第27回 キャリア教育実践レポート

「東京都のキャリア教育推進校」Part.1

東京都立本所高等学校の実践レポート(1)


インタビュー
東京都立本所高等学校 S-F(Self-Fulfillment Program)部
吉田 美幸先生
※部署名、役職名、施策などは取材当時のものです
更新:2008/05/12
都立本所高校は東京都東部の墨田区に位置し、77年の歴史と伝統を誇る普通科中堅校だ。都立高校改革が進む中で、2003年からキャリア教育の導入、生活指導の充実に取り組んできた。また2006年に特進クラスを設置するなど、大学進学率の向上にも力を入れている。
中でも特徴的なのがキャリア教育を「生き方教育」と捉え、総合的な学習の時間を活用しての「Self-Fulfillment Program」(自己実現プログラム)の実践である。将来の目的意識や勤労観を涵養することにより、生活態度の改善や学習意欲の向上等につなげている。
2006年からはインターンシップ教育に実績のある女性校長を迎え、全校一体となってのキャリア教育を推進。2007年からは都の重点支援校に指定され、キャリア教育推進の実績で文部科学大臣表彰も受賞した。前編ではキャリア教育導入の背景や全体の流れ、1学年の取り組みについて、プログラムの創設からかかわっているS-F部の吉田美幸先生に伺った。

「総合的な学習の時間」を活用し、3年間で
自己実現を図るS-Fプログラムを実践

本校は従来から素直でおとなしい生徒が多かったのですが、やや目的意識が希薄になる面がありました。それが卒業生の1割以上が進路未定者という課題となっていました。生徒に早くから長期的視点で進路について考えさせたいと、多くの教師が暗黙のうちに考えていたと思います。しかしLHR中心に行う進路指導では時間的限界がありました。そんな状況下で「総合的な学習の時間」が高校で実施されることとなり、本校でも週1時間の時間をうまく活用して3年間にわたる継続的なキャリア教育を推進していこうとなりました。

活動内容は最初から細かく決めずに、実践しながらそのつど固めていきました。プログラムの企画・運営は当初進路指導部が行っていましたが、小さな組織ですばやく柔軟に判断・対応する必要があると感じてS-F部(現2名)を創設。総合的な学習の時間を核とするキャリア教育はS-F部が担い、卒業時点での具体的な進路決定に向けた進路指導は進路指導部が担うと役割を明確化、かつ互いに連携を図るようにしました。初年度は担任の先生方とも議論を重ね、試行錯誤しながらプログラムを作成。それが少しずつ積み重なって3年間の一貫した「Self-Fulfillment Program」(自己実現プログラム)となっていきました。

プログラムを主導するのは私たちS-F部ですが、実際に生徒に授業を行うのは各学年6クラスの担任や副担任の先生たちです。担任・副担任の理解を得るために、最初は足しげく先生方のもとへ説明やお願いに行きました。当初、学校の取り組みとしてしょうがないと思った先生もいたとは思いますが、実際に始めると目を輝かせて取り組む生徒もいるわけで、それを見てキャリア教育の意義を少しずつ理解していってくださったと思います。

「Self-Fulfillment」とは自己実現のことですが、プログラムでは特に生徒自らが「自分の素晴らしさ」や「何をやりたいのか」を発見することを大切にしています。そのため、1学年は「自己理解」(職業観・勤労観の育成)をテーマとして、職業インタビュー、職業調べ学習、職業ガイダンス「プロに聞く」、発表会などにより自分発見に努めます。そして2年次は「自己啓発」(体験活動の重視)をテーマに、2年生全員のインターンシップ、大学・短大の先生による模擬授業、表現演習などを行います。そして3年次は「自己実現」(確かな進路選択)として、表現活動、マナー講座、面接講座、課題研究などを行います。

1学年では調べ学習や職業人の講演、
発表を通じて「自分発見」に努める

S-Fプログラム実践の軸となっているのが、毎時数枚ずつ生徒が書き込むワークシートです。学んだシートは生徒ごとにファイルに綴じる形式で、3年間やることで一人ずつ分厚い冊子が出来上がります。例えば1学年最初の時間「自分を知る」ではA4用紙7枚を配布し、各作業を通じて自分を見つめてもらいます。過去・現在・未来の自分について、長所・短所や家での様子など多様な切り口で記入させます。

そして後半には予想した未来の自分になるために今、勉強、部活動、日常生活などの各方面をどうして行きたいかを考えさせています。また自己評価だけでなく他者評価などもしてもらい、自分を客観的に知るヒントとします。ワークシートの最後に必ず生徒自身の考えを書き込む欄を設けたのは、自分の生き方について主体的に考えられるようになってほしいとの思いからです。

1学年1学期の取り組みには職業インタビューがあります。これは親戚や近所で気になる職業の人、例えば日ごろお世話になっている美容師さんなどに話を聞いて、自分なりに感じたことをまとめて発表します。また職業人による講演会では、携帯電話の電池部分など金型加工プレス事業で知られる株式会社岡野工業の岡野雅行社長や、てんぷら油などをディーゼル自動車燃料に転化する事業で注目される株式会社ユーズの染谷ゆみ社長など、墨田区界隈で人生を切り開いてきた方を毎回招き、働くことの意義や生きる意義を語っていただいています。

さらに2学期は、職業人12人を学校に招いて職業ガイダンス「プロに聞く」を開催。これは保育士や消防士、SE、三味線奏者など多様なプロの職業人から生徒が希望する一人を選び、座談会形式で仕事内容や働き方について話を聞いていくものです。仕事内容にとどまらず、挫折をどう乗り越えてきたかなど、現在に至るまでの人生の紆余曲折を話してくださる方もいて、生徒は引き込まれるようです。初年度の講師依頼には苦労しましたが、高校生とのふれあいを有意義に感じて、毎年、講師を引き受けてくださる方も少なくありません。

1学年の終わりには「仕事調べ班別発表会」を実施します。希望する職業ごとにクラスを超えたグループを編成。3学期をほぼ丸ごと使って班ごとに職業について調べて発表用にまとめていきます。女子には保育士や幼稚園教諭など、男子生徒にはSEや介護福祉士、自動車関連の職業が比較的人気になりますね。

約6人で形成される班の中で一人が主導権を持って発表するところもあれば、一人ひとりうまく役割分担をして発表するところもあります。おとなしい生徒がリーダーシップのある生徒に引っ張られて人が変わったように堂々と発表するなど、新たな刺激や人間関係の構築につながる場合も見受けられます。
《つづく》

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