高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第32回

第32回
キャリア教育実践レポート
「愛知県のキャリア教育推進校」Part.2
愛知県立一色高等学校の実践レポート
「インターンシップ推進校として10年の実績、その成果と課題」

インタビュー
愛知県立一色高等学校 進路指導主事
藤吉 和之先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
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愛知県の西三河南部、三河湾沿いの幡豆郡一色町にあるのが県立一色高校だ。一色町はうなぎの養殖、諏訪神社の大提灯祭り、カーネーションの町として有名。一色高校は普通科(普通コース4クラスと情報活用コース1クラス)と生活デザイン科を持つ地域密着型の高校だが、1999(平成11)年度からいち早くインターンシップ制度を取り入れて実践してきた。
07年度から2年間は、さらに愛知県のキャリア教育推進事業の研究指定校にも選ばれている。インターンシップの事前準備や、事後発表会なども充実しており、確かな成果を生んでいるようだ。
実際にどのような成果と課題があるのか、同校の進路指導主事としてキャリア教育推進をリードしている、藤吉和之先生に伺った。

毎年インターンシップを実施し
県のキャリア教育推進研究指定校になる

▲藤吉 和之先生

愛知県立一色高校は、西三河南部の三河湾沿い、幡豆郡一色町にある高校です。本校には普通科、生活デザイン科があり、普通科には普通コース4クラスと情報活用コース1クラスがあります。また、生活デザイン科は1クラスですが、2年生からファッションデザインコースとフードデザインコースに分かれます。本校は生徒のうち半分は地元の一色中学校出身であり、愛知県の中でも地域に根ざした高校といえるでしょう。

キャリア教育は1999(平成11)年に文部科学省中央審議会答申でその推進が提唱され、約10年が経過しようとしています。本校でもそれと時を同じくして「インターンシップ」をスタートさせました。そして、2003年度より学年進行で「総合的な学習の時間」を中心にキャリア教育を行ってきました。07年度からは2年間、県からキャリア教育推進の研究指定校に選ばれています。

当初は、本校の特色を出すため、中学生に対する魅力づくりの面で、インターンシップをやろうという意向があったと思います。また、本校は進学希望者と就職希望者がほぼ半々の割合であり、とくに就職希望者にとって、社会体験することは貴重だとの考えがありました。また、進学か就職か決めかねている生徒が、職業や進学に目覚めるきっかけになる可能性もあると考え、実施に踏み切りました。

最初はハローワークや地元商工会の方々にも協力していただき、企業先を紹介してもらいましたが、毎年やっていくうちに、生徒のインターンシップに対する意識向上や、事業所側の理解、協力をいただき、軌道に乗ってきました。

2008年度は製造・販売から教育・医療関係まで 
68人の希望者が4日間の就業体験を積む

本校のインターンシップは、実際の現場で就業体験することにより、自らの職業適性や将来設計について考えさせ、主体的な職業選択能力や職業意識の育成を図る目的で実施しています。対象生徒は第2学年の生徒です。希望者が主体ですが、就職希望者はほぼすべて参加してもらっています。今年(08年)は68名が参加しました。

実施時期は7月から8月にかけて、事業所が受け入れやすい4日間を設定して行っています。受け入れ事業所に関しては、幡豆郡商工会の仲介もありますが、進路指導部が主体となったインターンシップ実行委員会が、事業所へ協力依頼をします。

本校は西三河地区という立地柄、トヨタ系の製造業が多く、実習先は自動車部品工場や機械製作所などを主に、保育・幼稚園関係、医療関係、旅館・ホテル関係、小売店、消防組合などを用意しました。

夏休み中にインターンシップを実施し
9月に協力事業所も出席する反省会を実施

5月になると、生徒は受け入れ企業リストの中から、希望により会社を選びます。希望者が多い事業所は抽選となりますが、その辺りは生徒に理解を促しています。1つの事業所で受け入れられる人数は、多くても3~4人です。生徒が多すぎても企業は対応が大変になりますからね。

期末考査が終わると、「心構え」「態度」「マナー」といった事前指導を行います。そして、7月末~8月にかけてインターンシップを行います。終了後は夏休み中に「日誌」「反省」などの報告書を書き、9月に提出させます。

そして職安(ハローワーク)、商工会、協力事業所の出席を得て行う反省会では、生徒がパワーポイントを使って発表も行っています。最後に実施生徒の感想をまとめた冊子「あこがれの手」を生徒が主体となって作り、事業所や保護者などに配布しています。

インターンシップを行うに当たっては、職安(ハローワーク)や地元商工会からの指導や援助、さらに職安から傷害保険の保険料の援助、地元事業所による就職講演会などさまざまなバックアップを受けています。

汗を流して働く中で
大きなやりがいと成長の跡が見えた

今年で10年目となったインターンシップですが、単なる見学ではなく、生徒は実際に汗を流して製作に打ち込み、人と接するなど、貴重な体験を積んでいます。わずか4日間ですが、成長の跡が見られますし、コミュニケーション力も伸びていると感じられますね。たとえば、抹茶製造販売を経験した男子生徒の感想としては、次のようなものがあります。

「自分はこの体験で何を学んだのかというと、『精神力と根性を持つこと』『失敗しても最後まで自分の責任を果たす』ということです。もちろん今言った2つの内容は、容易なことではありません。しかし、これを活かせば、何らかの結果が出ると思います。仮に、自分が将来、挫折しそうになった時に、今回学んだことが少しでも励みになってくれたら、このインターンシップに感謝したいと思うでしょう」(抜粋)

ほかにも

「今回のインターンシップで、自分はものづくりに向いているかもしれない、という可能性を発見できました。来年の就職活動の参考にしたいと思います」
「自動車整備士の仕事は暑く大変そうでしたが、出来上がった時の感動がすごいので、すごく楽しく、やりがいのある仕事だと思いました」
「4日間で看護師のすべては分からないけれど、人のために何かをしてあげるのは素晴らしいと感じました」

などが、インターンシップ報告集『あこがれの手』に掲載されています。

インターンシップの意義を
生徒が理解することが成功のカギ

▲県立一色高等学校

本校では、大学進学を希望している生徒でも、看護・医療系、幼稚園や保育所などの教育系への進路希望者にはインターンシップを経験させています。

できれば一般の大学進学を希望する生徒にも、意欲があるのなら経験してもらいたいと思っています。ただ、インターンシップ実施の意義を理解しないまま参加させると、なぜやりたくもない仕事をして、しかも見返りもないのか、という意識があるため、企業先へ行っても失礼な態度を取り、企業に迷惑をかけ、お叱りを受けることもあります。やはり、地域・企業との良い関係を築けてこそのインターンシップですので、それなりの意識を持った生徒でなければ難しい面はありますね。

基本的礼儀やマナー面の指導と
十分な事前準備が課題

今年の反省点としては、保育士をめざす生徒がインターンシップに出向いたのですが、「子どもを抱いたりあやしたりするのは上手だったが、挨拶ができない、靴を揃えられないなど基本的礼儀・マナーの点でなっていなかった」との指摘もありました。また機械製作系の会社で、担当者がたまたま席を外してしまったら、ただ立って見ているという受動的でコミュニケーション不足の生徒もいました。その辺りは、もう少し礼儀や基本姿勢を指導して、生徒を送り出すことが大切だと感じました。

地元志向を生かし
地元有識者による講演なども展開

本校ではこのほか1年次には「自己探求」をテーマとして、「在り方生き方講演会」(地元有識者の講演)、職業研究、進路講演会「仕事と人生」、職業人インタビュー、社長ゲーム、大学・専門学校模擬授業などを実施しています。

2年次は「実地体験」をテーマに、インターンシップのほかに進学・就職体験発表会など、3年次では「進路探究」をテーマに、就職講話や就職懇談会、会社・大学・短大・専門学校見学など、多彩なキャリア教育を用意し、進学・就職両方の生徒に対応しています。

実際、愛知県という土地柄、また、就職先・進学先とも県内ですべて事足りる環境のためか、地元志向が圧倒的に強いですね。保護者も、他県へ出ていくことを望んでいるのは極めて少数です。たとえば他県の有力大学に合格したとしても、「将来、愛知県に戻ってこられないのなら、行く意味がない」という保護者もいます。

インターンシップは
先生にとっては負担という意識も強い

なお、キャリア教育は、全国的に端緒についたばかりであり、その現状を把握するためのデータは十分ではないとして、本校で生徒と教師両方にアンケートを取ってみました。それによると、「インターンシップは何年生で行うのが適切だと思いますか」の問いに、生徒は「1年生と2年生」「2年生と3年生」など2回あってもいいという回答が比較的多くありました。これに対して、先生の回答は「2年生で実施」が大多数で、2回以上の実施は消極的でした。他の質問からみても、インターンシップは、指導者側の負担が大きいと感じているようです。

進路指導部主体の運営から
学年主体でやる方向を検討

本校ではこれまで、進路指導部が主になって、インターンシップの企画・運営を行ってきましたが、持続していくための道筋としては、企画は進路指導部が行い、運営は学年の行事として学年担任が中心になってやった方がいいのかな、と感じています。

それは、生徒を指導する際にも、進路指導部の先生より、担任の先生から指摘された方が、生徒の心にも響きやすいと考えられるからです。また、教員も、学校外部や他業種の人と積極的に交流を図ることで、社会の成功例・失敗例を幅広く見ることができ、それが生徒と相対した時の引き出しになる、とも感じます。

今後も、キャリア教育の効果的な方法を、教員や地域、保護者全体を巻き込んで考え、生徒が目的意識や進路を見出せる方策を考えていきたいと思っています。

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