第7回 Part.4

2007-11-12UP

多様な惑星系の統一的な形成理論を追究(4)


東京工業大学大学院 理工学研究科
井田 茂研究室

第10回
ヒートアイランドや都市型強雨の実態を解明
《首都大学東京大学院 都市環境科学研究科  高橋日出男気候学研究室》
Part.1
Part.2
Part.3
Part.4

第9回
「超能力」を題材に心の不思議に迫る
《明治大学 情報コミュニケーション学部 石川幹人研究室》
Part.1

Part.2
Part.3
Part.4


第8回
食品のおいしさや健康効果を探る
《実践女子大学 生活科学部 田島眞研究室》
Part.1

Part.2
Part.3
Part.4


第7回
多様な惑星系の統一的な形成理論を追究
《東京工業大学大学院 理工学研究科 井田 茂研究室》
Part.1

Part.2
Part.3
Part.4


第6回
化石を通じて未来の環境変動を予測
《早稲田大学 教育学部地球科学教室 平野弘道研究室》
Part.1
Part.2
Part.3
Part.4


第5回
対象地域に継続的にかかわりながら人を中心に据えたまちづくりを研究
《埼玉大学 教養学部 梶島邦江研究室》
Part.1
Part.2
Part.3
Part.4


『新・研究室はオモシロイ』(全16回)
雑誌「ドリコムアイ」に掲載された記事をPDFファイルでご覧いただけます。

月が巨大衝突でできたことを
世界で初めて理論的に証明


 井田先生は、月にも着目し、月がどのようにして形成されたのかをシミュレーションで明らかにしている。

 月はもっとも身近な天体だが、その起源がわかってきたのは最近のことだそうだ。月の起源については、古典的な説が3つあった。それは、(1)原始地球が形成されるときに高速回転して、遠心力で外層部がはがれて月ができたとする「分裂説(親子説)」、(2)地球の連星として微惑星から集積したという「共成長説(姉妹説)」、(3)近くで微惑星から集積した月が地球のそばを通過するとき捕まったとする「捕獲説(他人説)」、の3つだ。

 しかし、いずれの説も1970年代後半までに否定され、その後「巨大衝突説」が登場した。これは、原始地球に火星ぐらいの大きさの原始惑星が衝突し、その原始惑星が破壊されて撒き散らされた破片から月が集積された、というものだ。ただ、井田先生は、巨大衝突説には懐疑的だった。

「巨大衝突によって破片が散らばるにしても、木星や土星のように小型の衛星が複数できるのではないか、都合よく1つにまとまって月のような大型の衛星ができるのだろうか、と思いました。それで、巨大衝突説を否定的に検証するつもりでシミュレーションに取り組んだのです」

 ところが、思わぬ結果が待ち受けていた。シミュレーションの結果、実に簡単に月ができてしまうことがわかったのだ。

 原始地球に衝突した別の原始惑星は、破片となって地球の周囲に円盤を形成する。しかし、地球中心から地球半径の約3倍以内の「Roche(ロッシェ)限界」と呼ばれる領域では、地球の潮汐力(物体の近い側と遠い側に働く重力の差によって物体を引き伸ばす力のこと。潮の満ち引きは月の潮汐力によって起きる)が破片同士の重力より大きいため破片同士はくっつくことができず、天体は集積されない。




井田 茂
(いだ しげる)
1960年生まれ。京都大学理学部卒業。東京大学大学院地球物理学専攻修了。理学博士。1993年から東京工業大学理学部地球惑星科学科助教授。2006年から現職。この間、1995年から1997年までカリフォルニア大学サンタクルーズ校、コロラド大学ボルダー校で客員研究員。主な著書に『惑星学が解いた宇宙の謎』(洋泉社)『異形の惑星』(日本放送出版協会)『一億個の地球』(共著/岩波科学ライブラリー)『系外惑星』(東京大学出版会)などがある。

 シミュレーションでは、破片の大部分はロッシェ限界内に飛び散って円盤になる。このままでは月はできない。しかし、円盤は渦巻状になり、円盤外部に筋のように伸びる部分から破片がロッシェ限界の外に振り飛ばされる。

 ロッシェ限界の外では、破片同士が重力でくっついて月の「種」ができる。その「種」はロッシェ限界の外に飛ばされてくる破片を次々に捕まえ、やがて月ができる。しかも、月ができる時間は、わすか1か月から1年であることも明らかになった。

 この研究成果は『ネイチャー』誌に発表され、巨大衝突説に世界で初めて理論的根拠を与える業績となった。


▲「月の起源」

共同体として知識を積み重ねる
基礎科学研究のおもしろさ


 幅広い視点で惑星系形成の研究を進めている井田先生だが、基礎科学研究の魅力、おもしろさとはどのようなものなのかをうかがってみた。

「基礎科学は、すぐに社会に役立つというものではないかもしれませんが、人類にとって進化のモチベーションになっているものだと思います。

 そういう基礎科学の研究では、自分が知らなかったことがどんどんわかってくるところが魅力ですね。それによって、自分の視野がどんどん広がっていきます。それは、自分個人の問題にとどまりません。科学は共同体としての知識の積み重ねですから、自分の視野が広がれば、それはほかの人に伝わり、ほかの人の視野が広がれば、それは私に伝わります。

 とくに、私がかかわっている分野は非常に進展が早く、新しいデータや新しい考え方が次々に出てきますが、いまは、インターネットが発達しているので、そうした情報をリアルタイムで発信したり収集したりすることができます。そうして世界中の、ライバルであり同志でもある研究者の考えていることをリアルタイムで知り、そこに自分も加わって、全体としていろいろなことがわかっていく。そこが非常におもしろいですね」

 情報のやりとりは、インターネットを介してのものだけではない。井田先生は今年の夏だけでも、ギリシャ、アメリカ、フランスを飛び回り、ライバルであり同志でもある研究者と情報交換をしたり議論をしたりしている。

 そうした世界レベルでの研究者との交流や観測チームとの連携なども踏まえて、井田先生のめざす統一的な惑星系形成理論が、これからどのように進展していくのか、大いに注目される。





【用語解説】
『ウィキペディア 日本語版』2007年10月19日(金)掲載の最新版から引用(http://ja.wikipedia.org/

惑星系(わくせいけい):恒星を中心として、その周りを公転する惑星などの天体の集まりのこと。地球が属する太陽系は惑星系の1つ。近年、太陽近傍の恒星に、その周りを公転する惑星があることが発見され始め、その数は200を超えている。

太陽系(たいようけい):銀河系に多数存在する惑星系の一つ。太陽および太陽の周囲を公転する天体と微粒子、さらに太陽活動が環境を決定する主要因となる空間から構成される領域をいう。

恒星(こうせい):主に水素、ヘリウムの核融合エネルギーにより自ら輝く天体。恒星内では、核融合による光子などの放射と熱膨張による拡張する力と、原子同士の引力の収縮力がバランスをとっている。このバランスが崩れると、恒星は不安定期を迎え、天体としての寿命を終える。晩年はその質量によって異なる運命をたどる。太陽も恒星の1つ。

惑星(わくせい):太陽など恒星の周りを回る天体のうち、褐色矮星の理論的下限質量(木星質量の十数倍)程度よりも低質量のもの。地球、木星、天王星など。



▲太陽系の主要天体の直径と質量


■東京工業大学
http://www.titech.ac.jp/

■井田研究室
http://www.geo.titech.ac.jp/lab/ida/

■武蔵野美術大学 映像学科 三浦均研究室
http://godard.musabi.ac.jp/miura/