第7回 東京の専門学校(6) vol.2

2007-11-12UP

バイオリン製作科
(後編)


専門学校ESPミュージカルアカデミー
(東京都新宿区)

第12回 東京の専門学校(11)
鉄道交通ビジネスコース
vol.1 前編

第11回 東京の専門学校(10)
製菓・カフェ経営科
vol.1 前編
vol.2 後編

第10回 東京の専門学校(9)
薬業科
vol.1 前編
vol.2 後編

第9回 東京の専門学校(8)
1級自動車エンジニア科
vol.1 前編
vol.2 後編

第8回 東京の専門学校(7)
写真科
vol.1 前編
vol.2 後編

第7回 東京の専門学校(6)
バイオリン製作科
vol.1 前編

vol.2 後編

第6回 東京の専門学校(5)
声優・アナウンス専門課程
vol.1 前編

vol.2 中編
vol.3 後編

第5回 東京の専門学校(4)
グラフィック・メディア専門科
vol.1 前編

vol.2 後編

第4回 東京の専門学校(3)
眼鏡学科
vol.1 前編

vol.2 後編

第3回 東京の専門学校(2)
サッカーエキスパート学科

vol.1 前編
vol.2 後編

第2回 東京の専門学校(1)
ショップビジネス学科
vol.1 前編

vol.2 後編

第1回 プロローグ
東京の専門学校


『キーワードで探る専門学校のカリキュラム』(全20回)
雑誌「ドリコムアイ」に掲載された記事をPDFファイルでご覧いただけます。

 全国から入学者を集める東京の専門学校にスポットをあて、教職員インタビューを通じてそのカキュラムに迫ります。

 楽器の多くはヨーロッパで生まれ、時代を越えて受け継がれてきました。その1つであるバイオリンの製作技能を身につける専門学校が、東京にあります。専門学校ESPミュージカルアカデミーを訪ね、金井義政先生に話を伺いました。


1年次に1本の
バイオリンを仕上げる


――具体的な授業科目としては?

 1年生は全員同じ科目を履修します。音楽性を養うという意味では「音楽通論」ですね。楽典などの基礎からしっかり学ぶことができるので、それこそ楽譜が読めない学生でも大丈夫です。また、在学中の2年間を通して、個人レッスンによる「バイオリンレッスン」を繰り返します。

 製作技能の修得に向けては、「木工」「塗装」といった実習授業を核に据え、1年生のうちに各人1本のストラディヴァリ型のバイオリンを作り上げることができるまでに指導します。同時に製作に用いる刃物について学び、その研ぎ方や調整の仕方を身につける「道具の仕立て」、バイオリンの材質や仕組みについて学ぶ「材料学」「構造学」といった授業も開講しています。

 いうまでもなくバイオリンは木材でできています。そしてバイオリンの善し悪しを左右するのがこの材質です。一般にボディの表板は弾力性に富んだスプルース、ネックは固いメイプルという木材を使用し、その木目や乾燥の度合いによっても音が変わります。製作や修理に携わる以上は、こういった材料、構造に精通しておく必要があります。もちろん、バイオリンの誕生から現在にいたるまでの歴史を学ぶ「バイオリン史」という授業も必須科目として用意しています。

 そして、2年生になると、1年生の間に修得した基本的なバイオリン製作技術にさらに磨きをかける製作コースと、修理技能の修得をめざしたリペアコースに分かれて学ぶことになります。



――卒業後の進路としてはどういった道があるのでしょうか。

 もちろん、ここで2年間学んだからといってバイオリンの製作技術者として独り立ちできるわけではありません。本格的に製作やリペアの道に進みたい学生は工房に入ってからしばらくの間修行していく場合もあります。いわば弟子入りです。楽器製作の現場は職人の世界ですからね。

 一般的な就職先としては楽器メーカーやその卸業、楽器店などでしょうか。単に演奏ができるとか、音楽が好きというだけでなく、製作や修理の技能修得を通して楽器の材質や性質の勉強をしてきた学生ですから、企業の評価はとても高いですよ。毎年の入学者が10人程度と少ないこともあって、就職はとても順調です。

 また、修学を通してもっと知識を深めたいとか技術を磨きたいと思う学生には、進学コースとして楽器技術研究科を設けています。ここではエレキバイオリンや、ビオラ、チェロといった大型楽器の製作を体験することも可能です。

――楽器製作の魅力って何でしょう。

 たとえば家具の製作も、木材を使った「ものづくり」です。木工が好きな人には同じように魅力的な仕事に思えることでしょう。それもでもここに入学してきた学生は、あえてバイオリンを選んだわけです。その違いは何か……答えるのは難しいけれど、しいていうならエンターテインメント性ではないでしょうか。バイオリンをはじめとした楽器は、人を楽しませるため存在します。人に喜びを与えることができる仕事って、魅力的ですよね。

■ Reporter's note 

 たとえば一眼レフカメラは、デジタル化されたいまにおいてもその形を変えることはありません。これ以上ない機能と使い勝手を追求し尽くした、いわば完成美を備えているからでしょう。おそらく多くの楽器も同様です。

 バイオリンの起源は7〜8世紀とされ、15世紀には今日の形を整えたといわれています。名品といわれるストラディヴァリ、アマティ、グァルネリなどの製作が17世紀後半。基本造形を獲得した後、最高傑作が作られるまでに200年の時を要したわけです。そこからさらに300年以上。機械化が進み、工場生産も可能になった今日においても、その製作者たちは手作りにこだわります。後の世に残る名品が、決して機械生産でまかなえないことを知っているからです。バイオリン職人は、数百年の歴史を受け止めた上で、自らの技能の鍛錬に励んでいるのです。

 ちなみにストラディヴァリ、アマティ、グァルネリの名称はすべて製作者の名前に由来します。

 EPSミュージカルアカデミーのバイオリン製作科を訪ね、職業人だけでなく、職人の育成にも貢献する専門学校を見た思いがしました。もちろん、わずか2年間の専門課程の修学で、一人前の職人が育つわけではありません。それは金井先生も認めています。しかし、職人になるためのルートが見いだしづらい現代社会で、その足がかりとなる役割を専門学校が担っていることは確かなようです。

 修学を終えると一部の学生は工房に弟子入りして、修行の道に就くと聞きました。彼らが手がけたバイオリンが何百年かの時を経て、スズキとかサトーとか、日本の名字で呼ばれるようになるのかもしれません。


■専門学校ESPミュージカルアカデミー
http://www.esp.ac.jp/