高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第43回

第43回
キャリア教育実践レポート
「福島県のキャリア教育推進」Part.1
福島県教育委員会学習指導課に聞く
「専門高校活性化事業などで地域や企業と連携、
学力向上と社会人基礎力の育成にも力を注ぐ」

インタビュー
福島県教育委員会 学習指導課 指導主事
渡邉 浩志氏
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
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福島県は東北地域の南部に位置し、行政機能が集中する福島市、経済・交通の中枢で商業・工業・流通都市となっている郡山市、広大な面積を持ち工業・観光に特化するいわき市、多くの史蹟が存在し観光地で有名な会津若松市などを中心として発展。北海道、岩手県に次いで3番目の面積を有し、豊かな山岳地帯と川、海に恵まれ、稲作や果実に代表される農業、林業・水産業等も活発だ。
福島県教育委員会では学校・家庭・地域社会等との連携・協力のもと、小中高と発達段階に応じたキャリア教育を推進。高等学校においては「専門高校活性化事業」により、地域の企業と連携しての共同研究などを活発に展開し、働くことのへの関心・意欲を高めている。他にも、2010(平成22)年度から普通高校を中心に多様な進路希望を持つ生徒に対し一定の学力と社会人基礎力を育成する「確かな学力向上のための基礎力育成プラン」にも力を注いでいる。
福島県教育庁学習指導課指導主事の渡邉浩志氏に、近年の取り組みについて聞いてみた。

県立高校97校のうち約4分の3にあたる72校で
インターンシップを実施

▲渡邉 浩志 主事

福島県は、北は宮城県、南は関東圏などと交流がありますが、昔から比較的地元志向が強い土地柄です。生徒が親や地域との関係も結びやすく、職業意識も芽生えやすいのではないかと感じます。しかし、近年、生徒の勤労観や職業観の未成熟、フリーターやニートの増加、モラトリアムの拡大といった全国的に共通する問題を受け、キャリア教育にも積極的に取り組んできました。

インターンシップ等の職業教育にも力を注いでいます。現在、県内の県立高校97校のうち、72校(74.2%)がインターンシップを実施し、全生徒あるいは一部生徒が職業体験を積んでいます。やはり専門高校の割合が高いのですが、普通高校でも積極的に取り組んでいます。

就職促進支援員32人を配置し、
高校と企業とのパイプ役として活躍

2009年度からは県教委の施策として「就職促進支援員」の配置も行っています。不況の影響を受け、高校生の就職が厳しい状況にありますが、企業の人事経験者など32人の就職促進支援員を32校に配置。さらに一人の支援員が周辺の2~3の高校を見ることで、県内97の県立高校すべてをカバー。高校と企業とのパイプ役、あるいは就職を希望する高校生の相談役として、求人開拓や就職情報の提供などに力を注いでもらっています。

他にも就職希望者の多い高校では社会人としてのマナー教育なども取り組み、就職への足掛かりとなるよう働き掛けています。

近年も高校生の就職状況は厳しさが続いていますが、平成22年6月末時点の今年3月の県立高校卒業生の就職率は、98.7%となっています。就職希望者のほとんどは就職を果たしており、インターンシップや就職支援などの取り組みが一定の成果を示しているといえるでしょう。

専門高校(工業・農業・商業の各高校)で
企業との共同研究・開発に積極的に取り組む

専門高校の取組みとしては、キャリア教育充実事業として「専門高校活性化事業」(2009~11年度)が特徴的です。工業高校は全ての学校を対象とし、商業高校、農業高校はそれぞれにモデル校を設定し、地域の人材や企業と連携しての共同研究・開発に積極的に取り組んでいます(専門高校活性化事業については▼下記を参照のこと)。

工業高校ではロボットやソーラーカーなど最先端技術を企業と共同研究し、商業高校や農業高校では町おこしや商店街・企業と連携した商品開発が活発です。

普通高校では、進学後の学びの意欲につなげるという目的で、各校がキャンパス見学や大学の出張講義を積極的に行っています。地域の大学と連携を取りやすい環境もあり、例えば福島県立福島西高校の「一日大学」では、幅広い分野から大学教授を招いて講義を行い、生徒の興味・関心を将来の進路につなげています。同校以外にも大学のキャンパス見学や講義受講を行う高校は多くあります。

2010年度からは
「確かな学力向上のための基礎力育成プラン」を実施

2010(平成22)年度からは「確かな学力向上のための基礎力育成プラン」も実施しています。この目的は、学校の実態に応じた取り組みを通して、大学進学を希望する生徒のみならず、就職を希望する生徒にも「確かな学力」を身に付けさせるとともに、望ましい勤労観・職業観を育み、生徒一人ひとりの進路希望を実現できるような態度や能力の育成を図ることにあります。

対象校は県立高校25校。主な取り組み内容は以下の通りです。

(ア)確かな学力の向上
(1)学力の向上/英語・数学・国語について確かな学力の向上を図るため、生徒の実態に応じた教材を作成・活用する
(例)ブリッジ教材等の自主教材の作成・活用、週末課題等の自主教材の作成・活用等
(2)学ぶ意欲の向上
外部講師を活用した講演会を実施する等
(3)学習習慣の確立
外部講師を活用したガイダンスの実施等
(4)指導力向上のための校内研修の活性化
外部講師を活用した授業改善研究や指導力向上研修などの実施
(例)予備校講師による英語・数学の学習会、指導力向上のための校内研修、国公立二次試験対策のためのテキスト作成等

(イ)社会人基礎力の育成
地域との連携や地域の人材を活用しながら、基礎的ビジネスマナーの習得、社会人として必要な教養の定着、コミュニケーション能力の育成等
(1)社会人として求められる基本的スキルの育成
県内外の大学教授、企業、専門学校講師等を活用した講習会を実施
(2)学校独自の取り組み
キャリア教育のための指導教材作成、「デュアルシステム」等の実施、地域人材を活用した職業講話、職場見学会

(ウ)地域貢献活動
社会人としての基礎力の育成を図るための基礎作りとして、人間としての在り方・生き方についての自覚や認識を深めさせ、社会的自立に結び付けていくため、ボランティア活動等の地域貢献活動を実施しています。

このほか、福島県では大学進学の希望実現の上で課題となっている英語、数学の学力向上を図ると共に、生徒の知的探究心を高め学習意欲の向上を図る「学力向上推進プラン」も平成20年度から実施しています。対象校は普通科進学校の14校ですが、それら学校の取り組み内容等はすべて県立高校で共有化しようと考えています。

医学部を目指す生徒100名を対象に
セミナーや地域医療現場見学を実施い

また2009(平成21)年度から「地域医療を担う人材育成プラン」にも積極的に取り組んでいます。これは高校生の地域医療に対する関心を高めてもらうことにより学習の動機付けを図り、地域医療に貢献できる人材の育成を図ることが目的です。

2010年度は福島県立医科大学医学部に協力していただき、2日間にわたって医学体験セミナーを実施するほか、県北地区、県中・県南地区、会津地区、相双・いわき地区の4地区で、それぞれの病院や診療所等にご協力いただき、地域医療現場見学を実施します。

対象は医学部医学科進学を希望し、高い学習意欲を持つ県内の高校2年生約100名で、昼食代等を除いて事業参加に関わる経費は県教育委員会が負担します。

最新の医学を体験するとともに、医療現場を見学することで、生徒の更なる学習の取り組みに対する意欲を引き出し、高齢化社会における地域医療に貢献できる人材育成につながればと考えています。

福島県ではこのように、普通高校では生徒の希望する難関大学や国公立大学等への進学希望の実現を図ること、大学のキャンパス体験や職場見学で進学意欲を向上させることに積極的に取り組んでいます。これは教科指導とキャリア教育の両方がかみ合ってこそ目的意識が強固になり、勉強にも力が入ると考えるからで、今後も確かな学力と社会人としての基礎力をセットで育成することに力を注いでいきたいと考えています。

キャリア教育充実事業「専門高校活性化事業」

〈工業高校〉
県立工業高校が地域人材や地域企業と連携し、製品開発プロセスなどの課題研究の実施を通して学校教育の活性化を図ると共に、生徒に実践的な技術・技能を身に付けさせ、地域産業の振興を担う人材育成を図っている。2009(平成21)年度の共同課題研究は以下のとおり(2010年度は会津工業高校と喜多方桐桜高校と併せて12の工業高校で実施)

◎福島工業高校・・・酸性雨と水道用原水の水質の関係の研究、公共施設のユニバーサルデザイン
◎川俣高校・・・ロボットの製作(ロボット競技大会参加)、CAD/CAMを利用して、かえで焼き(回転焼き)の型の製作、エコノカーの製作
◎二本松工業高校・・・新しい塗装技術の研究、特殊金属の溶接技術の研究
◎郡山北工業高校・・・CAD/CAMシステムの研究、省エネに関する建築対策
◎清陵情報高校・・・ゲームの製作、簡易的な発電装置の製作
◎白河実業高校・・・マイコンカー、エコノカーに最適なタイヤの研究、ロータリーエンジンの研究
◎塙工業高校・・・ロボットの製作、ライントレンスカーの製作
◎平工業高校・・・鋳造技術の研究、測量技術の研究
◎勿来工業高校・・・生物資源利用による有害物質の除去、るつぼ炉の製作
◎小高工業高校・・・ソーラーカーの製作、汚水処理と水質検査

〈商業高校〉
県立商業高校が地域の人材や企業等と連携し、地域活性化に向けた課題研究の実施を通して、学校教育のさらなる活性化を図ると共に、生徒に実践的な知識を身に付けさせ、地域産業の振興を担う人材の育成を図っている。
対象校は若松商業高校、小高商業高校、喜多方桐桜高校の3校。いずれも、2010(平成22)年1月の課題研究成果発表会に、報告書の提示とプレゼンテーションを行った。

◎若松商業高校
研究テーマを「地元商店街活性化研究」として、七日町通りのアンケート結果による現状分析と将来を展望。地域の企業や商店振興組合理事長などの協力のもとPRビデオ作製やイベントを企画。

◎小高商業高校
研究テーマは「地産地消を目的とした新商品開発」で、地元企業と連携しての生産販売、新商品開発を行っている。一年目は地元JAや製麺会社との連携により、『だいこんかりんとう』『ブロッコリー麺』『トマトキャラメル』『ミソキャラメル』などの商品開発を行っている。

◎喜多方桐桜高校
研究テーマは「地域活性化に貢献できる新商品の企画・開発」で、「米粉」を用いた新商品開発、新商品パッケージデザインの作成などを実施。商品開発を行っている全国の高等学校をインターネットで調査し、「あんこピザ」「中華まん」「チーズタルト」等を試作し、商品化を模索。2年目は地元の協力企業を検討し、米粉の入った「チーズタルト」と「レアチーズケーキ」の商品化、パッケージやのぼり旗、のれんの作成などPR方法を研究している。

〈農業高校〉
◎福島明成高校(生物工学科)
「リンドウの大量増殖と新品種の作出」をテーマに、地域の方との協力も得て品質改良の実験を実施。今年度はUV照射による変異体誘導・新品種作出等を行っている。

◎磐城農業高校(食品流通科)
「地産地消農産物加工品の施策」をテーマに、いわきネギを使用したおやき、いわき梨を使用した『梨ジャム』、いわきトマトを使用した『トマトジャム』などの製品化を目指している。試作品はいわきブランド品開発委員の方々に試食してもらったり、商品化に向けた食品衛生の生化学検査、保健所の指導を仰いだりしている。

◎双葉翔陽高校(総合学科)
大熊町特産のナシとキウイフルーツを利用し、菓子やジャム、ドレッシング、焼き肉のたれ、石けんなどの試作品作りを行い、果樹部会女性部と講習会・交流会・試食会などを実施。企業と連携して商品化を目指している。

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