第9回 キャリア教育実践レポート

「産業社会と人間」 Part.6

神奈川県立大師高等学校の実践例(1)


インタビュー
神奈川県立大師高等学校
鈴木 史人先生
※部署名、役職名、施策などは取材当時のものです
更新:2006/10/02
神奈川県立大師高校は、県下初の総合学科設置校である。以前は普通科高校であったが、平成6年度に神奈川県教育委員会の委託により「総合学科」研究指定校になり、校内に「総合学科設置委員会」を設置。2年間におよぶ研究で、総合学科設置の趣旨、総合学科に期待される進学者像、1年次の原則履修科目「産業社会と人間」の役割などが、同校に入学してくる生徒にとって有効な教育活動であるとの確信を得たことから、平成8年度に総合学科を開設するに至った。
大師高校の総合学科は、平和・人権・環境・国際理解教育の実践をすすめるという目的を持ち、その具体的実践である教育活動においては、「自己発見」と「自己開発」を促す活動を行っている。 今回は大師高校で平成11年から7年間にわたって「産業社会と人間」を指導してきた鈴木史人先生に話を伺った。

自分自身を知るためにも
1年次に「産業社会と人間」を全員履修

本校ではすべての生徒が、1年次で「産業社会と人間」を履修することになっています。私たちがこの授業でやりたいのは、単に仕事観、職業観を育成することではありません。もうひとつ大きなところで、社会の中での自己の役割を知るということを目指していきたいと思っています。

もちろんそれを考えたとき、一番目に見えてわかるのは仕事や職業なのですが、でもその前に自分を知り、役割を知らなければ、仕事を考えるというのはありえないと思っています。

自分を知り、他人を知り
社会を知ることで「自己開発」へ

自分を知ってもらうため、本校の「産業社会と人間」では生徒たちにさまざまな体験をさせています。その中には、いろいろな職業のおとなたちとふれ合い、話すという体験も数多く含まれています。そうした体験を通して自分を知ったら、次は友だちを知って欲しい。最初は自分の隣にいる友だちから始めて、クラスの友人、学校の仲間、そして同世代のいろいろな子どもというように、どんどん興味の対象を広げていって欲しいというのが私たちの願いです。

自分を知り、他人を知り、そしてさらに自分を取り巻く社会を知る。それが我々の目指すキャリア教育であり、その先に「自己開発」があるように促していきたいと思っています。

毎年、「産業社会と人間」は1年生の学級担任と副担任、全員が担当します。本校は1学年8クラスなので、指導教員は全部で16名。そのメンバーで前年度の授業を見直し、細かい修正を加えながら、授業を行っています。

ふれあいキャンプから始まる
「産業社会と人間」のカリキュラム

本校の「産業社会と人間」は、入学してすぐに行う2泊3日のふれあいキャンプから始まります。これは、本校が総合学科になった当初から実施されているもので、筑波大学附属坂戸高校の授業を参考に行うようになったものだと聞いています。

入学してまだ何もわからない生徒たちを、いきなり泊まりがけのキャンプに連れていって放り出すので、最初はみんなとても不安になる。でもいろいろな活動をしていく中で、どの子どもも自分を助けてくれる人が周りにいることに少しずつ気づいていきます。それこそがこのキャンプの大きな目的なのです。毎年、卒業生たちの多くが、3年間で一番印象に残った行事はこのキャンプだったと言いますが、やはりそれだけここで体験することはインパクトが大きいのだと思います。

このキャンプでは本校の「産業社会と人間」はどういう授業なのかも説明し、「学習ノート」という教員手づくりのテキストを渡します。このテキストは1年間の活動に沿っていろいろなことが書き込めるようになっているのですが、この「感じたこと、考えたことを書く」というのがとても意味のあることだと思っています。本校ではここに書き込んだことをもとに、生徒たちに発表する機会も積極的に与えています。

自分の考えをみんなに伝える、あるいは人の考えを聞くという体験を繰り返し行うことで、生徒たちは自分を知り、人を知るということが少しずつできるようになってくるようです。

5月になると働くことの意味や職業とは何かを考える活動を行い、6月には「事業所見学」に出かけます。ここでの目的は地域の産業を実際に自分の目で見て、そこで働く人から話を聞くこと。私は「昼間のおとなが何をやっているのかを知ろう」と話しています。見学する場所は担当する教員によって毎年少しずつ違いますが、川崎市の特性を生かして、物作りをしている中小企業や公害監視センター、福祉作業所、ホテル、印刷工場などに行くことが多いです。

この「事業所見学」を含め、すべての職場体験に際して生徒はその時々で自分が一番興味のある分野を選ぶことになっています。中には自分の意思ではなく、友だちに誘われるままに着いていってしまう生徒もいますが、その結果新たな興味に目覚めるようなケースもあります。

夏休み前には科目選択のガイダンスを行います。本校の生徒は二学期になると早くも科目選択をしなくてはいけないので、夏休みを利用して個別面談も実施します。さらに9月の第四週と10月の第一週には、放課後を利用して教師が希望する生徒の相談に乗るという「ガイダンス週間」も設けています。こうした作業を経て、生徒は11月には選択科目を決定します。

交流体験で
「共生社会」を実感

10月には職業を離れて、社会を知ることを目的とした「交流体験学習」を行います。本校では「人権」「環境」「平和」「福祉」というキーワードを元に、それぞれに関わる人たちと交流。たとえば在日外国人、障害者といったマイノリティとの交流や、身近なところから環境問題に取り組んでいる人たちとの交流を通して、「共に生きる社会」について考えていきます。

こうした交流体験をすることを考えたとき、大師高校はとても地域に恵まれていると感じます。工場密集地帯を抱えている川崎市には環境問題を学ぶ施設が数多くあるし、高齢者も多いので福祉施設もたくさんあります。そうした地域の強みを活用して、毎年、交流先を探しています。

そして最後、12月には学校にいろいろなジャンルのプロを招いて職業について話を伺う「人とその職業から学ぶ」という活動を行います。毎年ここでは美容師、保育士、獣医など、生徒が大好きな職業の方を招くようにしています。

授業の総まとめとして
意見発表会を実施

1月にはいよいよ「産業社会と人間」の締めくくりとして「意見発表会」を行います。1年間の授業を通して一番興味・関心があったテーマを個々に研究し、コンピュータなどで資料を作って、クラス全員の前で発表するのですが、ここに至るまでに「感じたことを文章に書く」、「みんなの前で話す」という練習を何度もしてきているので、かなり面白い発表を聞くことができます。

この発表会には授業で見学や体験させていただいた施設の方たちを招待して、生徒の成長をみていただくことにしています。そういう交流をすることで、また翌年も協力していただけるような関係を築けると思うので、私たち教師もきちんと襟を正してきちんと感謝の気持ちを表すように心がけています。

本校が「産業社会と人間」を始めて10年になりますが、最近になって見直さなければいけない問題点がいろいろ見えてきました。たとえば卒業生の追跡調査を行うなどすると、今後、我々が変えていかなければいけない点が見えてくるかもしれないですね。校内の教師がひとつになって、新しい「産業社会と人間」を作っていきたいと思っています。

■神奈川県立大師高等学校

▲鈴木 史人先生

 
 
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