高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第3回

第3回
現在の高等学校におけるキャリア教育の実態
Part.3
全国高等学校進路指導協議会
事務局長に聞く(2)

インタビュー
全国高等学校進路指導協議会 事務局長
千葉 吉裕氏
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
公開:
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2つの代表的なキャリア教育の取り組み

▲千葉 吉裕 氏

現在、高等学校で行われ、成功しているキャリア教育の代表的なものとしては、まず、「産業社会と人間」が挙げられます。これは、「総合的な学習の時間」の一環として行われているものです。

この活動は、体験学習や講義などを通して、自分の進路選択に必要な能力・態度や将来の職業生活に必要なコミュニケーション能力を養うとともに、自己の充実や生きがいをめざして、生涯にわたって学習に取り組む意欲や態度の育成を目的としています。

この活動に取り組んでいる学校は多く、晴海総合高等学校もそのひとつ。また、大分県立日田三隈高等学校や静岡県立富岳館高等学校などでもこれに取り組み、非常に良い結果を出しています。

福岡県立城南高等学校が始めた「ドリカムプラン」も、広く知られたキャリア教育のひとつで、これを実施して成功している学校も群馬県立高崎高等学校をはじめ、多数あります。

この取り組みの特徴は、生徒自身に自分の興味や関心をもとに将来設計をさせ、それを実現させるにはどういう学部を持つ大学に進学したらいいかを考えさせること。出口進路指導としての進路指導ではなく、職業世界や大学を、体験的に知る機会を設け、モチベーションを高めるものです。

キャリア教育がうまくいくと、子どもたちのモチベーションは自然に高まります。ですからキャリア教育が成功している学校は学力が上がり、意欲を持って進学していく子どもが増える、ということが言えます。

反対にキャリア教育で失敗している学校の多くは、校内でコンセンサスが取れていないようです。推進役の先生はとても苦労してやろうとしているのに、ほかの先生たちはキャリア教育など必要ない、無駄なことだと言っている。

でも、そういう先生たちにはもう一度、本当に今までのようにアカデミックなことだけをやっていていいのか、キャリア教育は無駄なのかを考えていただきたいと思います。

現代は、世界的に大学が危機的な状況にあると言われています。なぜなら、知の多様化と、情報量の増加、科学技術の進展は、生涯にわたって学び続けなければならない状況を生み出し、青年期後期の学生を中心とする機関では、この変化に対応できないからです。しかも、学問の専門化、細分化が進む方向にある大学の研究は、実社会でも求める知と乖離する傾向があることは否めない事実でしょう。

知を創造することによって、社会の経済性が高まり、よき社会を構築するというのが大学に大きく期待されているものと考えられます。しかし、大学はそこからかけ離れたものに変化してしまう可能性が高いのです。

社会は今、ものすごいスピードで動いています。たとえばIT分野でいえば、4年前には一部の気が早い人だけがISDNを使っていた。それが今ではブロードバンドから光回線にまで発展し、みんながどんどん切り替えている。そうなると音楽配信、ビデオ配信ができるようになり、レンタルビデオ店もだんだん見かけなくなってしまいました。

産業はものすごいスピードで変わっています。そのなかで、アカデミックなことは基礎基本だと言って悠長なことをやっていると、時代のスピードに乗り遅れてしまうのではないか、ということです。

キャリア教育で「学ぶ意欲」を持つ子どもが育つ

今の子どもたちは、コミュニケーション能力がとぼしいと言われています。だったら、インターンシップでもいいし、とにかく各々に興味のある仕事をしている人のところに話を聞きにいかせればいいでしょう。そうすれば、今、自分が何をしなければいけないかがわかるだろうし、挨拶をしなかったら人に信用されないということも、言葉遣いがどれだけ大切かも理解します。そういうことを実際に自分自身で感じることで、初めて普段の学びのなかでの意欲が出てくるのです。

何だかわからないまま、これが高校生のやることだといってさせられても、そんな教育では大して伸びないだろうし、試験が終わったら忘れてしまいます。そんな勉強をやることに、果たして意味があるのでしょうか。

今、うちの学校はいい循環に入っています。卒業生の中には19歳で起業して、その会社が年商20億を超えるくらいになっている人間もいて、毎年、1年生は職場訪問にその会社に行かせてもらっています。その子だけでなく、今現在、大学に通いながら、インターネット関連事業で、業界で注目されている子どももいます。

そういう先輩たちの姿を見ることで、子どもたちは、大学にいって学んだ知識で活躍しましょう、いい会社に就職しましょうというだけでなくて、本当に好きな道だったら自分で一生懸命に学んで知識を得て、それをビジネスに変えていくことができるのだということを学びます。もちろん大学に進学した子たちも、行った先で意欲的に学んでくれています。大学に入ることはゴールではないのだから、そこにいって何を学びたいのか、それがないとだめだということをみんなが理解しているからです。

今、うちの学校では、やりたいことがみつからないまま、単に偏差値だけで大学を選ぶような子どもはほとんどいないと言ってもいいと思います。

次回からは、「産業社会と人間」の授業について取材する。

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