研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第15回 Part.2

第15回 風力など新エネルギー導入促進の技術を探る(2)
Part.2
風力発電機を大量導入し、
CO排出量を削減するには?

工学院大学
工学部 電気システム工学科 荒井 純一研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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地球温暖化対策は、いまや人類共通の課題だ。なかでもCO(二酸化炭素)排出量が多い電力分野では、風力や太陽光などCOを出さない新エネルギーの導入が期待されている。とはいえ、風力発電の発電量は、まだごくわずかだといわれている。では、社会的な期待が大きいにもかかわらず、風力発電など新エネルギーの導入がそれほど進んでいないのはなぜだろうか?
その疑問の答えを探るため、今回は風力発電など新エネルギーを中心に電力の安定供給につながる技術を研究している工学院大学工学部電気システム工学科の荒井純一先生の研究室を訪ね、新エネルギーの導入が進んでいない理由、導入促進のための技術課題、その課題の解決をめざして取り組んでいる研究内容などについて話を伺うことにした。(Part.2/全4回)

風力発電機を大量導入するために
電力会社側の対策に着目

▲荒井 純一 主任教授

今回は、風力発電機を大量導入するための電力会社の対策について伺ってみよう。

荒井先生は、風力発電にかかわるテーマの1つとして、風力発電機を大量導入するための研究に取り組んでいる。これは、風力発電の電力を導入する電力会社側の対策を研究するものだが、なぜこのテーマに着目したのか、そこから教えていただくことにしよう。

「風力発電事業者が風力発電機を大量導入するということは、そのまま風力発電量を増やすことにつながります。それが実現できれば、火力発電を減らしてCO排出量を削減することも可能になります。

ただ、お話ししたように、風力発電を現在の電力システムにつなげる場合、電圧や周波数の変動を考慮しないといけません。風力発電の量が少ないうちはほとんど問題はないのですが、増えてくるとその影響を無視できなくなります。つまり、大量導入するためには電力会社側でも何らかの対策が不可欠になるのです。

そこで、風力発電による大量の電力を導入しても周波数の変動を抑えることができる方法を探り、風力発電の普及を促進していきたいと考えているのです」

風力発電量の変化による
周波数の変動が問題に

電圧と周波数のうち、電圧については比較的制御しやすいため、大学の研究室に期待されている技術課題として、周波数の変動を制御することに焦点をあてているそうだ。

「周波数の変動は、クルマの走行にたとえるとわかりやすいかもしれませんね。クルマが平坦な道路を一定の速度で走っているとしましょう。それが上り坂にさしかかると、そのままではスピードが落ちるのでアクセルを踏む。下り坂になると加速してしまうのでアクセルを戻す。そうすることで一定のスピードに保つことができます。

電気でいうと、上り坂は昼間に電力消費が増える状態のことで、そのままだと周波数は下がります。下り坂は夜間に電力消費が減る状態のことで、そのままだと周波数は上がります。そのため、電力会社では電力消費が増えると発電量を増やし、電力消費が減ると発電量を減らすという制御をして、周波数を一定に保っています。それも過去のデータから翌日の電力消費量の推移を予測し、リアルタイムでも周波数の変動を検出しながら非常に緻密で精度の高い制御を行っているのです。

そういうシステムに風力発電の電力がたくさん入ってくる。しかも、その量は風速で変動する。これでは周波数の制御が難しくなります。実際に電力会社では、いまのシステムでは風力発電はこのくらいまでしか導入できません、ということをいっています。しかし、それでは世の中全体としてハッピーにならない。やはり、風力発電の導入量が増えても周波数の変動を制御できるようにして、風力発電量を増やしていくことが必要なのです」

広域から発電機1台まで
シミュレーションで検証

荒井先生は、このテーマを含めて研究手段としてはコンピュータによるシミュレーションを採用している。これには理由がある。まず、発電所などの現場で実験することはできないという制約がある。もう1つの理由は、電気回路の働きや電気の動きは基本的に数式で表すことができるということだ。たとえば、発電電力の変動が電圧や周波数にどのような影響をおよぼすかといった問題も、数式に数値を入れて計算すれば現実と同等の結果を求めることができる。つまり、シミュレーションは電力システムの研究をするうえで非常に有効な手段になるわけだ。

「このシミュレーションは、電力にかかわるさまざまな課題を探るため、関東地方や東日本といった広域的な電力ネットワークから発電機1台まで、テーマに応じた設定で研究を進めることができるようになっています。

現在は、さまざまなパターンのシミュレーションで、風力発電の導入による周波数の変動を明らかにしていきながら、その変動を制御する方法を探っている段階です」

では、制御する方法として、荒井先生はどのようなものを想定しているのだろうか?

「現時点では2つの方法を考えています。1つは、いまある発電機に少し手を加えるという方法です。発電機は、電力ネットワークの周波数を一定にするために、電力消費に応じて発電量をコントロールする制御機能を持っています。そこに、風力発電の電力による周波数の変動も制御できるような機能を追加するのです。これなら現在のものを少し変えればいいので、コストが安い。ただ、風の変動は速いため、風力発電の電力が大量に入ってきたとき、この方法で周波数を制御するのは難しい面もあると思います。そういう点も考慮しながら、シミュレーションによって実現の可能性を検証していきます。

もう1つは、新しい装置、たとえば電力貯蔵装置を使う方法です。風力発電で入ってくる電力が増えたときにはその電力を貯め、減ったときには電力を出す。そうすれば電力の変動自体が少なくなるので周波数の変動を抑えることができます。電力貯蔵装置として代表的なものはバッテリーですが、いまはまだコストが高い。それでも、電気自動車の普及などによって10年後ぐらいにはバッテリーのコストが安くなるでしょう。そうなるとこの方法は有効だと思います。

ただ、バッテリー以外にも電気を貯えることができるものがあり、それぞれに特性が異なります。そのなかでどれがいいのかということも含めて、さまざまな可能性をシミュレーションで探り、数値的な裏付けもしたうえで、よりよい方法を提案していきたいと考えています」

《つづく》

●次回は「風力発電の電力出力平準化の研究について」です。

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