研究室はオモシロイ

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第12回 Part.1

第12回 対話型コンピュータの実現をめざす(1)
Part.1
人間とコンピュータを結びつける
親切な会話エージェント

成蹊大学
理工学部情報科学科 中野 有紀子研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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私たちの生活や仕事にはコンピュータが欠かせなくなってきた。しかし、あらためて考えてみると、コンピュータの操作にキーボードやマウスがほぼ必須なのは、いつまで経っても変わらない。近未来を舞台にした映画や小説のように、人間が話しかけるとコンピュータが返事をしてくれるようになる時代はまだ遠いのだろうか。今回は、アニメーションキャラクターなどを活用した、人間とコンピュータのより自然なインタラクション(相互のやりとり)の研究をしている成蹊大学理工学部情報科学科の中野有紀子先生の研究室を訪ねてみた。(Part.1/全5回)

▲中野 有紀子 准教授

まず、最初に、中野先生がこうした研究に取り組んでいる背景や目的から教えていただこう。

「いま、あらゆるジャンルでコンピュータが重要性を増し、使わない人が珍しいくらいになっています。でも、コンピュータは使いやすくなっているかというと、疑問もあります。『情報弱者』という言葉がありますが、コンピュータが苦手な人、使ったことがない人にとって、コンピュータの操作はまだまだ難しいと思います。

そこで、たとえば人間の言葉を理解できるアニメーションキャラクターが人間と会話しながら操作の説明をしたり、情報を提供してくれたりすれば、コンピュータはもっと使いやすくなるのではないかと考えました。そういうものを会話エージェントと呼ぶのですが、会話エージェントによる究極のユーザインタフェース(ユーザーとコンピュータが情報をやりとりする装置や方法)の実現をめざしているのです」

エージェントというのは、情報科学、とくに人工知能の分野でよく使われる言葉だ。この言葉自体はもともと「代理人」とか「動作主」といった意味があるが、その両方の要素を持ち、人間とコンピュータの仲介役として自律的に動くのが会話エージェントだ。

コミュニケーションを促進する
アニメーションキャラクター

会話エージェントは、カタチを持たないプログラムだけの場合もあるが、中野先生はアニメーションキャラクターにすることを重視している。

「人間とコンピュータとの対話は、音声だけでも可能ですが、アニメーションキャラクターを使うことで、コミュニケーションがより正確でスムーズになることが期待できるのです。

人間とコンピュータのインタラクションにはいくつかの段階があります。まず、キーボードから入力するテキストベースでのやりとりがあり、これは人間同士だと電子メールやチャットに相当します。次に、音声認識や音声合成による音声対応システムがあり、これは人間同士だと電話での会話といえるでしょう。そして、私たちがめざしているのが、人間とアニメーションキャラクターの会話で、これは人間同士の対面会話と同様のものです。

アニメーションキャラクターを使うメリットの1つに直感性があります。アニメーションキャラクターとの会話は、人間同士の会話と同じ感覚で進めることができるので、話がわかりやすくなります。

それから、コミュニケーションとしての頑健性があります。アニメーションキャラクターは、言葉に表情や身振りなどが加わり、コミュニケーションのモダリティ(様式)が多くなるので、話の意味をより正確に理解することができるのです」

中野先生によると、アニメーションキャラクターを使った会話エージェントの研究は、まだ新しい分野だ。2000年前後にコンピュータグラフィックスの技術が格段に向上したことが大きな要因になって、研究が加速するようになった。いまでは、リアルなアニメーションキャラクターを比較的手軽につくって研究に活用することができるそうだ。

最近の具体的な研究例としては、「操作説明のためのヘルプエージェント」「ユーザーの態度に気づく会話エージェント」「異文化コミュニケーションを支援する会話エージェント」「没入型環境におけるガイドエージェント」などがある。それぞれどのようなものなのか、具体的な内容を教えていただくことにしよう。

《つづく》

●次回は「アニメーションキャラクターを使った会話エージェントの具体的な研究内容について」です。

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