研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第9回 Part.4

第9回 「超能力」を題材に心の不思議に迫る(4)
Part.4
念力(PK=サイコキネシス)
実験について

明治大学
情報コミュニケーション学部 石川 幹人研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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これだけ科学が発達しても(あるいは発達したからこそ)科学の光が届かない未知なるものへの関心(あるいは期待)を抱く人は少なくない。これは一般社会での話だが、学問の世界でも、通常の科学では説明できない現象を研究する超心理学というジャンルがある。
今回は、情報学を専門としながら超心理学にかかわる研究にも取り組んでいる明治大学・情報コミュニケーション学部の石川幹人先生の研究室を訪ねた。(Part.4/全4回)

前回は、透視、テレパシー、予知など、ESP(超感覚的知覚)の具体的な実験について話した。今回は、先生のもう1つの実験テーマである念力(PK=サイコキネシス)実験について伺う。

微細な物理現象に念力が働くか
乱数発生器を使って実験

石川先生はPKの実験も進めている。この実験は、予知実験でも使用している乱数発生器に念力が作用するか、というものだ。

「大勢の人が騒いだり、感情が高揚したりすると、乱数発生器から出る乱数に偏りが生じるという仮説があるのです。

乱数発生器は0と1をランダムに発生させますが、0101と均等になるわけではなく、000、111というように、ときどき0が集中したり1が集中したりします。それは、通常は統計的なバラツキの範囲に収まっていますが、その範囲を超えて0が集中したり、1が集中したりすることがあり、それは多くの人の感情がかきたてられるようなときに起こるとされています」

こうした現象を世界レベルで研究するため、1997年からアメリカのプリンストン大学で「地球意識プロジェクト」がスタートした。プリンストン大学では長年、乱数発生器への念力作用の実験が行われていて、大勢の人が集まる場で乱数に偏りが出る傾向が明らかになっている。そこで、実験を地球規模に拡大したプロジェクトを発足させたのだ。

この実験では、世界各地に乱数発生器とコンピュータを接続したシステムを配置し、乱数のデータをインターネット経由でプリンストン大学のサーバに蓄積している。現在は世界に約100台の端末があり、日本では1台だけ石川先生の研究室にある。

このプロジェクトでは、大きな出来事があったときに乱数の偏りが検出されている。たとえば、2001年9月11日のアメリカでの同時多発テロ当日は、その前後60日間と比べて明らかに偏ったデータが記録されている。一方で、2004年12月のスマトラ島沖地震のときには偏りは検出されていない。ただ、約10年間の全体を通して見ると、大きな出来事があったときに乱数が偏る傾向が明らかになっているという。

ねぶた祭や東京ドームで
乱数の偏りを検出

石川先生は、このプロジェクトに参加するとともに、乱数発生器を使って個別の実験も行っている。

「共同研究をしている明治大学の人類学の先生が、ねぶた祭に出向いて実験をしたのですが、乱数に偏りが出ました。この実験結果は超心理学の国際会議で共同発表しました。それとは別に、私は東京ドームで野球の試合中のデータを集めました。何時何分にチェンジになったかという試合の流れも記録して、データと照合したのですが、やはり乱数に偏りが出ました。ただ、それ以外の場所で実験したときに偏りが見られないケースもありましたので、さらに実験を重ねていく必要があると思っています」

今後は、人が多く集まり、その場が沸くときと静かなときがハッキリしているような場所で実験することを考えているそうだ。

機械とは異なる心の働きに超心理学でアプローチ

超心理学は、超能力を中心とする特異現象を研究対象としているが、通常の心理学と同様に、人間の心にかかわる研究だ。取材の最後に、超心理学の研究を人間の心の理解にどうつなげていくのか、うかがってみた。

「超心理学は、まさに心の科学だといえるでしょう。いま、通常の心理学の本流は行動科学です。人間の行動を外から見て、こういう刺激を与えたら、こういう行動をするという理解の仕方で、心の内的状態は括弧にくるむようにして問題にしていません。

また、モノの科学が発展したので、自然科学者はモノだけで世界は成り立っていると考えがちになっています。そういう科学の方法論で生理学や脳科学の研究が進んでいますから、人間の心というのは幻想であって、脳が働いているだけだと見る傾向が強くなっています。それが進展すると結局、私たち人間は機械に過ぎないという悲しい結論に至ってしまいます。

しかし、人間は自分の意志で手を動かそうと思って手を動かします。実は、いまの自然科学ではこれがうまく説明できないのです。物理課程に心理過程は介入できないとされていますので、脳内で手を動かすための信号が出て機械的に手が動き、それを自分が動かしたと思っているにすぎないという説明になってしまいます。これは随伴現象説といわれるもので、主体的な意識は存在しないとする、きわめてさびしい哲学的立場の1つです。

やはり、心の科学には、人間の意志が手を動かしているのだということを合理的に説明できる研究アプローチが必要であり、超心理学研究をそのようなアプローチにつなげていきたいと考えています」

石川先生が明治大学の学生を対象に行った調査では、程度の差はあっても超能力の存在について肯定的に考える人は約6割を占めている。国内外の同様な調査でも、大体6割が肯定派だという。

しかし、通常の科学の世界では、いまでも超能力の研究はタブー視されているそうで、石川先生は「科学の方法論に沿って厳密な研究をしていても、何か怪しいことをしているように思われてしまいます」と苦笑する。

石川先生の研究が、超能力の真偽というレベルを超えて、科学のあり方や人間の心の不思議にどのように迫っていくのか、今後の展開が注目される。

石川 幹人(いしかわ まさと)
1959年、東京都生まれ。東京工業大学理学部卒業。同大学院物理情報工学専攻、松下電器産業マルチメディアシステム研究所、財団法人新世代コンピュータ技術開発機構研究所などを経て1997年、明治大学文学部助教授。博士(工学)。2004年から現職。主な著書に『心と認知の情報学』(勁草書房)『入門 マインドサイエンスの思想』(共編著/新曜社)『心とは何か 心理学と諸科学との対話』(共編著/北大路書房)などがある。

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