研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第25回 Part.4

第25回 昆虫の機能をものづくりに応用(4)
Part.4
農業で地域を活性化させ、
福祉と連携する「農福連携」もスタート

東京農業大学 農学部農学科
昆虫機能開発研究室 長島 孝行教授
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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チョウが春の訪れを告げ、セミの鳴き声が夏を実感させ、スズムシの鳴き声やトンボが秋の気配を運んでくるように、私たちのまわりには数多くの昆虫がいて、ときには季節の移り変わりを教えてくれる。農学分野では、そんな昆虫たちが備えている独特の機能や構造を解明し、ものづくりなどに役立てる研究も行われている。今回は、東京農業大学の長島孝行先生の研究室を訪ね、どのような研究に取り組んでいるのか話を伺ってみた。(Part.4/全4回)

地域活性化が評価され
まちづくりにも貢献

▲長島 孝行教授

長島先生たちのカブトエビ農法は成功した。しかし、その後、水田の土地改良があった影響で、一時うまくいかなくなったそうだ。

「土地改良で別の土壌が入ってきたことによって、環境が変わってしまったんですね。カブトエビはものすごく繊細なんだということがわかりました。ですが、何とか成功させたいと思ってチャレンジを続けた結果、またカブトエビがコンスタントに発生して雑草などを食べてくれるようになり、無農薬米づくりができるようになりました」

この取り組みは、カブトエビ農法を成功させただけにとどまらなかった。取り組みを通じて地域が活性化されたことなどが評価され、「布里田中の地域資源を保存する会」が農林水産大臣賞を受賞したのだ。

▲カブトエビ水田の田植えの様子

それを踏まえて埼玉県は、各地からカブトエビ農法を見学にくる人などのために記念公園をつくり、いまでは、一種の観光地のようになっているそうだ。

もちろん、現在もこの取り組みは続いている。しかも、研究室の学生全員が参加していて、取材に訪れた日も数名の学生が現地に出かけていた。さらに、埼玉県の事業として、まちづくりにもかかわり、学生が軸になって地元の人々とワークショップを行うなど、地域創生にも貢献している。

お年寄りの社会参画を可能にする
訪問カイコプロジェクトが始動

長島先生は、こうした研究活動に加えて、新しい試みをスタートさせている。そのキーワードは「農福連携」だ。

「超高齢化社会の日本では、たとえば介護施設などに入居しているお年寄りでも社会参画できるしくみをつくることが重要になっています。

それをインセクトテクノロジーと結びつけるかたちで実現できないかと考え、『訪問カイコプロジェクト』を立ち上げました。これは、施設などのお年寄りに蚕(かいこ)を飼っていただくものです。

蚕は箱で飼うと、絶対にその箱から外には出ません。エサをやるのも簡単で、現在は人工飼料もあります。ですから、お年寄りでも無理なく飼えるのです。

そして、繭(まゆ)ができたら、そのシルクを化粧品に使います。糸として使うには繭の大きさが問題になりますが、化粧品にするなら大きさは関係ないからです。その化粧品は、広く社会で使われることになり、ご自身のお孫さんも使うようになるかもしれません」

このプロジェクトは昨年、山口県で実験的に行い、成功を収めた。現在は世田谷区でもプロジェクトが動き出している。

小さな生き物を扱うインセクトテクノロジーは、ものづくりを中心に農業や福祉など社会のあり方まで変えていく、大きな力を持っているのかもしれない。

▼シルクを使った化粧品

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