高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第24回

第24回
キャリア教育実践レポート
「栃木県のキャリア教育研究開発推進」Part.4
栃木県立栃木商業高等学校の
実践レポート(2)

インタビュー
栃木県立栃木商業高等学校 商業科主任
杉本 育夫先生
特活部長 本島 通宏先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
公開:
 更新:

2007年に21回目を迎えた「栃商デパート」は1987年から学校行事で始まった。教室で学ぶ各教科の総合的実践の場として、模擬ではなく実際的・体験的な学習を行い、人間性豊かでたくましい将来のビジネススペシャリストを育成することを教育目標に掲げ、毎年11月3日に行われている。
この取り組みと「キャリア教育推進事業」を結びつけたのが「ジュニア・キャリアアドバイザー事業」だ。2007年も地域の小・中学生のなかから希望者約50人が参加し、栃木県立栃木商業高校の生徒が挨拶の仕方や販売方法を指導した。赤いバンダナが小学生、青いバンダナが中学生と、ひとめで分かるようにして、栃木県立栃木商業高校生とともに貴重な経験を積んでいる。
2回目の今回は実際のキャリア教育の成果をはじめ、同校が他に実践強化していること、課題などを、商業科主任の杉本育夫先生と本島通宏先生に伺った。

異年齢集団が共に活動することで刺激し合う
職業観の形成に役立ち、意欲も旺盛に

「栃商デパート」を開催するにあたっては、実際に地域の百貨店や協力店を見学し、百貨店からプロの販売員の方に来てもらって接客の練習を行います。お客様へ声をかけるタイミングを教えてもらい、「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」等10項目を復唱します。

また「ジュニア・キャリアドバイザー事業」の良いところは、異年齢が一緒に活動すること。本校の生徒が挨拶や販売方法、レジの打ち方などを小・中学生に指導する場面があるのですが、高校生が中学生や小学生に思いのほか優しく接する姿は微笑ましく、普段の教室のなかではあまり見られないもの。教員も生徒の新たな面を発見する良い機会になっています。また小・中学生にとっても“あのお兄さん、あのお姉さんのようになりたい”という憧れ、自分も大人になったら県立栃木商業高校に行きたいとか、お店を開きたいとか、そんな意欲や向上心につながっていると感じます。実際、この事業に中学生で参加した生徒が本校に入学し、中心となって参加している姿もあります。

本校の生徒たちも、当日は小・中学生が声を出してお客様に対応しているのだから、自分たちも頑張らなきゃと刺激され、良い相乗効果が生まれています。かつてどの地域にも子ども会がありましたが、まさに「栃商デパート」はそれに取って代わるもの。異年齢集団が交わり、同じ目的でお客様に接することで、全人的な成長・発達を見せてくれます。

また1つの商品を売るのに多くの人がかかわっている事実を実感するとともに、自分たちで企画した商品が売れることの喜び・達成感も分かち合います。すべてを上からやらされるのではなく、自分たちの頭で考え、楽しくやっているからこそ得るものも大きいと感じますね。

販売終了後も本校生は伝票と売上金額が一致するまで精算したり、売上から原価や収益を割り出したり、損益分岐点の確認、お客様からアンケートを取って翌年の改善につなげるところまでしっかり実践します。まさにお店の運営や企業活動に近い体験をするわけで、生きた専門学習の場となっているのです。私たち教員は生徒たちだけでは至らない部分をフォロー、消費者や地域からのクレームがあればきちんと対応しています。

「栃商デパート」の試みにより、保護者から「子どもがしっかり挨拶したり、声を出したりするようになった」「積極的になった」という言葉をいただく機会も多くなりました。さらに企業(協力店)としても、ユーザー拡大を目的とした広報活動の良い機会にもなりますし、将来の就職先候補、後継者の育成にもつながるとあって毎年積極的に協力してくれます。「栃商デパート」は、生徒だけでなく、親、学校、企業、地域すべてにとって何かしらのメリットがあり、相互交流・理解を図る貴重な機会になっているのです。

進学意識が高まり、資格取得者も増加
多様な進路の幅に対応しながら生徒を支援したい

本校の進路状況は現在、約65%が進学、35%が就職という割合です。「栃商デパート」などで実践的に学ぶ機会があるせいか、授業や資格取得、部活動への積極性につながり、着実に進学率が伸びています。ここ数年、本校の生徒の実力が認められて4年生大学の指定校推薦枠やAO入試による合格者が着実に増えていますし、専門学校への進学も増えています。

本校は商業高校として、日商簿記・全商簿記や基本情報技術者試験といった資格取得に力を入れているのも特徴です。近年は、日商簿記1級や基本情報技術者試験という難関試験にも毎年のように合格者を輩出しています。2006年度卒業生は全商検定試験3種目以上1級合格者が66人も出るなど、先生・生徒両方の頑張りによる成果が出ています。合格者は名前を書いた札を玄関に並べて紹介しますので、それも励みになっているようです。

今後の課題は、学校教員が進路の多様化にいかに対応するか。ある意味、普通科高校であれば大学進学に力を入れればいいと思うのですが、本校では就職・進路とも実に多様です。とくに本校のある栃木市は首都圏に通学することも可能ですから、多くの大学や専門学校の情報を積極的に入手して、適切なアドバイスができるようにしていきたいと思います。

就職に関しては就職希望者のほぼ9割が栃木県の地元の企業に入りますので、地域との結びつきは相変わらず根強くあります。本校は、地域の企業から信頼される学校として、今後も地元との結びつきを大切にしていきたいと思います。

本校は大学、地域の方から、商業高校として信頼されていると自負しておりますし、本校で学ぶ生徒たちも何かしら商業高校に学んだことに自信を深めて卒業しています。今後も学習活動、「栃商デパート」や「ジュニア・キャリアアドバイザー事業」を通して、社会や地域との絆を強め、商業高校の独自性を生かしながら生徒を支援していきたいですね。

新着記事 New Articles