第58回 キャリア教育実践レポート

「三重県のキャリア教育推進」Part.2

三重県立津高等学校の実践レポート(2)
「キャリア教育が学校全体のベクトル合わせになる」


インタビュー
三重県立津高等学校 進路指導部 主任
上村 和弘先生
※部署名、役職名、施策などは取材当時のものです
更新:2013/06/03
133年という三重県の中でも最も歴史と伝統がある津高校。普通科のみの進学校で難関大学への進学実績も豊富だが、近年は学校生活そのものをキャリア教育の場と捉え、学校行事やクラブ活動、人権教育、国際理解、大学・企業との連携を積極的に推し進めている。
Part.2では、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)事業、文系キャリアプロジェクト、進路実現のための大学別グルーピングなどの取り組み、そしてキャリア教育の成果と課題までの話を、進路指導部主任の上村和宏先生にお伺いした。

SSH事業もキャリア教育の一環として活用
三重大学等との連携で大学レベルの研究を経験

津高校は2007年度(平成19年度)より5年間、文部科学省のSSHの指定を受け、この活動もキャリア教育の一つの柱と位置付け、未来を担う人材育成を意識した教育を行ってきました。

本校は普通科のみの学校であり、特別なコースもありません。そのため、1年生は必然的に全員がSSH事業の対象となり、科学者や研究者による講演、科学館・博物館等での研修機会を持ちます。

三重大学とは以前から緊密な高大連携を図っており、例えば1年生の希望者は三重大学の指定講座を受講する「SS課題探求」や、理数系関連教科を中心に校内外で普段の授業とは違う「SS特論A」などを選択できるようになっています。

2年生では、三重大学医学部・工学部・生物資源科学部の協力を得て、通年で学部の研究活動に参加できる「SS特論B」や、論理的思考力を高めてプレゼンテーションする「科学論文」の授業なども設置しています。

また、夏期休暇を利用し、三重大学生物資源学部所有の海洋実習船「勢水丸」に乗船し、伊勢湾の水質調査や底生生物の採取、スナメリの観察を行う1泊2日の研修、大阪大学でのナノサイエンス研修、京都大学医学部でのDNAの抽出研修、年によってカナダなど外国へ出向いて化石と氷河の海外研修を行うなど、理系を志す学生の研究意欲・学習意欲を伸ばす多彩な活動を展開しています。

2013年度(平成25年度)からも本校は再びSSHの指定を受け、引き続き実験・実習を通した体験的学習に力を入れていいます。理系の生徒には保護者や地域からの期待も高く、今後も科学への好奇心を高め、将来の科学技術の発展に貢献できる創造的人間の育成を図っていきます。

文系キャリアプロジェクトでは
地域活性化や自己実現に向けた取り組みを実施

SSHの取り組みが充実するにつれ、文系選択生徒に対しても、より高度な「知」を探求する取り組みを充実させたいという欲求が教員の中に生まれました。そこで2011年度(平成23年度)から「文系キャリアプロジェクト」と題し、大学と地域社会との連携を進め、地域の活性化に取り組む三重大学の西村訓弘教授(地域イノベーション専攻)の指導のもと、後期に月1回のペースで放課後ゼミを実施することにしました。

初年度のゼミには希望者14名が参加。人口減少などを背景に商店街の衰退の問題を抱えている「津市中心市街地の活性化」を考えることテーマに実施。教授の指導のもと

「今という時代についての討論」からスタートし、
  ↓
大学生との意見交換
  ↓
活性化の素案作り
  ↓
商店街の人々との実際の意見交換
  ↓
活性化に成功した滋賀県長浜商店街の視察
  ↓
活性化案の練り直し
  ↓
活性化案を津市長に提案

という一連の流れで進めました。最後は市長の前で、自分たちの描く理想の街について、パワーポイントを使って発表し、地元の新聞にも取り上げられました。

生徒は商店街の店主らと話し合う中で現実社会の厳しさに触れましたし、他地域の街も視察することで視野を広げました。その中で意見交換をし、互いの議論を重ねたことで大人の共感を得るようなレベルの具体策を導き出しました。自分たちの取り組みが市を動かすという貴重な経験を積むことができたと思いますし、特に起業や街おこし等に関心がある生徒は経済・経営系の大学への思いを強くしたことでしょう。

2年目となった平成24年度以降は生徒自ら「自分のキャリアプランを考える」をテーマに、三重大学大学院トランスレーショナル医学科地域イノベーション学の大学院授業を津高校で開催。これからの社会や地域を担って行くのは自分たちで、地域と自分たちの将来像を重ねて描けるゼミとして主体的な学習を続けています。

グルーピングでは志望大学別に
教え合い、学び合うことが大きな成果に

本校では普段の授業は2学期制と65分授業を早くから導入し、実験や演習などを通してじっくり学べる授業展開を目指しています。2年生からは進路希望に応じ、類型I(文系)、類型II(理系)に分かれて学習を進めます。定期考査前や長期休業中には補習授業を行っているほか、夏休みには4期にわたる課外授業なども取り組んでいますが、普段は午後のクラブ活動とは時間帯をしっかり分け、「文武両道」を実践しています。

3年生で行われるグルーピングも大きな特徴の一つです。これは放課後に、同じ志望校を目指す者同士が集まり、互いに教え合い、学び合う学習方法です。生徒の自主性を重んじながらも、各グループには担当の先生がおり、生徒にサポートを行っています。東大、京大、阪大、名大、三重大などのグルーピングがあり、大きな成果を上げています。

他にも卒業生座談会を年2回開催し、生徒に大学で学ぶことの意義を伝えていますし、4月当初には新2年生・3年生向けに「受験生体感合宿」(1泊2日)を実施し、卒業生(大学生)との交流を深めています。(生徒の感想は下記を参照のこと)

受験勉強そのものがキャリア教育
「志」を強くすることに力を注ぐ

受験勉強はテクニックとして語られることが多いですが、本校では「受験勉強=キャリア教育」という考えで取り組んでいます。質の高い授業内容は、そのものが様々な分野と融合し、生徒の知的好奇心を刺激し、自ずとキャリア教育の土台となります。そのためには授業の中で数学科の教員が最近読んだ小説の話をしたり、逆に国語科の教員が関心のある科学問題に触れるなど、各教科の相互乗り入れが自然発生的に存在するのが望ましいでしょう。そのことで生徒の中で知識の総合化が起こり、知識と社会との関連性に気づくなど、キャリア教育の基礎的土壌が広がると考えています。

また厳しい受験勉強に向き合うためには、その先にある「志」が必要であることを、様々な取り組みを通して生徒に喚起しています。その「志」の根底に流れるのは、「世のため人のためたれ」という精神であり、その自己実現の手段として大学や学部の選択があり、受験が存在すると考えています。つまり受験勉強に真剣に取り組むというのは、自分と真摯に向き合うことであり、内省によるキャリア教育に他なりません。

キャリア教育が合格実績の向上も促す
“グローカルな人材”として活躍して欲しい

本校のキャリア教育は生徒一人ひとりにとって自分の未来像をより具体的にイメージでき、刺激となるよう企画した取り組みとなっていると自負しています。そのことは、それぞれの企画に対して年々応募者が増えて来ていることからも分かります。

その結果、大学進学における合格実績も向上しています。2013年度(平成25年度)入試では現役・浪人を含めて国公立大学合格者数は241名に及び、うち難関大には81名、地元三重大学は75名という数に及んでいます。また例年私大ものべ700人以上が合格し、中部・東海地区はもちろん関東圏、関西圏の有力私大に多数が合格しています。

しかし、大学入学が目的やゴールではなく、その先にある自分の希望、自分に課された使命を意識することが、生徒一人ひとりの努力のエンジンになっていることを実感します。また地元社会とコラボレーションする企画の中で、地元愛を感じる生徒が増えていることも感じます。

実際、インターネットが発達した現代では、東京や世界に出ていかなくても、あらゆる情報が入ってきます。今後はグローバルな視野と共にローカルな場所に自分の足場をしっかり持つ「グローカルな人材」こそが、世界と勝負できる人材といえるでしょう。本校の卒業生は日本や世界のリーダーとして活躍してもらうことが願いですが、その一方でいったん外に出たとしても再び地元に帰って来て、三重県や津市のために地域のリーダーとして活躍して欲しい思いも強くあります。

保護者を学校に招く「夜の座談会」を実施
生徒を三重県の財産と考え、一体となって育てたい

今の課題は教員と生徒、地域社会だけでなく、保護者をも巻き込んで意識改革を行うこと。例えば生徒が高い志やチャレンジ精神を持ったとしても、親御さんの一部は「そこまで頑張らなくても」と語られる場合も少なくありません。せっかくのポテンシャルがあるのに、それを摘み取ってしまっては、生徒の可能性を狭めてしまいます。

生徒は三重の財産であるという考えに立ち、今年度4月から3年生9クラスの保護者を津高校に招く「夜の座談会」(夜6時半~8時半)を9日間に分けて実施しています。平日夜が難しい保護者の方は土曜に予備日を設けて、極力交流するように。生徒の状況や教員の想い、生徒の家庭での問題点、経済状況などもさっくばらんに語り合う場としており、教員と保護者が同じベクトルを向いて生徒の夢実現を支援していけたらと考えています。

また三重県には普通科高校が12校あるのですが、私たちは公立高校ですから教員の異動がつきものです。先生が抜けることで、学校文化の継承が途切れては何にもなりません。また各高校のやって良かったと思えることは、他の高校でも参考になることは多いはず。そこで、三重県の普通科高校12校がネットワークを結んで「チーム三重」としてオープンに学校の情報を開き、意見交換をする活動も開始しています。

私たちは進路指導部として参考になる学校やイベントがあれば出向き、全国にネットワークを作ってきました。キャリア教育のノウハウをそのつどいろいろな関係者から教えてもらい、本校に合う内容をコーディネートした結果が今のキャリア教育につながっています。その意味で全国の先生方も情報収集とネットワークを大切に、自分の高校に良かれと思ったことはどんどん採り入れていく姿勢が大切ではないでしょうか。

また高校では学年別あるいは教科別にセクトが生まれがちで、ギスギスした関係に陥ることもありますが、進路指導部がキャリア教育を打ち出すことで学年や教科の壁を超えた対話が生まれ、良きベクトル合わせや学校文化の継承ができるきっかけにもなると感じます。

今後も本校はキャリア教育を生徒の人間力を高める重要な柱としながら、改善を重ね、より良い取り組みにつなげていきたいと思っています。

「受験生体感合宿」(平成25年4月2~3日に実施を経験して)
(参加生徒の感想を抜粋)

  • 雰囲気がすごく良くて、家で一人でするよりもはかどった。
  • 周りを見渡したときに、友達の頑張っている姿はすごく刺激になり意欲がわいた。
  • クラスが違って話せていなかった人とも、ディスカッションや部屋で話せたことが良かった。
  • 想像よりも集中できる場をつくってもらえたので、充実した2日間だった。
  • 受験勉強に対する不安がこの合宿で解消されました。良いスタートがきれそうです。
  • 津高校の良さを感じることができた。
  • ワークショップでは芯や夢のある先輩や先生の話が聞けて、進路を決める上ですごくためになった。
  • 様々な価値観をもった先輩と話ができて、視野が広まった気がします。

■三重県立津高等学校

▲上村 和弘先生

 
Lineup

【第21回】~【第30回】
千葉県のキャリア教育推進
~宮城県のキャリア教育推進

【第11回】~【第20回】
かながわキャリア教育実践推進プラン
~静岡県のキャリア教育研究開発推進

●静岡県のキャリア教育研究開発推進
19 静岡県立静岡農業高等学校(1) 20 静岡県立静岡農業高等学校(2)
●静岡県のキャリア教育研究開発推進
17 静岡県教育委員会(1) 18 静岡県教育委員会(2)
●かながわキャリア教育実践推進プラン
15 神奈川県立光陵高等学校(1) 16 神奈川県立光陵高等学校(2)
●かながわキャリア教育実践推進プラン
13 神奈川県立横浜桜陽高等学校(1) 14 神奈川県立横浜桜陽高等学校(2)
●かながわキャリア教育実践推進プラン
11 神奈川県教育委員会(1) 12 神奈川県教育委員会(2)

【第1回】~【第10回】
現在の高等学校におけるキャリア教育の実態
~産業社会と人間