第52回 キャリア教育実践レポート

「岩手県のキャリア教育推進」Part.2

岩手県立盛岡商業高等学校の実践レポート
「出口指導ではなく、社会を逞しく生き抜く力を養成」


インタビュー 岩手県立盛岡商業高等学校
進路指導部副部長・キャリア教育担当 西里 孝義先生
副校長 佐藤 文也先生
※部署名、役職名、施策などは取材当時のものです
更新:2012/01/23
岩手県の県庁所在地・盛岡市に位置する県立盛岡商業高校は、県内商業高校の中心的存在であり、地域に根差した学校としてインターンシップ推進などにも積極的に取り組む伝統校だ。特に就職面では地域から高い評価を得ているが、近年は進学実績も伸ばしている。そして、数年前からは進路指導のさらなる強化とともに、商業教育をベースに実践的なキャリア教育を全校体制で推進している。
進路決定率も100%で推移しているが、同校が目指すのは単なる就職実績の向上ではなく、生徒一人ひとりの「社会を逞しく生き抜く力」の育成だという。実際にどのようなキャリア教育を推進しているのか、同校の進路指導副部長・キャリア教育担当の西里孝義先生と、副校長の佐藤文也先生にお話を伺った。

平成19年からキャリア教育を意識し、
「士魂商才人材プログラム」を開始

経済不況が長期化し、雇用情勢に好転の兆しが見えない中、より一層キャリア教育の重要性が高まり、不況下でも強い商業高校としての地位が求められています。そんな中で、本校は平成19年に金融機関出身の前校長が着任した辺りから、キャリア教育を意識した指導を強めてきました。

「生徒一人ひとりの個性の伸長を図り、国際的な視野に立って創造的に思考し、主体的に行動できる、心身ともに健全な人間を育成する」を学校教育目標に掲げ、キャリア教育実践に向けた取り組みを開始したのです。本校独自の教育プログラムを建学の精神から「士魂商才人材育成プラン」と名付け、それまでの実践で良いものは活かし、発達段階に合わせて3年間を体系化しました。例えば各教科、特別活動、総合的な学習の時間、日常生活・その他それぞれで指導内容を明確化。またLHRと「総合的な学習の時間」のプログラム内容をきちんと明示しました。

教職員の共通理解を図るのは難しい面もありましたが、大きな混乱もなく進めることができました。「キャリア教育とは?」と理屈から入るのではなく、まず実践して「今やっているのがキャリア教育なのだ」と実感してもらうようにしました。

就職希望者はインターンシップを実施
事前指導・事後指導も徹底する

本校の生徒は6対4で女子の方が多く、今年の3年生の就職と進学の希望者はちょうど5割ずつで進学希望者は年々増加傾向にあります。それぞれの進路希望に合わせたキャリア教育が本校の特徴です。

まず1学年は自己理解から始め、進路への関心を高めていきます。そこでグループ分けした上で職場・学校見学を実施(生徒の感想は下記を参照)。多様な進路について考えさせながら、具体的な進路目標の早期確立を促しています。

2学年では学力と人間性の伸長を図るとともに、企業調査やインターンシップ等により望ましい職業観を養い、将来設計につなげます。インターンシップは2学年の夏休みに、就職希望者に対して3日間実施しています。事前指導から実施、事後指導までを徹底しています。商業高校という特性から、スーパーなどの小売販売業、その周辺の流通業、さらに公務員、幼稚園などが主な体験場所で、変わった所として、動物園などもあります。体験後は各クラスで発表会を行うと共に、10月の文化祭では職場でどういうことを学びどんなことに気付いたのかを発表しています。社会人としての心構えや職業観の養成につながっていると感じます(感想は下記参照)。

また進学希望者に対しては、各大学・短期大学・専門学校などのオープンキャンパスに参加させ、学びたいことの確認と学習意欲の向上を図ります。

3学年では人生観・勤労観・職業観を育み、自己確立を目的として社会適応能力を育成しています。校外に出かけて企業や上級学校の現場を知る機会が充実しており、レポート発表などプレゼンテーションの場も数多く組んでいます。就職希望者には一般社会人による面接指導やスキルアップ講座、マナーアップ講座、SPI試験対策講座など、進学希望者には小論文、推薦入試対策なども行っています。

他校や地域とも連携した取り組みが活発
震災ボランティア活動も実施

本校ならではの取り組みとしては、工業高校と連携し、2学年の希望者が工業の基礎を学ぶ「キャリア体験プログラム」があり、3年間実施しました。近年は商業高校卒業生でも工場の機械化やシステム化が進んでいることから、製造技術者やオペレーター、あるいは事務管理部門で活躍できる可能性は高くなっています。そこでCADやハンダ付け、製品製作などの体験を通して、視野を広げさせる目的で生徒を送り出しました。平成23年度は都合でできなかったのですが、今後も可能な限り地域の高校と連携したり、工業系の就職希望者に対しては、製造業の工場見学などもどんどん斡旋したりしていこうと考えています。

また本校の流通ビジネス科では例年、20日間にわたり市内の食品市場などの場所を借りて“盛商マート”の運営を行っています。これは生徒たちが交代で、仕入れから在庫管理、販売、決算までを行い、商売をリアルに体感するもの。実際に近隣住民のニーズを読んで、全国から特産品などをWebで仕入れて販売し、商売の大変さと醍醐味を味わっています。地域の菓子店とタイアップして製品開発した「盛商ドラ焼き」などは本校の名物になっています。ちなみに今年は震災被害のあった沿岸地域、とくに同じ商業系列の宮古商業高校を支援しようと、文化祭では「復興支援」をテーマに掲げ、みんなで頑張って取り組み、模擬店やバザーによって得た収益金全額を義援金として差し上げました。

また、学校行事として、復興支援につながるよう震災ボランティア活動を急きょ取り入れました。9月と10月、クラス単位で陸前高田市と大船渡市に行き、丸一日かけて瓦礫の撤去作業など被災地支援を行ってきました(感想は下記参照)。被災地に行ってみて初めて分かることが多く、悲惨な光景を記憶に留め、支援し続ける必要性を体感。生徒が他者の痛みに共感し、自らたくましく生き抜く力に変えていって欲しい、と心から願っての取り組みとなりました。

資格取得・部活動も活発で
有意義な高校生活が進路決定につながる

本校は商業高校として資格取得にも積極的に取り組んできましたが、平成19年ころから特に資格取得者数は大幅に上昇。全商簿記実務検定や日商簿記検定、情報処理検定、経産省ITパスポート試験などで合格者を増やし続けています。また部活動も活発で、平成18年度はサッカー部が全国高校サッカー選手権大会で全国制覇を成し遂げ、23年度も全国大会に出場します。他にも春夏合わせて6回甲子園出場経験のある野球部や、文化部では県簿記コンクール13年連続優勝経験のある商業研究部など、全国や県下に誇れる部が多くあります。

このように勉強とクラブ活動を両立できる生徒が増えており、これが本校の自慢です。就職に関しても内定率、確定率ともにここ数年100%を維持しています。例年県内・県外を問わず多くの卒業生が販売やサービス業、製造業や公務員等に就職しています。

学校経営計画書を教員一体となって作り
各年度の目標を明確にしたことが成果につながる

こうした成果をもたらした一番の要因は、毎年「学校経営計画書」を策定し、数年先を見越した各年度の目標数値を教員が共有し、一体となってその目標に向かう意識が根付いてきたからだと思います。計画にあたっては教員全員が関わり、すべての分掌・教科が統一フォーマットにより重点目標や具体策、実施に向けた詳細な計画を作成しています。

公立高校は先生方が異動しますが、基本計画書を見れば人が入れ替わっても学校の方針がぶれることなく継続して指導できる、そのような仕組みを作れたことが大きい成果となりました。また平成25年2月に本校は創立100周年を迎えるのですが、そこに向けて数年計画で大きく飛躍しようという意識が教員一人ひとりに根付き、いい形でまとまったことも大きいでしょう。

推薦から一般へ進学実績の向上と
産業界とのパートナーシップ強化を目指す

就職で成果を出してきた本校ですが、課題の一つは進学の強化です。商業高校とはいえ本校の生徒たちの潜在能力からすると、上級学校進学にもまだまだ挑戦していけると考えています。現在、大学へは推薦入試による進学が主ですが、一般入試でも勝負できる生徒も増やしていきたいと思います。また単に合格実績を作ればいいというのではなく、大学入学後にもしっかり授業についていけるよう、推薦で入学が決まった生徒にはセンター試験の受験も義務付け、緊張の糸を切らすことなく基礎学力が備わるように指導しています。

そして2つ目は地域の産業界とのパートナーシップの強化です。インターンシップで生徒を受け入れてもらっている企業との絆を強固なものにし、盛商サポーター企業として、就職も含めて全面的にバックアップしてもらえるようにしていきたいと思います。

近隣の進学校では7時間目・8時間目まで授業に力を入れている学校もあるようですが、本校は部活動の時間が確保しやすい環境があります。学業と部活動を両立させながら本来の高校生らしいバランスのとれた生活を送っている生徒が多いと思っております。今後も文武両道を貫きながら、進学にも就職にも対応できる学校作りをこれからも進めていきたいと考えています。

岩手県は全国に比べて離職率が低い
長く社会で活躍できるキャリア教育を推進

本校は岩手県高等学校教育研究会の進路指導部会の事務局担当校でもあるのですが、就職した卒業生の離職状況などの問題にも取り組んでいます。平成22年に本校が取りまとめ校となって県内全ての公立私立高校において就職した卒業生の離職状況を調査しました。その結果平成19年度卒業生の3年以内の離職率は約29%という数字が出ています。

高卒就職者で3年以内の離職率が全国的には5割に達するとされる、いわゆる「7・5・3現象」と比較して大きく下回っています。誠実に粘り強く真面目な東北人特有の気質が浮かび上がってきた結果となりました。今後も県内の厳しい就職状況をにらみつつ、商業高校をはじめ他校とも連携して岩手県全体の就職率アップと離職率低下に努めていきたいと思います。

本校も企業との信頼関係を築き、生徒と企業の間でミスマッチがないよう生徒指導に努めるとともに、例えばサービス業の一部では厳しすぎる環境もあるようで、企業側でも少し長い目で人材を育成する姿勢を持っていただけるよう働きかけていきたいと考えています。いずれにせよ今後も出口指導で終わらず、就職や進学してからの先までを見越したキャリア教育により、生徒の「社会を逞しく生き抜く力」を育てていきたいと思います。

職場・学校見学の感想~抜粋~
  • 仕事は「充実感」「達成感」を得ることが大事だとわかった。
  • 自分のやりたいことだけでは通らない厳しさをわかった。
  • 職に就いてからも勉強が必要なんだとわかった。
  • 辛いことがあっても、それが今後の仕事に生きる。
  • 給料を貰うことがどれだけ大変で、うれしいことかわかった。
インターンシップを経験した生徒の感想~抜粋~
  • スーパーの仕事をしてみて、体がついていかない、商品の場所を覚えるのが大変だった。
  • 実際に仕事をしてみて、挨拶が大切であることを改めて実感した。
  • 自分から仕事を見つけ、分からない仕事は質問して、てきぱきと働くことが大切だと思った。
  • 本格的な体験を、今後の将来に生かしていきたいと思います。
震災ボランティア生徒の感想~抜粋~
  • 実際に被災地を訪れてみるとテレビで見た映像と違い、津波の恐ろしさが分かった。
  • 暑くて大変だったが、被災者の方々の役に立てればと思い頑張れた。
  • 今、自分が普通に生活していることが、改めて幸せだと思いました。
  • だんだんボランティアの数が減ってきていると聞いたので、ぜひまたここに来たい。
  • 被災した地元の方々から「ありがとう」「ご苦労さまです」など逆に元気を頂いた。
  • 将来私たちが社会に出た時に、被災地復興に携わっていくと思います。今回の経験で学んだことを生かし、貢献していきたいと思います。
■岩手県立盛岡商業高等学校

■岩手県教育委員会

▲西里 孝義先生

 
Lineup

【第21回】~【第30回】
千葉県のキャリア教育推進
~宮城県のキャリア教育推進

【第11回】~【第20回】
かながわキャリア教育実践推進プラン
~静岡県のキャリア教育研究開発推進

●静岡県のキャリア教育研究開発推進
19 静岡県立静岡農業高等学校(1) 20 静岡県立静岡農業高等学校(2)
●静岡県のキャリア教育研究開発推進
17 静岡県教育委員会(1) 18 静岡県教育委員会(2)
●かながわキャリア教育実践推進プラン
15 神奈川県立光陵高等学校(1) 16 神奈川県立光陵高等学校(2)
●かながわキャリア教育実践推進プラン
13 神奈川県立横浜桜陽高等学校(1) 14 神奈川県立横浜桜陽高等学校(2)
●かながわキャリア教育実践推進プラン
11 神奈川県教育委員会(1) 12 神奈川県教育委員会(2)

【第1回】~【第10回】
現在の高等学校におけるキャリア教育の実態
~産業社会と人間