高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第60回

第60回
キャリア教育実践レポート
「北海道のキャリア教育推進」Part.2
北海道千歳高等学校の実践レポート
「国際社会や地域と接点をつくり、生徒の多様な進路を応援」

インタビュー
北海道千歳高等学校 進路指導グループ
島田 奬(しまだ すすむ)先生
落合 雄一郎(おちあい ゆういちろう)先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
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広大な大地に農業・畜産・水産漁業・工業・商業など幅広い産業が根付いている北海道。少子高齢化を背景に景気低迷、就職難、学力低下など課題は多いが、だからこそキャリア教育によって職業観の育成、目的意識を植え付ける必要性は高まっているといえる。
Part.2では、普通科のほかに国際流通科や国際教養科を擁し、社会との接点を模索する教育を実施している北海道千歳高校を紹介する。
特にインターンシップや課外授業などを積極的に進めている国際流通科での取り組み内容をはじめ、何を課題にどんな教育を推し進めていこうとしているのか、進路指導グループの島田先生と落合先生の2人にお話を伺った。

北海道の交通の要・千歳市の中心部にあり
国際流通科を中心にキャリア教育を進める

▲島田先生(左)、落合先生

本校は昭和23年に設立され、創立66年目を迎えます。千歳市内の中心部に位置し、北海道の玄関・新千歳空港に近いだけでなく、札幌駅にも約30分の距離。施設・設備も10数年前に改築され、先進的で恵まれた環境の高校です。

全日制に普通科(各学年6クラス)、国際流通科(同2クラス)、国際教養科(1クラス)の3学科、定時制に普通科の1学科を設置する大規模校で、全日制は生徒数が1,000名を超える北海道で最も生徒が多い高校です。

本校の特色は、国際交流・国際理解教育を積極的に推進していること。韓国への見学旅行、韓国やアメリカなどとの相互訪問交流(ホームステイ)、カナダやオーストラリアへの語学研修、中国語・ハングル・ロシア語の学習(希望者選択履修)などを行っています。

国際流通科と国際教養科は商業科を前身として、創立50周年の年の平成11年に生まれました。

国際流通科は北海道に一つしかない学科で、国際ビジネス社会で活躍できる人材の育成を目指しています。キャリア教育に関しては、この国際流通科が最も積極的に行っているといえるでしょう。インターンシップや商品開発学習に力を入れており、地域のみならず全道からも注目を集めています。卒業後の進路は、近年は進学8割、就職2割と進学を目指す生徒が多くなっています。平成24年度の進路実績は大学16名、短大7名、専門学校31名、看護3名、公務員4名、就職19名。就職先は地元企業の事務やサービス、販売、製造などに広がっています。

国際教養科は英語力や国際感覚を高め、
普通科は大学進学を目指している。

国際教養科は、「時事英語」や「生活英語」「異文化理解」など英語や外国の文化を学ぶ科目が多く設定され、実践的な英語力や国際感覚の養成に努めています。ほとんどの生徒が私立文系の進路に照準を合わせて学んでいるほか、国立大学文系や看護学校に進学する生徒もいます。英語検定においても2級など上位の級の合格率は高い傾向があります。また英語指導教授や海外からのゲスト、留学生との交流を通して語学力と国際性を身に付け、外国語系大学・学部、航空関係企業を目指す生徒もいます。

普通科は文と理の類型制を取り入れ、進路目標に合わせて効率的な学習を支援。大学進学等でより高い進路目標を達成できるよう、学力の定着・向上に向けたカリキュラムを編成しています。普通科の生徒はほぼ全員が進学希望で、北海道大学や小樽商科大学のほか、北海学園大学、北星学園大学など地元の私立大学、専門学校、さらに関東圏や関西圏の大学を目指す生徒もいます。

多様な進路の選択肢があることが逆効果な面も
いかに生徒に目的を持たせられるかが課題

北海道はここ数年、景気低迷が続き、全道的に就職難が続いている状況です。本校は北海道の都市部にあるものの、生徒数が多いため、求人数が少ないと相対的に大きな影響を受けやすく、苦しい状況が続いています。国際流通科では就職を目指す生徒も2~3割と多いため、高卒段階できちんと責任の取れる社会人への基礎固めとして、ビジネスマナー講座などでサポートし、各教員が日常的に礼儀や挨拶を指導しています。

志望する大学や職業が決まっていたり、公務員試験などを目指したりする生徒は勉強も面接対策もしっかり行う傾向がありますが、進学から就職まで選択肢が豊富であることが、かえって生徒の気持ちをあやふやにする面もありますね。自分の適性が分からないとか、将来何をしたらいいか迷っているなど、目的意識が漠然とした生徒も多く見受けられます。自分でしっかりと目標を掲げ、自ら進路を主体的に選び取っていけるようにすることが、我々教員にとっても大きな課題となっています。

平成24年度には初めて長期インターンシップを実施
8日間にわたり生徒が貴重な現場で仕事を経験

国際流通科では、従来から2年生の9月後半の2日間にインターンシップを行っています。毎年30以上の事業所で、国際流通科の生徒全員ができるだけ希望を考慮して職業を体験します。本校のOB・OGが千歳市内を中心に事業を営んでいるケースも多く、母校愛を持って活動に協力してくれています。2日間と短いですが、単なる職場見学ではなく、実践に踏み込んだ内容です。実際に一つの職場で働くことの大変さややりがいを学ぶことができた、という生徒の声も上がっています。

平成24年度には、2年生の1月に初めて長期インターンシップを行いました。特に希望する女子生徒6名が、千歳空港内にある2事業所にて、8日間にわたり接客を中心とした仕事を経験。一つは大手航空会社グループのグランドスタッフ、もう一つはお土産屋で知られる菓子メーカーでの販売の仕事です。

グランドスタッフは、大学や短大レベルのインターンシップと変わらないほどで、社員の指導のもと空港内のご案内や接客、発券業務のサポート、トラブル時の対応等、かなり高度な業務を行っていました。また菓子メーカーでも売場での商品の陳列から販売まで実践さながらでした。その企業の就職試験を視野に参加している生徒もおり、大変有意義な体験だったという感想も聞かれました。

ただし、企業側の経営環境や生徒受け入れの余裕があるかどうかの問題、本校からも意欲ある生徒を毎年送り出せるかも課題で、2回目以降の長期インターンシップは今のところ検討中です。

進路講話をはじめ、
国際流通科集会ではOB・OGを招く

国際流通科では1年次は進路意識や職業意識の醸成、進路に対するモチベーションの土台を作る時期と捉え、出前講義や進学相談会、進路ノートの作成などに力を入れています。また毎朝10分の朝学習の時間に企業人のコラムなどを読ませて、文章を読むことで知識を蓄積し、社会に対する視野を広げています。

1年次の2月に行った進路講話では企業説明を兼ねて、北海道内では著名な3企業(自動車系メーカーなど)から人事担当者を招聘。求める人材像などを話していただき、生徒に刺激を与えています。例えば接客業や専門職に就きたい生徒は企業人の話を聞くことで刺激を受け、社会人マナーの習得や資格取得に関してはかなり自主的に頑張れるようになりました。

また例年2月には1・2年生を対象に「国際流通科集会」を開いています。国際流通科の卒業生で就職内定した大学生、あるいは既に働いているOB・OGなどを学校へ招いて、体育館で3つのブースを用意。生徒たちは自分の興味関心に応じた卒業生のブースに出向き、話を聞きます。仕事の楽しさ・厳しさ、就職のためにはどんなことを大切にすればいいのか、大学や専門学校では何を学べるのか、などを語ってもらって、生徒たちの進路の参考にしてもらっています(卒業生のコメントは▼下記を参照のこと)。

「課題研究」では企業とコラボして商品を開発。
それを機に求人募集が来るという成果も

他にも実践的・体験的な学習に力を入れ、積極的に取り組んでいます。例えば3年生の「課題研究」では、自分たちが考案・提案した商品を実際に企業に打診して商品化を図ったりしています。企業とのコラボレーションでは、これまで食品会社と一緒にパンやスイーツを開発したり、日本ハムファイターズと食品企業のマスコットがコラボしたストラップを開発したりするなど、生徒たちの若い感性・アイデアが活かされています。

また商業教育フェアとして、年に1回全道の商業の学科を持つ高校が集まって新札幌駅周辺で販売実習を行っています。選ばれた生徒数人が自分で企画した商品を、自分たちの手でお客様に販売。販売の大変さと同時に、お客様の笑顔に接する楽しさを味わっています。企業との共同研究では、生徒たちは一生懸命プレゼンテーション力を高めて自分たちの意見をプッシュしています。そのことが企業の印象に残り、そこから本校に求人を寄せてもらえるケースもあります。

資格取得などにも力を注ぎ、
推薦入試による進学も増加

他にも本校では進路目標実現のため、資格取得に力を入れています。全国商業高等学校協会主催検定を中心に、情報処理検定・簿記検定・ワープロ検定・英語検定などを受検。卒業生の 約9割以上が、いずれかの検定1級を取得。半分以上が1級を3種目以上取得して、それを就職はもちろん、ビジネス系の専門学校などへの進学に活かしています。

進学についてはおおむね推薦制度を利用することが多いですね。最近は就職難の影響もあって、これら検定資格を活用して大学・短大・専門学校へ進学しようという生徒が増えています。

教員一人ひとりが地元や保護者、社会から情報を収集。
3学科連携して生徒の将来が見えるようアドバイスしたい

今後の課題の一つは「総合的な学習の時間」の活用法です。進路意識が曖昧な生徒向けに社会と接点を結ぶようなイベントをもっとやりたいのですが、現状では部活動や学校祭などの行事もあり、なかなか思うようにはいきません。

制約がある中でもインターンシップや企業とのコラボレーションの機会を増やすこと、あるいは新たなイベントを創設したり、地域との繋がりをもっと増やしたりすることを考えていきたいですね。OB・OGや保護者の皆さん、企業とのネットワークも緊密に取り、教員一人ひとりも多くの職業人などから情報を収集。生徒の進路相談に密に対応、良きアドバイスを送ることによって目的意識の向上につなげていけたらと思います。

その一方、土曜講習を開いて受験指導を行ったり、出前講義によって大学の授業を聞くチャンスをもっと与えたりするなど、進学意識を高めていくことも力を入れていきたいと思います。

3学科ある本校では、一時は各学科でセクト主義的になることもありましたが、3学科体制となって10数年が経過。例えば普通科で就職希望者がいたら国際流通科の教員が相談に乗ってあげたり、また国際流通科で進学意欲旺盛な生徒がいたら普通科の先生に入試の相談に乗ってもらったり、語学系の勉強や留学がしたい生徒がいたら国際教養科の先生が学科の壁を超えてバックアップするなど、持ちつ持たれつの関係が生まれています。これまで各学科で築いた指導ノウハウを共有・交換し、連携する姿勢をますます強めていけたらと思います。

今後も北海道の経済情勢の悪化や就職難に負けず、できるだけ早い時期に生徒に進路意識を醸成し、意欲的に頑張れるように指導できたらと思います。入学時には目的が曖昧な生徒も、本校に入ることで多様な選択肢から自分に合った方向に照準を合わせてくれること、最後まで諦めない姿勢を培って社会でも頑張り通す力をつけてくれることが願いです。 今後も国際社会や地域と一体となって、一人ひとりの生徒のニーズに応えられるような教育を模索し続けていきたいと思います。

国際流通科卒業生のコメント

◎平成25年3月卒業 高野 奈菜美さん/北海道銀行勤務

「私は入学時より進路を就職と決めていました。また希望職種も国際流通科で学んだことを活かせる『金融系事務職』に就くことを志望していました。
そのような中、先生から北海道銀行主催の『スキルアップサマーキャンプ』という講習会があると聞き、早速、参加させていただきました。そこでは北海道銀行の皆様の優しさ・明るさ、銀行としての活動・行風を学び、『ここに就職したい』という気持ちが一層強くなり、会社について様々なことを調べました。
夏休み明け後のテストが終了し、毎日のように面接練習をしていただきました。その結果、内定をいただくことができましたが、これは私の進路を親身に考え、面接練習に付き合ってくれた先生方や友人、家族の支えがあったからだと思います」

◎平成25年3月卒業 斉藤 江里さん/小樽商科大学商学部1年

「国際流通科を卒業し、今改めてここで3年間学ぶことができて良かったと感じます。それは国際流通科で学んだことが、今の自分にしっかりと活きているからです。
例えば、私が所属していた部活動『BSC(ビジネス・スタディ・クラブ)』では様々な活動を通し、社会や大人の方と関わらせていただきました。そこでは商品開発など、普通に高校生活を送っていては体験できないような経験をたくさんすることができました。例えば『どうしたら、この商品は魅力的になるのか?』と考えることにより、普段授業で学んでいる商業の知識を身近に感じ、『商学をもっと学びたい』という意志がさらに強まりました。それが、進学を希望した理由でもあります。
国際流通科の進路は就職から大学までと、とても幅広い選択をすることができます。私は『進路の決定から受験まで』あらゆる面で多くの先生方に支えていただきました」

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