第18回 Part.2

「音の風景」から環境や文化を考察(2)


青山学院大学 総合文化政策学部
鳥越 けい子 教授
※部署名、役職名、研究内容などは取材当時のものです
更新::2012/03/19

前回はサウンドスケープの研究対象が文化や生活、環境、都市、社会、芸術、メディアなど、さまざまな領域にわたっており、主にフィールドワークによって研究が進められているという話をした。今回は、それらのフィールドワークを生かしたプロジェクトについて、鳥越先生に伺ってみよう。

テーマを設定してまちを歩く
サウンドウォークを実施

 鳥越先生の研究室で取り組んでいるプロジェクトのうちメインの1つに、渋谷の百軒店(ひゃっけんだな)というエリアを地域の文化資源としてとらえ、保存、再生、利用を図っていくことがある。

このプロジェクトは、総合文化政策学部がスタートした2008年度から動き出しているが、ゼミやラボが2009年度から始まることを踏まえて、2008年秋に「渋谷サウンドウォーク2008」というイベントを実施している。これは、サウンドスケープ研究の手法の1つである「音聴き歩き」をイベント化したものだというが、どのようなものだったのだろうか。

「路上観察学という言葉があるように、まち歩きはすでに市民権を獲得していますが、それは主に目で見て歩くものです。でも、都市の風景をつくっているのは目に見えるものだけではありません、通りを走るクルマの音、道行く人々の話し声、鳥の鳴き声、風の音、そのほかのさまざまな音も都市の風景の重要な要素です。

私は、音を含めた全身感覚による観察が大事だと考えて『感察』という言葉を使っているのですが、音の風景をテーマに渋谷のまちを歩いて『感察』するプログラムをつくり、一般の方に参加していただいたのです」

文豪たちが「音」を聴いた場所で
都市の変貌や未来を考える

このときは、ハチ公前広場、「109」、渋谷センター街、東急百貨店本店など渋谷を代表するようなスポットとともに、文豪たちにゆかりの場所を訪れることを目的にしていたそうだ。

「渋谷には明治時代から、与謝野鉄幹、与謝野晶子、田山花袋、国木田独歩、竹久夢二などの文豪が住んでいて、それぞれの作品のなかには当時の渋谷の様子、それも音の風景にかかわることが書かれているのです。そういう文豪たちの住まい跡や作品に出てくる場所を訪ねて、文豪たちがかつて聴いていた音に思いを馳せ、そこから渋谷の現在の姿や未来について考えてみることを目的の1つとしたのです」

文豪ゆかりの場所は、ただそこにいくだけでなく、作品のなかでその場所について書かれた部分を現地で読んでみるようにしたという。

「渋谷駅西側の道玄坂には与謝野鉄幹と晶子の住居跡があり、作品にはそこで鶏の鳴き声や栗の木がざわざわと風に揺れる音が聴こえたという記述があります。道玄坂の少し西の宇田川町には竹久夢二の住居跡があって、近くには温泉にいったみたいだと作品に書かれた銭湯があり、川の流れる音が聞こえたという記述があります。その川は町名にもなっている宇田川ですが、いまは暗渠になってしまっています。原宿寄りのNHKのすぐそばには国木田独歩の住居跡があり、明治30年の秋に、独歩がそこで武蔵野の雑木林の音を聴いている記述があります。

こうした記述を現地で読んで当時に思いを馳せるとともに、当時と現在との違いを実感することで、渋谷というまち、さらには東京という都市がどのように変貌してきたのかを考えることにつなげたいと思ったのです」

鳥越先生は、音聴き歩き(リスニングウォーク)やそれを発展させたサウンドウォーク(音の散歩)をゼミの指導にも取り入れている。

「3年生は今、カフェ、教会や神社などといったテーマを設定して渋谷のまち歩きのプログラムをつくっていますが、その中に必ず音の要素を入れるようにしています。そのためには、音の録音や関係者への聞き取り調査なども必要になります。さらに、プログラムを魅力的なものに仕上げることや、テーマやそれぞれの場所の特徴などをきちんと説明することも求められます。トータルな能力が必要になるわけですが、そういうところまで含めて課題に取り組むのが総合文化政策学部の特色でもあるのです」

《つづく》

(次回は地域の文化資源の保全をめざすプロジェクトについてです)

■青山学院大学 総合文化政策学部

■青山学院大学

▲鳥越 けい子教授

Lineup

第15回
工学院大学
工学部電気システム工学科

第14回
日本女子大学
家政学部被服学科

第13回
慶應義塾大学 経済学部

第12回
成蹊大学
理工学部情報科学科

第11回
早稲田大学
スポーツ科学学術院

第10回
首都大学東京大学院
都市環境科学研究科

第9回
明治大学
情報コミュニケーション学部

第8回
実践女子大学 生活科学部

第7回
東京工業大学大学院
理工学研究科

第6回
早稲田大学
教育学部地球科学教室

第5回
埼玉大学 教養学部

第4回
東京農工大学大学院
工学教育府応用化学専攻

第3回
青山学院大学
文学部日本文学科

第2回
東京理科大学
薬学部生命創薬科学科

第1回
東京大学大学院
情報理工学系研究科