などについて話を伺った(全2回)。

試行調査に1,889校が参加 
作問や採点体制などをチェック

▲大塚 千尋 氏

昨年11月、2020年度からの「大学入学共通テスト(共通テスト)」実施に向けた重要なステップとして「試行調査(プレテスト)」が行われた。この試行調査について大塚専門官は次のように説明する。

「試行調査は、大学入試改革の狙いを反映できるようなマークシート式問題や記述式問題の作問、正答率、解答の傾向、採点基準、採点体制、採点期間などを検証するためのものです。いわゆる模擬試験のような性格ではなく正式名称のとおり『試行調査』ということになります。

そのため、地域も学力も幅広く分布するように、大学入試センターが全国から参加を募り、1,889校の高校および中等教育学校にご協力いただいて実施することができました」

実施科目は、大きく①記述式+マーク式(国語、数学Ⅰ・数学A)、②マーク式(世界史B、日本史B、地理B、現代社会、数学Ⅱ・数学B、物理、化学、生物、地学)に分かれている。このうち、①については記述式を取り入れるということもあって5万人規模を予定していたが、想定以上の参加者数になった。

「多くの高校から参加希望を頂いたことを踏まえ、国語は約6万5,000人、数学は約5万4,000人の高校生に参加していただきました。今回の試行調査では特に記述式の採点等について検証するため、国語と数学Ⅰ・数学Aについて多くの高校生に協力いただきましたが、マーク式だけの教科は、履修者が少ない科目もあることなどから、1科目あたりの参加者は約700人から1万6,000人になっています」

英語だけは別日程で、今年2月に実施される予定だ。

「英語については、2020年度から民間の資格・検定試験による4技能評価に全面的に移行する案と、大学入試センターが作成する試験も2023年度まで継続して実施する案があったので、結論が出るまで準備にとりかかれなかったためです。

2月の試行調査は大学入試センターが作問し、読む・聞くの2技能を問うマーク式のものになります。そのため、受検者数は11月の国語や数学Ⅰ・数学Aほどには多く想定しておらず、5,000人規模を想定しつつ、センターで検討を進めているところです」

今回の試行調査は、配点がなく、事前に難易度の設定もしていないという。

「模擬試験ではなく、設問に対して受検者がどのぐらい正答できるか確かめるのが目的の1つなので、どの科目も配点というものは設けていません。

難易度については、センター試験の場合は平均正答率が6割程度になるように設定していますが、今回の試行調査では、そういう設定は一切行っていません。

学力の三要素のうち、十分な知識を活用しつつ思考力・判断力・表現力を発揮して解く問題、知識の理解の質を問う問題にすることを考えて作問しています。設問の情報量が多くなっていることもあり、結果的には、難しいと感じられた生徒さんも多いようです。

そのため、正答率をまず速報値でお出ししますが、センター試験に比べると低めの傾向になる可能性はあります。(注…取材は速報値発表の直前だったので、発言は速報値が出ていない状況でのもの。以下同)」

正答率はセンターより低め 
記述式は多層的な採点体制

試行調査の速報値は12月4日に大学入試センターから公表された。これはマーク式だけが対象で、11月27日時点までに読み取れた解答分の数値になっている。

各科目の設問(小問)ごとの正答率は0.9%~87.1%となっていて、これまでのセンター試験と比べると、やや低めの傾向になったとみられている。

試行調査では、結果をどのように評価するのかが重要なテーマになっているが、評価のポイントのうち設問そのものについてはどうお考えなのか伺ってみた。

「今回の作問は、平均正答率は設定せず、問題のねらいを重視したものとなっています。そのため、正答率が低くなる可能性はあります。あまりに正答率が低い問題は実際の共通テストでは多く出題することは難しいかと思いますが、全部が使えないということでもないと思います。

たとえば、問いの聞き方を変えるとか、マーク式の選択肢の使い方を変えるとか、工夫をすれば実際の共通テストでも出題できうるような問題になり得ます。

ですから、正答率の数値だけで判断するのではなく、同時に行った、テスト内容に対するアンケートも照らし合わせながら、今回の結果を評価して、2020年度からの実際の共通テストで使うにはどういった作問をしていけばいいのか、検討していきたいと考えています」

記述式問題については、どのような内容になるのかということだけでなく、公平な採点が可能なのかということも非常に重要な課題になっている。試行調査では、この点をどのようにチェックし、評価しようとしているのだろうか。

「記述式については、採点が公平にできるのかという懸念を各方面から伺っています。ですから、このチェックというのは非常に重要な意味があると考えています。

今回の試行調査では、多層的な採点体制をとっています。具体的にいうと、採点者は全部で1,000人です。まず、最初に採点をする層で、採点基準を基に正解か不正解かなどを判断しますが、その判断に迷いが生じた場合には、1つ上の層の採点者に上げていきます。最上位の採点者でも判断が難しい場合には最終的には内部協議を行って方針を検討します。

こうした体制で採点がうまく進められるか、そして、採点にはどのぐらいの期間が必要かといったことをチェックしていきます」

2回目は今年11月に実施 
規模は10万人に拡大

今回の試行調査の評価は、まず今年11月に実施予定の2回目の試行調査に反映していくことになる。

「作問については、生徒さんの解答やアンケートから課題や改善すべき点などを洗い出して、2回目の試行調査ではより実際の共通テストに近づけるようなものにしていきたいと考えています。

記述式の採点についても、採点基準、採点体制の見直しを行って2回目の試行調査に備えたいと思います。そうして、2回目の結果を踏まえて、またチェックと評価、改善を行い、2020年度の共通テスト実施につなげていきます」

2回目の試行調査は規模を拡大して行うことになっている。

高校2年生以上が対象のA日程と原則3年生対象のB日程に分けて行われ、A日程は11月10日、B日程は11月10日と11日に実施。両日程で10万人規模、このうちA日程で8万人規模を見込んでいる(詳細は下記表参照)。

《 次回は Part.8「今後の動向と高校の対応(後編)」です。 》

平成30年度 試行調査(プレテスト)計画

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出典:独立行政法人 大学入試センター

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