研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第21回 Part.3

第21回 より美しく動きやすい衣服を開発(3)
Part.3
子ども服からゴルフウエアまで
ジャストフィットする衣服づくりの研究

文化服装学院
文化・服装形態機能研究所 所長 伊藤 由美子教授
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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衣服は、デザイン(形状、色、柄など)のよさとともに着心地のよさも大事だ。それも身体にフィットすることはもちろん、動きやすいことが重要になってくる。腕を挙げたり身体をひねったりという動作をしたとき抵抗感が少なくスムーズに動ける衣服なら着心地は快適なものになる。今回は、美しく着心地のいい衣服づくりを科学的な根拠に基づいて追求している文化服装学院、文化・服装形態機能研究所の伊藤由美子教授を訪ねてみた。(Part.3/全4回)

ゴルフウエアの開発など
企業との共同研究にも活用

引き続き伊藤先生に話を聞いてみよう。

この測定方法・測定システムは、特許を取得しただけでなく、すでに授業にも活用し、さらに企業との共同研究も何件か進めている。共同研究の1つはスポーツウエアメーカーの依頼によって、より動きやすいゴルフウエアを開発する試みだった。

「ゴルフのスイングの、アドレス、スイングトップ、フィニッシュそれぞれについて、上半身全体の動きを計測することにしたのですが、これは3次元形状計測機では計測できないので、石膏による計測方法を採用しました。

石膏では半身ずつ型をとるので、1つの動きで左右2体ずつ、3つの動きで合計6体の型をとりました。その立体を平面の紙に展開して、パターンに必要な運動量をすべて計算したのです」

そのデータを基に、メーカーのデザイナーやパタンナーがゴルフウエアの試作品を製作。そして、試着実験をして部分的に修正したり、いちばん動きの大きいところに伸縮性の強い素材を使うなど何回か改良を重ねて新しいゴルフウエアが完成した。その展示会では、ゴルフウエアそのものだけでなく、研究室による計測データも公開した。

「いまは、たんに新しい製品ができましたというだけでは売れない時代なのです。その製品がどのような科学的な根拠に基づいて開発されたものか示すことで、いい製品であるという説得力が生まれるのです」

さらに、上半身だけでなく下肢の動きを計測して、動きやすいユニフォームやスポーツウエアを開発する共同研究も行うなど、この計測方法・計測システムは活用の幅が広がっている。

「着用するもの、着用目的によっていろいろな動きが必要になります。私たちは企業の方から依頼があれば、どのような動きをとらえたらいいか検討したうえで実際にモデルさんを計測し、そのデータを基に企業の方がパターンをつくるというかたちで、どんどん応用の幅を広げ、発展させているところです。

研究は、こういう結果が出ましたが何かに使えませんか、といったかたちのものも多いと思いますが、私たちの場合は服づくりのためにこういうデータが必要になるという目的が最初にあって、そのデータをとる方法を研究しています。ですから、研究の結果は必ず実用に結びつくのです」

赤ちゃんから20歳になるまで
連続した身体計測に取り組む

▲伊藤 由美子教授

伊藤先生は、特許を取得した研究以外にも、あらゆる年代を対象に衣服に関する研究を行っている。その1つに子どもの体型の研究がある。

「昔は、子どもは年々成長するので、少し大きめの服を買っておくということも多かったと思います。でも、いまは買うときにジャストフィットするかわいい服を着せたいと考える親御さんが多いのです。

そういう服をつくるには、やはり身体の計測データが欠かせません。子どもは小さければ小さいほど大人とは身体の形が違うので、なおさら計測データに基づく服づくりが大切になります。ところが、小さい子を静止させて計測するのは難しいこともあって、あまりデータがなかったのです。

そこで、子供服メーカーと共同で5年かけて子どもの身体を計測し、そのデータに基づいてダミー(全身のプラスチック型)とボディ(針を刺せるように表面が布でできた型)を開発しました。

その後、研究所独自で10人の子どもを生まれたときから20歳まで計測し続ける研究を10年前に開始し、現在も継続して取り組んでいます」

《つづく》

●第4回は最終回『より高度なユニバーサルファッションの研究』についてです。

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