第78回
高校教育最前線ルポ(神奈川県横浜市)

鶴見大学附属中学校・高等学校
「学びの心で世界を変える」を掲げ、チャレンジ精神を涵養
21世紀型教育が主体性を育み、進学実績の向上につながる」


インタビュー
学校法人 総持学園 鶴見大学附属中学校・高等学校
学習進路指導部 統括部長
鈴木 重夫 先生
※部署名、役職名、施策などは取材当時のものです
更新:2017/10/10
横浜市鶴見区の曹洞宗(そうとうしゅう)大本山・總持寺(そうじじ)境内に隣接する高台に位置し、禅の精神を基に創立94年の歴史を有するのが鶴見大学附属中学校・高等学校だ。2008年に女子校から男女共学化を果たし、さらに翌年には教科エリア型校舎が竣工。教科教室エリアとホームベースエリアが分かれた特徴的な教室レイアウトのもと、ICTが整った環境で「21世紀型教育」が模索され、アクティブな学びが行われている。
進学実績も飛躍的に伸び、生徒が意欲的に勉強や部活に打ち込んでいる。実際にどんなビジョンで、どんな特色ある教育や進路指導を進めているのか、学習進路指導部・統括部長の鈴木重夫先生にお話を伺った。

教科エリア+ホームベース型校舎により
アクティブ&集中的な学びを可能にする環境を構築

本校は曹洞宗の大本山・總持寺を母体とする仏教校です。前身の女学校は1924年(大正13年)に創立され、以来94年の歴史を誇ります。戦後も女子中学・高校の伝統を築いてきましたが、時代の趨勢を鑑みて男女共学化を図り、2008年に鶴見大学附属中学校・高等学校となりました。今は男女比もほぼ半々から、若干男子が多くなっています。

建学の精神は「大覚円成」(だいがくえんじょう)「報恩行持」(ほうおんぎょうじ)の二句八文字の仏教用語で示されていますが、分かりやすく表現すると「感謝を忘れず、真人(ひと)となる」という意味になります。教育ビジョンは「自立の精神と心豊かな知性を育み、国際社会に貢献できる人間を育てる」を掲げています。

創立90周年を迎えた2014年には、100周年に向けた教育目標宣言として「学びの心で世界を変える」を打ち出しました。これは何にでも挑戦していく心や、新しいことに目を向け探求していく心のこと。また「世界」には自己の内面と現実の世界、二つの意味が込められています。

こうした教育ビジョンのもと、本校では「人間形成」「学力向上」「国際教育」の3つの柱を掲げています。

「人間形成」は禅の精神に基づいた実践を学校生活に取り入れている点が特徴です。毎朝行われる「こころの時間」では、「黙念(もくねん/いすに座って行う坐禅)」を通して自分を見つめ、心の落ち着きを得てから授業に向かいます。禅の実践行事では1月の4日間、總持寺で行われる「耐寒参禅会」が代表的。早朝6時半からの30分間、千畳敷の本堂で坐禅を組みます。年始めに授業に臨むにあたり清々しい気持ちになるため、希望制ながら多くの生徒が参加しています。

また本校の教室レイアウトも特徴的です。人間性を育む「ホームベース」と知識を学ぶ「教科エリア」で構成されており、教科エリアがホームベース(小教室)を取り囲むように配置されています。朝礼やホームルームはホームベースで行い、毎時間自ら学びの舞台である各教室へ向かいます。すべての教科の授業が常に専用教室で行われ、その教科に適した環境の中で授業が進みます。

教科エリアには教員室とは別に研究室を設け、そこに各先生の席があります。生徒は気軽にアクセスし、不明点があれば何でも気軽に聞ける仕組みです。教員も同じ教科の教員が一緒に活動できるので「指導力アップにつながる」と好評。生徒からも「気持ちを切り替えられる」「時間の管理を意識するようになった」「授業に集中できる」といった声が上がっています。

この「教科エリア+ホームベース」は約10年前、新校舎の計画時に、時の校長が首都大学東京の教授に助言をいただき、学校の魅力を長く発信していくための特徴として採り入れました。今では本校を見学し、参考にされる学校も増えています。

「学びから入る進路指導」を掲げ、職業以前に学びに焦点を
好きな学問を見つけ、学びたい気持ちを進学につなげる

「学力向上」に関しては、一人ひとりの学力・目指す進路に沿ったきめ細かな学習指導を行うとともに、自由に興味関心を広げ、知的好奇心を大きく伸ばします。高校では「特進コース」と「総合進学コース」の2つに分けています。

「特進コース」は国公立大学や難関私立大学への進学を目指す生徒を対象に、1年次から編成されるコースです。大学受験を見据えながら、一人ひとりの希望進路にマッチした学習・進路指導のプログラムを実施しています。

「総合進学コース」は4年制大学を中心に、短大・専門学校を含め幅広い進路に対応。指定校推薦などを目指す生徒も本コースに所属します。

いずれも時機に応じた進路ガイダンスや講習・講座、各種模擬試験、検定対策を行い、目標とする大学・学部の合格に必要な力をつけていきます。

本校では「学びから入る進路指導」を掲げている点も大きな特徴です。よく職業調べから入る方が指導の計画が立てやすいと言われますが、高校1年次に職業を調べると自分の身の回りの知っている職業、例えば小学校教員や保育士、看護師、介護士などの専門職ばかりに注目が集まりがち。それ以上に、「学び」を深める中で見えてくる職業も多くあります。

理科に興味のある生徒が土壌生物と環境問題に関連する職業に出会ったり、社会科の学習を進めるうちに文化財保護の仕事に興味を持ったり。多くの生徒が就職の前に大学を目指すわけで、自分の好きな「学び」を見つけることが先決だとの考えです。

鶴見大学・鶴見大学短期大学部には本校から優先的内部推薦入学や併願推薦制度がありますが、大学は文学部と歯学部、短大は保育科・歯科衛生科と学部・学科構成が特殊なこともあり、毎年進学者は10人未満(全体の5〜8%程度)にすぎません。ただし、高大連携をしっかり取り、高校1年次には鶴見大学の教員の講演を聞く機会などを設けています。文学部の教授からはゼミの活動や卒業論文について、歯学部の教授からは理系の研究の面白さなど学びの紹介を受けたりしています。

また進路資料室やメディアセンターで学問分野をイメージできる、多くの資料を閲覧できるようにしています。本校と近い鶴見大学の充実した図書館を利用し、早くに大学の雰囲気を体感することもできます。また2年次夏には3校以上のオープンキャンパス参加を促し、2年次3学期の志望理由書につなげています。

手帳の導入やICT教育・グローバル教育に力を注ぎ
「学びの心」を持ち続け、世界で活躍できる人材を輩出

本校はまた学力アップに必要な「学びの心」を維持するため、生徒全員に手帳と2種類のファイルを配布。手帳は「Gyro手帳」と呼ばれ、日々の学習を記録し続けることで、学習習慣の確立を促します。定期的にクラス担任がチェックし、励ましの言葉を記入します。

ファイルは「成績管理(青色)」のほか、「進路サポート(緑色)」があります。これらは保護者確認後、クラス担任に提出することで、ご家庭と学校との連携にも役立っています。

ちなみに手帳は、しっかり学習活動を記録し、計画から振り返りまでを書けている子ほど成績が良いなど、生徒の自己管理能力と成績は相関関係があると感じます。

さらに本校では、ICT環境の充実も定評があります。9年前に竣工した校舎は、校内LAN、プロジェクター、電子黒板、タブレット端末など、ICT教育の設備機器を備えています。理科などの探求型学習ではICTの活用で教員も一人ひとりの意見や思考のプロセスを見たりできますし、生徒は表現力も高められ、発表力も向上しています。2017年には校舎全域にWi-Fi環境が整備されますし、今後も国の教育施策によりますが、一人一台のタブレット端末を整える準備も進めています。

本校では男女共学化を図って10年目になりますが、今の高1生は中高一貫の内部進学4クラスに対し、高校から入学する生徒が6クラスと増加しており、横浜・川崎エリアにおける人気もお陰様でうなぎ上りです。

進学実績も好調に推移し、毎年右肩上がりで大学の合格実績も向上。国公立大学から早・慶・上智、MARCHクラスの進学者も増えつつあります。またこうした本校の進学実績と教育環境が地域に好意的に受け止められていることが、近年の志願者の増加につながっていると思います。

最後の3つ目の柱「国際教育」に関しても、世界を見据える目を養っています。例えばネイティブのALT(外国語指導教授)と英語教員によるTT授業を、週1回設けています。海外語学研修ではオーストラリア語学研修を中学3年次に実施している他、夏休みや冬休みにアメリカやイギリスなど英語圏でホームステイをしながらの短期留学(希望者・選択制・中2〜高2)を実施しています。

また本校は、海外から来た高校生の受け入れも行っています。生徒宅に滞在し、学園生活のすべてを本校の生徒たちと共に体験します。

「イングリッシュラウンジ」では、横浜市国際学生会館の協力を得て、優秀な外国人留学生を学校に招いています。希望者は少人数制のもと英語を使って様々な国の人たちとの交流を楽しみ、異文化を学んでいます。

また英語検定やGTECにも力を注いでおり、多くの生徒がこれらの資格取得により英語力を高め、推薦入試やAO入試のアピールポイントとなるよう力を入れています。

本校は2016年に「21世紀型教育推進委員会」を発足。若手教員がグローバル教育やICT教育、探求型教育を研究し、まさにアクティブラーニングを推進しています。他にも学校の組織運営として、教員職員・事務職員に加え、スクールカウンセラー・部活動指導員(コーチ)・ICT教育支援員・学習相談支援員(チューター)などを置くことで、協業によって子どもたちを見守り支えるチーム力アップに力を注いでいます。

社会的に教員の忙しさが問題になっていますが、こうした体制を整えることは教員の教材開発や生徒に目をかける時間の確保にもつながるでしょう。

今後はグローバル化や入試制度改革などに対応することはもちろんですが、いかなる時代が到来しても、たくましく自己を革新して世界平和のために貢献する大器を輩出することが目標。そのために知識や技能より前に「学びの心」を耕し、内なる心を開拓し続ける志を授けたい。私たちの誓いはまさしく禅の精神そのもの。そうした「学びの心で世界を変える」生徒を輩出していきたいと思います。

■鶴見大学附属中学校・高等学校

▲鈴木 重夫 先生

 
 
 
 
Lineup

【第21回】~【第30回】
千葉県のキャリア教育推進
~宮城県のキャリア教育推進

【第11回】~【第20回】
かながわキャリア教育実践推進プラン
~静岡県のキャリア教育研究開発推進

●静岡県のキャリア教育研究開発推進
19 静岡県立静岡農業高等学校(1) 20 静岡県立静岡農業高等学校(2)
●静岡県のキャリア教育研究開発推進
17 静岡県教育委員会(1) 18 静岡県教育委員会(2)
●かながわキャリア教育実践推進プラン
15 神奈川県立光陵高等学校(1) 16 神奈川県立光陵高等学校(2)
●かながわキャリア教育実践推進プラン
13 神奈川県立横浜桜陽高等学校(1) 14 神奈川県立横浜桜陽高等学校(2)
●かながわキャリア教育実践推進プラン
11 神奈川県教育委員会(1) 12 神奈川県教育委員会(2)

【第1回】~【第10回】
現在の高等学校におけるキャリア教育の実態
~産業社会と人間