第25回 キャリア教育実践レポート

「専門高校の日本版デュアルシステム推進」Part.1

茨城県立日立工業高等学校の実践レポート(1)


インタビュー
茨城県立日立工業高等学校 進路指導部 副部長
御園 祐三(みその ゆうぞう)先生
※部署名、役職名、施策などは取材当時のものです
更新:2008/02/18
フリーターやニートの増加が社会問題化する中、職業観の育成や技術・技能修得の重要性が叫ばれている。このような時代を背景に、厚生労働省や文部科学省が連携し、ドイツの産官学一体の職業教育・訓練制度に学んだ「日本版デュアルシステム」が2004年(平成16年)4月にスタートした。これは「働きながら学ぶ、学びながら働く」ことにより、若者を一人前の職業人に育て上げようというシステムだ。
文部科学省では2004年6月に15都道府県15地域をモデル地域として指定。茨城県で唯一モデル校に選ばれたのが県立日立工業高校(山田修一校長)である。同校は1942年(昭和17年)に創立、工業高校としては県内2番目に古い学校。「ものづくりの城下町」と言われる日立市に位置し、全日制の機械科、電気科、情報電子科、工業化学科の4つの科と県内唯一の定時制機械科を有し、工業教育に努めてきた。
2004年度からモデル校としてデュアルシステムの研究に取り組んだ同校だが、Part.1ではどのような経緯でスタートし、どのような実施内容で行っているのかなどを、同校進路指導部副部長の御園祐三先生に伺った。

元企業経営者がコーディネータとして
生徒と企業のマッチングを図る

本校では2004年度に文部科学省から「専門高校等における『日本版デュアルシステム』推進事業」の指定校になり、3年間にわたってこの事業の推進に取り組んできました。日立市からの働きかけがあり、校長を中心に「特色ある学校づくりになるし、ぜひやろう」という機運が盛り上がり、職員会議で合意に達して実施することになったのです。

本校だけでなく工業高校全体にいえることだと思うのですが、従来から生徒の目的意識の希薄化、地域全体の教育力の低下といった問題が表面化していました。本校でも2001年からインターンシップを導入し2003年からは就職希望者全員がインターンシップを行うキャリア教育に努めてきましたが、もっと企業に密着した形で職業教育を行うことはとても有意義だと考えたのです。

そこで地元企業が蓄積してきた技術や技能の継承を担う人材の育成、学校の活性化とともに「ものづくり」産業の活性化、さらに生徒の就業意欲の向上と就職時のミスマッチ解消、地域の産業界が求める人材育成などを目的に掲げて研究がスタートしました。

2004年度は茨城県教育委員会と連携を図って、受け入れ企業先や参加生徒の決定等、翌年度からの企業派遣実習に向けた準備年度としました。実施するにあたっては、まず茨城県教育庁高校教育課や茨城県経営者協会や日立市商工課、日立商工会議所などと連携した運営委員会をつくりました。また茨城大学工学部と連携して、デュアルを体験する前に出前授業をやってもらったりもしました。

そして2005年度には15事業所において18名の生徒が、2006年度には16事業所において20名の生徒が参加。ある程度成果を出せたとみて、3年間の研究指定終了後も、本校の特色としてデュアルは継続していこうとなりました。そして2007年度は茨城県の事業として継続、19事業所において24名の生徒が参加しています。

本校のデュアルの大きな特色は、地元の製造業に精通している元企業経営者をコーディネータとして採用し、生徒と受け入れ企業とのマッチングを図ったこと。教員では生徒の希望・能力・適性は分かっても、どの企業が合っているかを見極めることは難しいのですが、コーディネータが生徒と面接し、会社の事業内容や社風を見極めた上で「この企業がいい」と生徒に勧めてくださるのです。こうした商工会議所をはじめ、元企業人の協力、それまでインターンシップで培った企業との連携があったからこそスムーズに運んだといえるでしょう。

地域の教育力を借りたい学校と
人材を育てたい企業の思惑が一致

実習先企業の主な業種としては、製造業・自動車整備業・情報関連業などです。日立市は日立製作所のお膝元だけに、大手企業から中小企業まで多様な企業が存在しており、金属加工、金型製造、発電機の組み立てや溶接業などのほか、情報関連もコンピュータソフトからハードまで、全体に手を動かしてものづくりに参加できる企業が多いのが特色です。毎年20人前後と少数に限られるのは、学校の学習との関連、部活への影響、1年間という長期実習への不安など、主に生徒側の理由によるものです。

この実習は2年次に行いますが、1年次の後期に参加を希望した生徒はコーディネータによるマッチングを経て企業先が決まります。その後は実習先見学および面接を経て実習提携協定書の調印、さらに損害負担・賠償責任保険への加入手続きを行ったうえで実習に臨みます。

具体的には4月頃安全教育をしっかり受けて、5月から翌年2月までの毎週木曜日、1日中企業で働き、実践的に学んでいきます。受け入れ企業ごとに作成した実習プログラムに沿って実習を行いますが、生徒は実習終了後毎回「実習日誌」「自己評価表」を作成し、翌日、実習担当の先生に提出し実習報告を行います。

企業側には月1回「実績報告書」を作成していただきます。また実習担当教員は企業を巡回し、生徒の実習の様子を観察します。私も情報電子科教員なのですが、月に1~2回は各企業を回って生徒がどんな様子で働きながら学んでいるかを確認し、企業側の声を聞いて評価につなげます。

他の生徒は木曜日には各科の製図や実習といった専門科目の授業を受けており、教員はそちらも見る必要もあるのでそれなりに大変です。ですが、実習先の企業で業務の合間にボランティア精神を発揮して生徒に実習課題を与えて、それを見守ってくださる会社の社長さんや社員の方には頭が下がります。

これは日立市、商工会議所、企業側に熱意と高校教育への理解があるおかげであり、ものづくりの基盤がある地域だからこそ。地域の教育力を借りたい学校側と、地元の人材を育てたい企業側の思いがマッチしているからこそのシステムといえますね。
《つづく》

■茨城県立日立工業高等学校
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