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第2回 Part.1

第2回 バイオインフォマティクスでゲノム創薬への道を切り開く(1)
Part.1
ヒトゲノム計画のなかで登場した
バイオインフォマティクス

東京理科大学 薬学部
生命創薬科学科 宮崎 智研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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ATGC。この4文字が私たち人間(およびほかの生物)の生命現象を左右している…。といっても、もちろんオカルト的な話などではない。科学、それも最先端科学の話だ。ATGCは、DNAを構成する4つの塩基のこと。Aはアデニン、Tはチミン、Gはグアニン、Cはシトシン。このうちAとT、GとCが対(塩基対)になり、二重らせん構造の段の部分を形成している。そして、その文字(実態である塩基)の配列が遺伝情報であり、生命現象を決定しているのだ。
人間の場合、全遺伝情報(ゲノム)を解読するヒトゲノム計画が一通り完了し、遺伝情報の全体像がぼんやりと浮かび上がりつつある。そして、ヒトゲノム計画を通じてもう1つ浮かび上がってきたものがある。それはバイオインフォマティクス。ゲノムのような膨大な生物情報をコンピュータを駆使して解析する新しい学問領域だ。そこで今回は、日本ではまだそれほど多くないバイオインフォマティクス専門の研究室である東京理科大の宮崎研究室の宮崎智教授を訪ね、どのような研究が行われているのか教えていただくことにした。(Part.1/全4回)

ゲノムなど膨大な生物情報をコンピュータで解析

▲宮崎 智 教授

まず、そもそもバイオインフォマティクスとはどのような学問なのか、そこからわかりやすく教えていただくことにしよう。

「バイオインフォマティクスは、バイオロジー(生物学)とインフォマティクス(情報科学)を組み合わせた造語で、ヒトゲノム計画が起点になって生まれたものです。これまでの生物学は、遺伝子レベルであれ、個体レベルであれ、ビーカーや試験管などを使って観察や実験を行い、その結果を基に生命現象を解明することが主体でした。ところが、ヒトゲノム計画が動き出したことによって様相が変わってきました。

ヒトゲノム計画は、遺伝情報を遺伝子ごとにたどりながら調べていくのではなく、とにかく情報を全部集めてみよう、という発想なのです。遺伝子は、タンパク質をつくる設計図のようなものですが、その設計図を全部決めようということです。家の設計図にたとえるなら、少しずつ図面を描いて完成させていくのではなく、設計図に含まれる要素をバラバラでもいいから網羅的に決めてしまおうということなのです。

ただ、その情報量は膨大なものになり、人間が処理できるレベルを超えています。そこで、膨大なデータを解析するためにコンピュータを活用することになったのです。つまり、コンピュータを駆使して、網羅的な情報からバイオロジーの新しい知見を得るのがバイオインフォマティクスなのです」

病気に関わる遺伝子の解明が
ゲノム創薬につながる

宮崎先生の研究室は薬学部に所属しているが、バイオインフォマティクスは薬学とはどのようにかかわっているのだろうか?

「ヒトゲノムの研究には、生命現象を解明するだけでなく、その成果を医療や人間生活の向上に役立てようという側面もあります。具体的にいうと、ヒトゲノム情報を病気の治療や予防につなげようというところに関心が向いていて、薬学に直接結びついています。

遺伝子はタンパク質をつくる設計図ですから、病気にかかわる遺伝子が見つかれば、どんなタンパク質がつくられるか想像することができます。そうすると、そのタンパク質をブロックする薬をつくれば、病気の治療や予防の道が開けます。究極的には、特定の人のタンパク質に合った薬をデザインすることも可能になるでしょう。

このように、ゲノムの研究から得られた成果を創薬につなげていくことをゲノム創薬と呼んでいます。ゲノム創薬は、薬学のなかで非常に重要なテーマになってきていて、その研究のためにはバイオインフォマティクスが欠かせないのです」

《つづく》

●次回は「ゲノム情報が格納されたデータベースについて」です。

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