第30回 キャリア教育実践レポート

「宮城県のキャリア教育推進校」Part.2

宮城県泉館山高等学校の実践レポート(2)
「一人ひとりの夢の実現を目指して“大志21”を実践」


インタビュー
宮城県泉館山高等学校 教務 佐藤 光一 先生
進路指導部長 遊佐 忠幸 先生
※部署名、役職名、施策などは取材当時のものです
更新:2008/07/28
宮城県泉館山高校は、県が行った「学校活性化プロポーザル事業」の募集に対し「大志21プラン」を策定して応募。2003(平成15)年度から3年間にわたり、県から「エクセレント・ハイスクール」の指定を受けた。
「総合的な学習の時間」等を活用した試みにより、国公立大学合格者の増加といった面だけでなく、生徒一人ひとりの進学・進路意識の向上、教職員と生徒の信頼感の深まり、さらに部活動の全国大会出場などの成果が表れている。
後編では2学年・3学年の取り組みについて、さらに「館山タイム」などとの相乗効果について、プラン導入時から指導にかかわっている教務の佐藤光一先生、進路指導部長の遊佐忠幸先生に伺った。

学問の魅力に触れる
「大学集中出張講義」を実施

1年次での「職業研究」を通し、生徒が希望の将来像をある程度描き出していることを踏まえ、そこに結び付く進学先を探究するのが2年次の「学問研究」になります。そこで、1年次の終わりに生徒の希望を取った上で、実際に大学の教授を招き、直接学問の現状を紹介してもらう「大学集中出張講義」を行っています。

仙台市内の有力大学として東北大学をはじめ、宮城教育大学、宮城大学、東北学院大学、東北福祉大学などの先生をお迎えします。生徒は10以上の講座から興味・関心あるものを2コマ取って講義を聴きます。学問の解説にとどまらず、例えば文系なら「唐詩を読む」とか「西洋史学に関して」「小学校教員の授業の進め方」など、理系なら「免疫と細菌の関係」「建築と地震」「新しいUNIXの使い方」など、高度で専門的な内容にも生徒は興味深く聞き入っています。

大学の先生をお招きするための交渉は教員が行っていますが、最近は私立大を中心に高大連携に関する事業に積極的な姿勢を見せるなど協力的な大学が多く、「出張講義」という企画にも年を追うごとに理解を得られているという実感がありますね。

2年生の夏休みは
「大学訪問」でモチベーションを高める

大学の授業の一端に触れて大きな刺激を受ける生徒たちですが、実際に自分の足でキャンパスに立つこと、自分の五感で大学を感じてくることが進路希望実現のための大切な行動だとして、2年生の夏休みはオープンキャンパス開催時に「大学訪問」を行っています。

かつては小グループでいろいろな大学の学部や研究室に出向いたのですが、大学側が対応に追われることや我々教員のきめ細かなサポートが難しい面があり、2年前からは進学希望の多い東北大学と宮城教育大学に的を絞りました。大きく文系・理系、教育系などのグループに分かれて大学を訪れて学科・専攻・研究室についての説明を聞いたり、質問事項についての回答を得たりします。

その後大学訪問した成果を報告書としてA4用紙1枚にまとめ、9月にグループごとに大学訪問報告会を行っています。大学に足を運んでキャンパスの雰囲気に触れることで、本当にこの大学に行きたくなったなど、モチベーションを高める生徒もいます。

その後は、自分の進路をもう一度確認し、学部・学科研究に打ち込んでいきます。

3年次の卒業論文を
生徒が自分と社会に向き合う糧に

3年次は、前期中に「卒業論文」をまとめるのが大きな特徴です。1年次の「職業教育」、2年次の「学問研究」において生徒は学校外からさまざまな情報を収集し、理解・発表してきました。興味・関心が明確になり、問題意識が深まったところで、今度は生徒自身が他の生徒や学校外の社会に情報発信源となることを意図したものです。

書くということは、自分の興味や思いの確認、考えを整理することにもつながりますし、国公立大学文系や看護系などの一般入試または推薦入試の小論文対策にも有効です。まとまった論文集は冊子にして全生徒に配布しますから仲間の興味や考えも分かるとともに、一生の記念にもなっていきます。われわれ教員も「先生、私の論文、読んでくれた」と言われることがありますよ。

生徒の論文を
多くの先生方が添削指導

卒業論文の書き方もかつては新聞記者など外部講師を招いたりしました。今は国語教員をはじめ、論文指導で経験豊かな先生に講義してもらったりしています。さらにポートフォリオの作成、論文を書くために必要となる構成要素などを認識させて下書きを繰り返し、前期の終わりには卒業論文を完成させるのです。

本校では手書きによる清書ではなく、情報処理室のパソコンを利用して論文を入力・保存することで提出完了という形式をとっています。書式はA4サイズに、3,000字程度を書くというもの。さまざまな取り組みを経験してパソコンを駆使しているので、3年生のこの頃には生徒全員がかなりの情報リテラシーを身に付けていることも誇れることの一つです。

地球温暖化といった環境問題から文化・歴史的なこと、サービス業のあり方について、音楽の効能、ゆとり教育、科学技術、医療問題など、一人ひとりが独自にさまざまなテーマで書いています。また本校は論文の書き方などを指導できる先生が多いこともあり、職員室や進路指導室をはじめ、あらゆるところで添削指導する光景が見られるのも特徴です。

3年間の取り組みで
先生と生徒の関係が緊密に

本校では進路指導室前の廊下に数人が座って勉強できるよう机と椅子を並べているのですが、3年生の中にはそこで放課後なども残って自習する生徒も多くいます。卒業式が終わっても、国公立大学の受験日まで学校を訪れ勉強し、分からないことは気軽に先生に聞くような姿も見られます。生徒たちの学校への帰属意識の高さも自慢ですが、「大志21」の取り組みで先生と生徒の人間関係がさらに緊密になっていると感じますね。

朝の「館山タイム」で
教員が発信する情報に触れる

さらに本校では人間力の向上のために、多様な内容の手作りプリントを読み視野を広げる朝の「館山タイム」を実施しています。先生が持ち回りで現代社会の魅力や問題点を意識させ、さらに生徒がミニ論評を書くことで、自分自身と向かい合う作業をさせようというのがねらいです。

これは朝の読書に近いものがありますが、本校では先生方が生徒に情報を発信して問題提起をし、生徒の知らない世界に注意を促すもの。生徒はそれにミニ論評で応えるという、双方向のやり取りを軸にしています。生徒から匿名の評価もあるので、教員も自分の番になるとどんな題材を取り上げようか悩みますが(笑)、それぞれ豊富な人生経験を活かして現代社会をどう見るか、その目の付け所を生徒に指南しています。生徒も自分の知らない世界が広がり、視野を広めることにつながっていると感じます。

教員一人ひとりの
生徒と深くかかわろうという姿勢が成果につながる

今後も「サポートプラン大志21」のプログラムで進路意識を向上させるとともに、朝の「館山タイム」、さらに自主学習を促す「土曜学習室」などを通して、生徒一人ひとりの夢の実現を支援していきたいですね。実際、本校は国公立大学受験に必要な5教科に対応できるバランスの取れた学力、部活動や行事すべてに一生懸命に取り組むというのが大きな持ち味です。教員一人ひとりが授業だけでなく、どんな場面でも生徒と深くかかわろうという姿勢があることも成果につながっています。

今後も学校が一体となって
生徒の夢を支援し続ける

「大志21」の取り組みにより、進学意識は確実に向上しました。国公立大学合格者はここ5年連続100名を超える実績を上げていますし、部活動もさらに活発化し、テニス部や弓道部、吹奏楽部などが東北大会や全国大会でいい成績を上げるなど、文武両道の校風をよく示す成果が得られていると感じます。さらに館山三大行事とされる「球技大会」「翠樅祭」「体育祭」では、どの高校にも負けない盛り上がりを見せています。限られた時間で勉強と部活両方に成果を出すような生徒の集中力には、われわれ教員も頭が下がる思いです。

「大志21」の取り組みをマンネリ化させないため、常に生徒の希望やニーズに添って毎年変化を加えていくことも大切だと思います。研究指定の枠組みが外れるとお金の面でも厳しいですが、コストがかからない工夫も必要でしょう。

課題としては、生徒たちはただでさえ勉強に部活、行事で忙しいため、意外にセンター試験のシステムや受験科目のことを知らなかったりする場合もあります。その辺りをわれわれ教員がうまく補完しながら、これからも生徒の夢に向かう気持ちや進学のサポートができればいいなと思いますね。

■宮城県泉館山高等学校

▲遊佐忠幸 先生(左)、佐藤光一 先生

 
 
 
 
 

▲生徒の卒業論文集

 
 

▲自習用の机が並ぶ

 

▲先生が作成する館山タイム

 
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