高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第72回

第72回
高校教育最前線ルポ(埼玉県春日部市)
埼玉県立春日部女子高等学校
「生徒の可能性を引き出す指導により
一般入試での大学進学実績が向上」

インタビュー
埼玉県立春日部女子高等学校
進路指導主事 
伊澤 俊雄 先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
公開:
 更新:

埼玉県立春日部女子高等学校は、100年以上の歴史がある県内有数の伝統校で、現在も数多くの卒業生が各界で活躍している。最近は、指定校推薦に頼らず一般入試で4年制大学をめざす指導を徹底し、国公立大、私立の難関大、有名女子大などへの進学実績が年々向上している。進路指導主事の伊澤俊雄先生に、進路指導についての考え方、指導方針、指導内容などについて話を伺った。

教育のダイナミズムを忘れず
学校生活すべてでキャリア教育を

▲伊澤 俊雄 先生

伊澤先生は、生徒が自分を伸ばし可能性をひろげられるような進路指導を大切にしている。

「キャリア教育は大事ですが、将来の職業をまず設定して、そのための進学先を考えるという指導はしていません。本来は、学校生活すべてがキャリア教育なのだと考えています。

日々の学校生活をきちんと送っていくなかで、自然に職業観を育んでいき、進むべき学校も考えていけるようにしたいと思っているのです。

先日、世界史が好きな生徒が相談にきました。大学にいって世界史を勉強してもそれが職業につながるでしょうか、という質問でした。私は『好きなことを4年間かけて真剣に学べば自然に道は開ける。OGを見ていても実際にそうなっているよ』と答えました。

短絡的に職業や進学先を考えさせるのではなく、学校生活すべてを通じて生徒の可能性を広げていく。そういう教育のダイナミズムを忘れてはいけないと思います」

具体的な進路指導でも明確な方針を打ち出している。それは、指定校推薦に頼らず、一般入試で4年制大学をめざすことだ。

「本校は、難関大学、有名大学の指定校推薦枠がたくさんありますが、なるべく使わないような指導をしています。理由の1つは、自らの力で進路を切り開く、指定校推薦に頼った進学をしていると、学校全体の学力レベルが徐々に下がり、衰退の道をたどるからです。

もう1つの理由は、生徒が学力を伸ばす機会を奪ってはいけないということです。生徒は3年生の後半、とくに年が明けてからの1~2か月、まさに受験直前という時期に大きく伸びることが多いのです。

指定校推薦やAO入試などは、早いところは2学期早々に事実上、合格が決まることも少なくない。そうすると、せっかく学力を伸ばし、人間としても成長できる機会が失われてしまうことになりかねません」

長期休業中の補習授業を充実させ
塾や予備校通いを不要に

同校は、一般入試で4年制大学をめざすためのバックアップ体制を整えている。その1つが、塾や予備校に頼らせない指導だ。

「本校の生徒は、素直でまじめなのですが、器用に勉強をこなすというタイプではありません。ですから、学校の勉強と塾や予備校の勉強を同時にするのは、かなりの負担になってしまいます。

それに、それぞれの生徒がどの科目のどういうところを苦手にしているかといったことは、本校の教員が一番よく知っています。そこで、夏休みなど長期休業中の補習授業を充実させているのです」

今年の夏は、土日祝日を除く毎日、朝7時の0時間目から夜7時まで、びっしり講座を用意した。対象は1年生から3年生まで。生徒は数多くの講座のなかから勉強したいものを選んで受講する。これだけの補習を行うのは、先生方にとって大変なようだが、むしろ、楽しみのほうが大きいという。

「どの教員も補習には積極的に取り組んでいます。とくに3年生は、この夏の補習から年明けまでの半年で大きく変わっていきます。その様子を見ることができるのはうれしいものです。

この夏も、補習が始まって2週間ぐらいすると、明らかに表情が変わってきた生徒を見ることができました。そういう意味では、大変というよりも楽しいですね」

入学後の合宿で学習習慣を体感し
夏には1年生全員が職業調べ

同校では、補習授業以外にも、生徒が自分の将来像を考えながら勉強に取り組めるように多彩なプログラムを用意している。それは、入学直後から始まる。

「1年生は、入学後すぐに外部の施設で2泊3日の学習合宿を行います。中学の勉強のなかで積み残してきたものに気づかせることと、予習・授業・復習という黄金サイクルの大切さを体感させるのが目的です。

合宿施設では、生徒にまず予習をさせてから授業を行い、自宅に帰ったつもりで復習をさせています」

6月には全学年を対象とした進学相談会を開催している。これは市内の施設に大学を集めてガイダンスを行うものだ。

「3年生は4時間目、2年生は5時間目、1年生は6時間目を終えてからと時間差を設けて行っています。きていただく大学は50~60校で、本校からの進学者や志望者が多いところですね。

生徒は、関心のある大学のブースで話を聞き、刺激を受けています。今年は保護者の方にも参加していただいて大盛況でした」

夏休みには、1年生は職業調べ、2年生はオープンキャンパスへの参加をそれぞれ全員が行う。

「1年生は、各生徒が2つの職業を調べます。実際に職業に就いている人に話を聞いて、仕事の内容や意義などを記入シートにまとめ、夏休み明けに提出します。担任は、よくまとまっているものを選んでクラスでプレゼンをさせます。さらに、そのなかから1つを選び学年全体でのプレゼンもさせます。そうすることで、生徒はいろいろな職業への理解を深めることができます。

2年生は、1人が2校のオープンキャンパスに参加して、内容を記入シートにまとめて提出します。こちらは学年によってやり方が異なりますが、今年の学年はよくまとまったものを選んで学年全体でプレゼンをさせました」

伊澤先生が担任をしていたときは、職業調べで2つのうち1つは自分が絶対にならないと思う職業を調べるように指導していたそうだ。

「実際に調べてみると、意外にも興味を持つようになって、世界が広がることがあるのです。職業だけでなく勉強についてもそうなのですが、先入観念で壁をつくってしまわないことが大事ですね」

一般受験の徹底で学力が伸び
4年制大学進学率が86%に向上

2学期に入って9月末頃には進路講演会を開催している。

「東北地方の高校で長く進路指導に携わっていた村上育朗先生をお招きして、1・2年生向けと3年生向けの2つの講演をしていただいています。村上先生は、本校がめざす人間像の1つでもある『凡事徹底』、つまり、当たり前のことを当たり前にやる大切さなどを含めて進路の考え方を話してくださっています」

さまざまな指導が成果をあげ、ここ数年は、進学実績の向上が目立っている。

「3~4年前まで4年制大学と短期大学を合わせて80%の進学実績だったのですが、2年前から4年制大学だけで80%になり、今年の春は86%になりました。しかも、国公立大、私立の難関大、有名女子大、看護大に100名以上が合格しています。

これは、一般入試での受験を徹底させることで生徒の学力が伸びてきたのが大きかったと思います」

伊澤先生は、進学実績をさらに向上させ、同校の長い歴史と伝統を継承していくことが大切だと話す。

「本校は106年も続く女子の伝統校で、OGも大学教授や各界のトップとして活躍されている方がたくさんいます。そういう流れを途絶えさせることなく将来にわたって継承できるように、進学実績もさらに向上させていきたいですね」

新着記事 New Articles