第7回 キャリア教育実践レポート

「産業社会と人間」 Part.4

筑波大学附属坂戸高等学校の実践例(1)


インタビュー
筑波大学附属坂戸高等学校
加藤 敦子先生
※部署名、役職名、施策などは取材当時のものです
更新:2006/09/04
筑波大学附属坂戸高等学校は総合学科初年度開設校である。平成6年度の開設以来、全国に先駆けて様々な実験的実践を重ねてきた。当時、同校の社会科教師であった服部次郎前校長が「産業社会と人間」の科目開発リーダーだったこともあり、「産業社会と人間」や「課題研究」の科目開発及び実践をいち早く成功させた他、選択制・単位制の時間割編成や学務情報管理のシステム開発、研究開発による「産業理解」の科目開発など、この学校の取り組みが平成の高校教育に与えた影響は非常に大きいと言える。
今回はこの坂戸高校で過去5年間にわたり「産業社会と人間」「産業理解」を指導してきた加藤敦子先生に話を伺った。

「産業社会と人間」と「産業理解」が
1年次の履修必須科目に

坂戸高校では「産業社会と人間」と「産業理解」が1年次の必履修科目になっています。このふたつを同時に学んでいくのが本校の特長ですが、それは自己理解と並列して社会の仕組みを理解することで自分と社会の関わりがより正しく理解できるという考えからです。

この2科目に関しては毎年、1年次の担任を中心に校内委員会を作り、前年度の反省点などを踏まえた上で年間指導計画を立てています。カリキュラムは時代に合わせて少しずつ改良するようにしているので、毎年まったく同じ活動内容ということはありません。「産業社会と人間」も「産業理解」も教科「産業」に属する科目なので、時には前半が「産業社会と人間」で後半が「産業理解」というような授業になることもあります。

コミュニケーションキャンプから
授業開始

本校の「産業社会と人間」の授業は、入学式の翌日から黒姫高原に出かけて行う3泊4日のコミュニケーションキャンプで始まります。これは名前のとおりコミュニケーションを図って仲間作りをすることが目的ですが、それと同時に総合学科ではどういうことをやっていくのかというオリエンテーション的なことも行います。

今年度の具体的な活動を紹介すると、初日はアイスブレイクということで、クラスには関係なく教員が無作為に分けたグループごとに、相談しながらマウンテンバイクで目的地まで行ってくるという活動やゲームなどを行いました。

例年、そうした活動の中で始めはぎこちなかった生徒たちがどんどん緊張を解いていきます。3日目からはクラスの旗を作らせるなどクラスごとの活動を行い、そこでクラスの団結も深めます。その結果、帰りのバスの中ではみんな打ち解けて、往きの静かさが信じられないほど賑やかになります。

次は自分史を書くという作業と菜園作りを行います。

今年は自分史を書く前に、2名の教員が生徒たちの前で自分は昔どういう人間だったか、どんなことに興味があるかなど今までの人生を赤裸々に語り、その後、自分史を作る作業を行いました。

並行して行う菜園づくりでは、本校の校内にある農場を使ってとうもろこしや枝豆などの食物を育てます。これは「食」の大切さに気づいたり、「食」の安全について考えるきっかけを作ることを目的に行っている活動ですが、これを通して自分は食物を育てることが好きだということに気づくなど、今まで知らなかった自分を知る生徒もいます。

その後、自分の身近にいる“働く人”に話を聞いて、まとめるという宿題を出します。また、それと同時に本校の系列設定についてのガイダンスも行います。

坂戸高校では平成15年度にそれまでの系列設定や科目選択方法を改革し、「生物資源・環境科学系列」「工学システム・情報科学系列」「生活・人間科学系列」「人文社会・コミュニケーション系列」という4つの系列を設定しました。このガイダンスで、生徒はそれぞれの系列、科目についての理解を深めることになります。

夏休みには職場体験を行います。本校では毎年、何十人もの社会人講師に協力してもらっているのですが、その方たちにそれぞれの職業上の悩みや喜びなどを講義していただき、また職場を訪問するときのマナー指導も行った上で、生徒の興味に応じて職場体験に行かせます。その際はアポイントなどもすべて自分達で取らせます。

また本校ではそれぞれの体験を共有するということも大切にしていて、体験から帰ってきたあとは必ず振り返り活動を行います。

今年は夏休み中に企業見学にも行く予定です。こちらは職場体験よりさらに広い世界を見ることを目的としていて、電気機器メーカーや新聞社などを見学する予定です。また、夏休みには多くの上級学校がオープンキャンパスを行うので、例年キャンパス体験もさせています。

福祉体験から学ぶ
相互理解

2学期は福祉体験から始まります。市内在住の車椅子利用者や目の不自由な方に生活の中で不便なことなどを話していただき、その後、生徒たちに車椅子体験やアイマスク体験をさせます。こうした体験を通して世の中には自分と立場の違う人がいることを知り、自己を知ることを目的にしています。

年度によってはこの時期に「産業理解」の領域としてコンピュータの実習や情報化社会の功罪についてディベートを行い、福祉体験を1学期に実施したこともありました。

10月には本校の親大学、筑波大学を訪問し、グループに分かれて興味のある分野を見学します。これは、大学とはどういうところなのかを知る機会になっています。

また毎年秋には、本校と同じく筑波大学附属の聾学校、盲学校、養護学校などに通う生徒に協力していただき、交流会を行います。先の福祉体験とは違い、ここでは同じ年齢の立場の違う人たちと交流し、それによって自分を知っていくという活動になります。交流の内容は毎年、生徒たちに考えさせていますが、障害があっても一生懸命に生きている同年齢の人たちを知ることはそれだけでとても刺激になり、自分達ももっと頑張らなければという気持ちになるようです。

「ライフプラン」づくりで総仕上げ

12月にはいよいよ科目選択前の総仕上げとしてライフプランを作ります。ライフプランには一定のフォームはなく、自由に書かせています。ライフプランを紙に書くことで目標が明確になり、おのずと進学する教育機関や選択すべき科目が定まっていくことになります。

5年間この「産業社会と人間」「産業理解」を担当してきて、毎年感動するのがライフプランのところです。最後にクラス全員の前で、それぞれが自分のライフプランを発表するのですが、みんなとても真剣に考えて、正直なことを書いてきます。どの生徒の発表も本当に素晴らしくて、聞いていて鳥肌がたつほど感動します。

また、この授業によってクラスがどんどん変わっていくということも実感しています。本校ではいじめが全くありません。どの生徒をみても他者を排除しないし、それぞれの生き方を尊重しています。そういう意味ではこの授業は非常に意味が大きいと思います。

■筑波大学附属坂戸高等学校

▲加藤 敦子先生

 
 
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