研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第24回 Part.1

第24回 夜空を彩る人工流れ星を開発(1)
Part.1
人工流れ星の開発目的

人工流れ星プロジェクト 代表(株式会社ALE CEO)
岡島 礼奈(おかじま・れな)
【研究チーム】
首都大学東京 准教授 佐原 宏典氏
帝京大学 講師 渡部 武夫氏
日本大学 准教授 阿部 新助氏
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
公開:
 更新:

流れ星。その存在は古代から知られ、現代では音楽、小説、ドラマなどのタイトルやそのなかのフレーズとしてもよく使われる。もちろん、流れ星は自然現象の1つだが、見る機会の少なさや見えたとしても一瞬であるという希少性、そして美しさなどが、時代を超えて、見た人々に強い印象を残すのだろう。そんな自然の流れ星とは別に、人工的に流れ星をつくり出すプロジェクトが、そのために設立した企業と大学の研究室などのチームによって進められている。そこで今回は、人工流れ星プロジェクトの発案者である株式会社ALE(エール)の岡島礼奈さんを訪ね、プロジェクトの全体像や研究内容などについて話を伺った(Part.1/全4回)

人工衛星から小さな粒を放出し
大気圏で燃焼させ「流れ星」に

▲岡島 礼奈 氏

人工流れ星は、人工衛星から小さな粒を放出し、大気圏で燃焼させることで「流れ星」にするものだ。この人工流れ星の開発には2つの目的があると岡島さんは話す。

「目的の1つは、エンターテイメントとして楽しんでいただきたいということです。もう1つの目的は、人工流れ星の開発や運用を通じて基礎科学の発展に貢献していくことですね。

私は大学の学部と大学院で天文学を専攻していたのですが、天文学はその成果で資金を得て研究費に充てるということができなくて、税金を元にした予算とか寄付金とかで成り立っています。そこで、人工流れ星プロジェクトでは、エンターテイメントというかたちで収益を上げつつ基礎科学の研究もできるようにすることをめざしているのです」

1,000個の粒を載せた小型衛星を
高度500kmの周回軌道に打ち上げる

エンターテイメントとしての利用と基礎科学への貢献について具体的な話を伺う前に、人工流れ星のしくみを教えていただくことにしよう。

「自然の流れ星は、数ミリ前後の小さな粒が大気圏に突入して燃えているものです。私たちはそれを人工的につくろうとしています。小型人工衛星に流れ星の元になる数センチの粒を1,000個ぐらい詰め込んで宇宙に打ち上げ、要望に応じて粒を放出して人工の流れ星にします。

粒が燃えて人工流れ星になるのは上空70~80km、中間圏と呼ばれるところです。その流れ星は、地上では直径200kmの範囲で見ることができます。粒はすぐに燃え尽きてしまうので、飛行機や気球などに影響を与えることも地上に落ちてくることもありません」

人工衛星の周回軌道は高度500kmぐらいを想定している。日本も利用している国際宇宙ステーションは420kmで、400~500kmは低軌道と呼ばれるそうだ。人工衛星がいちばん多いのは700~800kmで、気象衛星「ひまわり」は3万6,000kmの高軌道だという。

▼人工流れ星用の小型人工衛星(イメージ)*中央の穴から人工流れ星の元になる粒を放出

テクノロジーチームがミッション部を開発

人工流れ星プロジェクトでは、人工衛星そのものも開発し、保有する。

「人工衛星にはミッション部とバス部があります。ミッション部は観測用途ならカメラなどになるのですが、私たちの場合は流れ星の粒を搭載する装置と放出する装置になります。この部分を大学の先生が中心になったテクノロジーチームが開発しています。

人工衛星を制御するバス部と全体の設計製造は、小型衛星で実績がある企業でプロジェクトに賛同してくださっているアクセルスペースさんに委託しています」

人工衛星の開発費は約10億円。岡島さんはその資金調達に奔走し、ある程度のメドはついてきた段階だという。

「人工衛星の開発は大きく3段階に分けられます。まず設計。そのあとにエンジニアリングモデルをつくり、それを実験したあとで実際に打ち上げるフライトモデルをつくります。

現在の資金調達で最終的なフライトモデルまでつくれるわけではなく、エンジニアリングモデルまでです。エンジニアリングモデルをつくったうえで、プロジェクトに賛同していただける企業など出資者を募り、フライトモデルを完成させたいと考えているのです」

オリンピックなどイベントの演出や
都市のプロモーションに活用

話を人工流れ星の目的に戻そう。2つの目的のうち、エンターテイメントとしては具体的にどのように利用することを想定しているのだろうか。

「リクエストに応じて、指定された場所で見られるように人工衛星から粒を放出し、流れ星として見て楽しんでいただきたいと思っています。自然の流れ星は0.3秒ぐらいで流れるので本当に一瞬ですが、私たちが開発している人工流れ星は速度が遅く、2~3秒間は流れます。1個ずつ間隔を置いて流すこともできますし、10個ぐらいを流星群のように流すこともできます」

岡島さんは、とくにイベントと関連した利用につなげていきたいと考えているそうだ。

「大きなイベントの式典などに利用していただきたいと思っています。具体的な目標としては2020年の東京オリンピックがあります。開会式は昼に行われる可能性が大きいですが、閉会式は夜だと思うので、人工流れ星を演出の1つとして利用していただければと考えています。それだけでなく、聖火リレーをしている地域で流すなど、オリンピックを盛り上げることに貢献したいですね。

それから、世界中が対象になりますが、都市のプロモーションに利用していただくことも想定しています。いま、世界レベルで各都市が観光客やビジネス客を呼び込む競争をしています。そういう競争のなかで、あの都市にいけば必ず流れ星を見ることができるということになれば、その都市の魅力や価値を高めるプロモーションになるのではないでしょうか。

このほかに、テーマパークで行われるイベントやミュージシャンの屋外ライブなどと連携した演出としての利用も考えられます。さらに、誕生日や記念日、プロポーズなど個人的に利用していただけるようになると嬉しいですね」

こうしたさまざまな利用形態のうち、すでに海外の都市のプロモーションとして人工流れ星に関心を抱いているところもあるそうだ。

《つづく》

●第2回は『安全性の確立がプロジェクトの出発点』についてです。

新着記事 New Articles