高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第67回

第67回
高校教育最前線ルポ(神奈川県横浜市)
白鵬女子高等学校
「国際理解教育の充実と6コース制の採用で、
多様な生徒が切磋琢磨し、進学実績も向上」

インタビュー
学校法人白鵬女子学院 白鵬女子高等学校
進路指導部長 
加藤 芳孝 先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
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神奈川県の東部、横浜市鶴見区に位置する白鵬女子高等学校。川崎や鶴見、網島など各駅からアクセスできる閑静な住宅街の中にある。ここ数年、新しい時代が求める能力を持った人間育成に力を尽くすため、国際交流のネットワークを大きく広げ、生徒が目標を見出せる6コース制を採用。豊かな人間性とグローバルな視野を持つ女性へと成長できる環境を整備し、教育目標を掲げて改革に取り組む中で教員も生徒も互いに高め合う気風が生まれ、活気に満ちた校風が生まれている。今は5年前の2倍に生徒数が膨れ上がり、上位校への進学も狙える人気校に。進路指導部長の加藤先生にどのような改革、進路指導をしているかお話を伺った。

平成28年度に創立80周年を迎え、女子教育にこだわり続ける
提携校を欧米・アジアに広げ国際交流を活発化

▲加藤 芳孝 先生

本校は昭和11年に京浜女子商業学校として川崎市に創立し、戦後に現在の横浜市鶴見区に移転して京浜女子商業高等学校となりました。昭和63年に白鵬女子高等学校に校名を変更して、普通科を中心とした女子教育となり現在に至ります。設立から一貫して約80年女子教育にこだわり続けてきました。

「知力の練磨」「体力・意志力の鍛練」「清楚なる情操の形成」を建学の精神に、「知にすぐれ、徳高く、健やかに」を教育理念に、「人格陶冶」「自学創造」「個性尊重」を教育目標に掲げています。

近年は国際化が進む社会に対応し、本校が目指す生徒像を、横浜から世界へ、グローバル社会に生きる人間をそだてるため『国際感覚を身に付けて、自ら考え、判断し、主体的に行動できる生徒』としています。そのための取り組みが国際理解教育の充実です。

平成22年頃から中国、アメリカ、イギリス、カナダ、トルコ、ブータン、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、タイ、韓国の学校と次々と姉妹校・交流校を提携。交換留学や教育交流の他、海外研修制度としてショートホームステイ、2~3カ月留学、5~6カ月留学、1年留学まで豊富なメニューを用意。毎年20人以上の生徒がいずれかの留学を経験しているほか、年々参加希望者が増える傾向にあります。交流校・提携校は国際教育に力を入れている名門女子校が多く、治安も良く安心のサポート体制があることも人気の理由になっています。

本校は修学旅行もイギリス、オーストラリア、沖縄などで、ホームステイやファームステイなど体験型学習を組み込んでいるのが特徴です。短期・長期の留学ではホームステイしながら現地の学校に通うので、より大きな刺激を受けます。1年留学は選抜も行っていますが、34単位が卒業単位として認定されるので、帰国後も同学年での卒業が可能になっています。

現地の生徒や海外の文化に触れる中で自立心が芽生え、英語力はもちろん人間的に大きく成長して帰ってきます。また留学を糧に語学力アップや進学への意欲が向上、英検資格の取得やTOEICの点数アップ、大学進学へ勉強意欲が増すなど、その後も確かな成長が見られます。

また毎年、姉妹校や交流校の先生なども本校を訪れ、いろいろな文化交流が行われています。平成26年度からは国際教養「ホスピタリティ概論」という授業も開始。各分野で活躍する方を招いて、マナーや世界への発信力も身につけています。

セレクトコース・国際コースでは特に進学意欲が高まり、
G-MARCHクラスの大学を目指せる高校へ

本校の特徴の一つがそれぞれの夢に近づくため、興味関心に応じた6コース制の採用です。

「セレクトコース」は、志望する大学に進学するための受験学習に力を置いたコースで、G-MARCHクラスの上位大学の進学を目指しています。基礎を徹底的に固め、土曜日も授業を行い、十分な学習量を確保、2年生から文理に分かれ、段階的に学力を高めます。

「国際コース」は、外国語(英語)と国際教養を身につけ、真の国際人を目指すコースです。英語を道具として使う環境を作り、海外へ出て視野を広げる準備をします。在学中に一度は留学を経験する生徒が多く、親の一人が外国人という生徒や海外からの留学生も多く在籍。クラスの副担任はネイティブ教員で、朝のホームルームの連絡事項も英語で行います。また本校には海外からの訪日団が訪れますが、その際も本コースの生徒がおもてなしの役割を担い、高い英語力を発揮する生徒もいます。

「メディア表現コース」はクリエイターやメディア関係の仕事を目指すためのコースで、デザイン・映像・音響の基礎を学び、総合的にメディア表現を習得します。マッキントッシュパソコン40台を備えた教室など充実した施設も活用できます。

「スポーツコース」は、充実した体育授業、部活動の中で自ら専門競技の向上を目指します。インストラクターやトレーナー、理学療法などスポーツに関わる基礎的知識も身につけ、卒業後の進路に役立てています。本校は部活動も強く、全国高校駅伝などで活躍している陸上部の他、水泳部、体操競技部、テニス部など、全国レベルにある選手も本コースに多く在籍しています。

「保育・福祉コース」は保育士や介護士など専門職に就きたい人のコース。ピアノ・リトミックや造形、介護技術や援助技術も実践的に学びます。地域の大学や専門学校との教育連携、地域の保育園や社会福祉施設での実習により専門スキルを学ぶことができ、適性も確かめられます。

「総合コース」は将来を決めている生徒も、まだ将来を決めていない生徒も自分の興味関心から選んで学べるよう、多彩な選択科目を開講しています。例えば動物看護、美容総合、マンガ、声優、ダンスなど、大学や専門学校からも講師を迎えて幅広い科目を開講して生徒の夢・発見を支援しています。

多様な生徒が得意な分野でしのぎを削る一方、
友人や他者を思いやる良き校風はそのままに

このように国際理解教育の充実、6コース制によるきめ細かなバックアップ体制が生徒の意欲を後押しするほか、電子黒板が配備された新教室、明るいカフェテリア、作法室、国際研修寮、グラウンド用地の拡張など、施設・設備の充実も特徴です。

これら時代や生徒のニーズに合わせた様々な改革により、本校への入学者は5年前の約2倍に膨れ上がっており、本校を第一志望として入ってくる生徒も7割近くに達しています。

生徒やその保護者からの期待もますます高まる中、進路指導も3年間を見通して1年次より計画的に行っています。1年次には「学習習慣リサーチ」や「進路調査」を実施し、その結果をもとに面談を行い、進路意識を高めています。2年次には進路ガイダンスを実施し、大学・専門学校から各分野の説明を受け、進路選択に役立てています。3年次には希望進路の実現に向けて担任の先生が指導し、私たち進路指導部が情報の提供やバックアップをしています。

土曜日授業などで高い受験力を養っているほか、夏期講習・冬期講習・春期講習なども実施し、学習意欲・進学意欲を高めています。同時に各コースとも3年次には「演習科目」を多く設けて、受験対策など強化すべき分野の学習に力を注いでいます。

本校の平成26年度進路内訳は大学が約5割、短大1割、専門学校3割、その他就職という割合です。同年度には慶應義塾大学、上智大学などの合格者も輩出し、中堅大学以上の合格率が飛躍的に伸びています。

また、本年度平成27年度には横浜市立大学の合格を決めています。特にセレクトコース、国際コースではセンター試験利用入試や一般入試でしっかりと目標に向けてチャレンジすることを奨励。他コースでも指定校推薦をはじめ、AO入試や公募推薦入試など多岐にわたる入試に合わせた進路指導を行っています。他にも専門学校・就職希望者にも丁寧に対応しています。

今後はG-MARCHクラスの現役合格者を毎年20名規模、日東駒専クラスを毎年40名規模位に増やしつつ、上位大学に合格できる高校へ進化させていくことが目標です。

現在、学習面に関しては基礎教育をしっかり行うと共に、画一的な一斉授業だけでなく、発表や話し合いを行ったり、タブレット端末を活用しデジタルでの学びを浸透させたりするなど、教員一人ひとりが興味関心を喚起させる工夫をしています。

本校は多様な得意分野や目標を持つ生徒が切磋琢磨していますが、部活動はもちろん、かつて芸能活動と勉強を両立した生徒を輩出した実績もあり、生活面でも良き先輩やOGが模範となってくれています。

女子だけの空間はグループで固まりやすい傾向にはありますが、何かに秀でて競争意識の高い生徒も、他の分野では人を思いやる気持ちを持っているのが本校の良き伝統と感じます。多様な個性が集まりながら、誰もが自分と違うことを認め、受け入れる。例えば保育・福祉コースの生徒が日常的にお年寄りや子供、障害者に優しく接していたり、国際コースの生徒が外国人の先生や友人と積極的に交流したりする中で、自然に人に優しく対話する校風が育まれています。

体育祭や文化祭もかつて受け身の生徒が多かったのですが、国際交流や自学自習を通して何でも自分でやる習慣が根付き、今では主体的に参加する生徒がほとんど。今後も生徒数が増えても、女子校ならではの思いやり溢れる空間を大切に、リーダーシップや協調性、粘り強さなどを持った女性を育み、大学や国際社会に送り出していきたいと思います。

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