高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第74回

第74回
高校教育最前線ルポ(神奈川県横浜市)
横浜女学院中学校高等学校
「ていねいな進路指導で進学実績が向上
SGHアソシエイトにも選定される伝統校」

インタビュー
横浜女学院中学校高等学校 学習・進路指導主任
峰 康治 先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
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横浜市街でもとりわけ洗練されたエリアとして知られる石川町エリア。生徒数約800名を擁する横浜女学院は、市街を見渡せる閑静な住宅街の一角にある。キリスト教を教育の礎とし、「愛と誠」を校訓とする中高一貫校だ。戦後の復興期に実業学校として多くの卒業生を輩出してきた同校は、国際化と女性の活躍の時代である21世紀に進学実績と特徴ある進路指導で確実に地歩を築いている。

社会のリーダー・シップを担う人材へ
中高一貫校としてのカリキュラム改革

▲峰 康治 先生

戦火に見舞われた市内のふたつの学校が創立者の金子正先生により合併されたのは1947年。前身の横浜千歳女子商(1886年創立)からは130年の歴史があります。

当初は実業学校としての性格が強い面もありました。またキリスト教主義学校のため保護者、生徒が学校に期待することは、受験対策よりも人間的な成長です。したがって、これまでも受験一辺倒のカリキュラムに舵を切ったことはありません。

1992年に中高一貫校となったのを機に、時代の要請に応えるだけでなく、さらに時代を先取りしながら、進学に重きを置いたカリキュラムの充実と整備を続けてきました。本校の理念として、社会に有為な人材を育てたいという思いが一貫してあります。社会に出てリーダー・シップを発揮できる人材を育成するというのは自然な流れだったのです。

カリキュラムの充実をはかる中では、進路に応じた大幅な選択制を導入したのが大きな転換点となりました。

もうひとつは、1990年から米国での海外セミナーを開始して、時代の求める国際理解のための研修も行ってきました。これは高校2年生の希望者が参加するものです。1994年からは中学3年生全員が参加するニュージーランド研修も実施しています。

希望者対象の海外セミナーは、今では研修先として欧州にも選択肢を広げて実施しています。修学旅行を海外でという動きは盛んですが、本校独自のカリキュラムの一貫として、現地の教育機関の協力による探求型のプログラムが特徴です。

卒業生の進路も大きく変化しました。就職希望から進学へという大きな流れが加速しただけでなく、生徒の多くが国公立大を含む難関校への進学や留学にシフトしてきています。大学入学をゴールのひとつにするのではなく、将来のキャリアを見据えて何を学びたいのかをしっかり考える生徒は確実に増えてきています。

学力が向上する一方で、難関校へのチャレンジの壁となっていたのは、実は推薦入学の多さでした。自分にちょうどいい大学を控えめに選んで、推薦を受けてできるだけ負荷をかけずに進学する生徒が大半だったところへ、現状に満足することなく、推薦の枠を超えていま一歩踏み出すために、学校は生徒の背中を押す役割を担いました。言い換えれば、頑張ってステップアップしていく生徒たちの資質を、学校も大いに信頼していたと言えるでしょう。

チャレンジする生徒応援する進路指導
ひとりひとりに合った大学選び

10年ほど前に進学研究会という場を設けたのは、「あなたたちなら大丈夫です。チャレンジしてください」と大学から生徒に直接呼びかけてほしいと望んだからです。

5~10月にかけて東工大、外大、横市大、早慶上智やMARCH、学習院・明治学院・成蹊・成城などから教授や入試担当者をお招きしています。希望者は中学3年生から参加可能で、保護者もご参加いただけます。中3生で大学入試担当者の話を聞けるのは中高一貫校ならではですし、大学という存在の意識づけには大いに役立っていると思います。

この取り組みで強調したいのは何を学びたいかであって、学校の人気などではないということです。説明会に参加すると親近感が芽生え、今まで意識が向かなかった学校に入りたい、頑張ってみようという気持ちが生じます。大学の人気やブランドにとらわれない進路選択が大切だと思っています。MARCHに続く学校群の校風や学生の気質などを検討し、生徒に合った学校をともに選んでいくという作業です。

生徒に合った学校とは、教員が学生一人ひとりの名前を覚えているような、先生と学生の距離が離れすぎていない学校です。進路指導の教員が実際に大学を訪れて確認しています。

学生一人ひとりの居場所があり、たとえ第一志望ではなかったとしても入学してよかったと思えるような中規模校に、確実に合格させていきたいと考えています。それは横浜女学院が生徒一人ひとりの居場所を大切にする校風ですから、そのような大学を奨めるということです。

第二、第三志望の大学に合格するのと連動するように、難関校にも合格するようになりました。生徒の個性に合わせた丁寧な進路指導と、偏差値や人気だけを基準にしない学校選びが功を奏したのだと思っています。

得意科目からの志望校選びより
自分がいま好きなことからの出発

これらの変化の背景には、生徒が教員の意識を変えたという面が多大にあります。言うまでもなく、生徒は学校の中心にいます。詰め込みで受験対策をしたり、進路指導で難関校に誘導したりするようなことはこれまでありませんでした。短時間で付けられる受験学力というのは、意識を変えさえすればあるレベルまでは付いていきます。

しかしそれは生徒の力の一部であって全部ではありません。生徒が何を求めているのかを見極めた結果、生徒の資質に依拠してカリキュラムや進路指導が変わっていったという、教育のダイナミズムの成果でした。チャレンジする機運が生徒たちに高まったときに、私たちはその背中を押す役割を果たしたに過ぎないと思っています。チャレンジする機運と授業の活性化が、さらなるステップアップをもたらすという好循環が生まれました。

大学受験に向けた第一のステップは高校1年生の担任との面談です。1年次に2年生からの文理選択を行いますから、本格的に進路を意識する初めての機会になります。その時点では志望校というよりも大きく文系理系の進路の整理を行い、いま何を学びたいと思っているのかから出発して、どういった学部に入ればそれが学べるのか、大学での学びにどう繋げていけるのかを考えることが重要だと思っています。

英語が得意だから英文科、社会科が得意だから社会科学系というように、安直に志望を導き出すのではなく、自分の興味・関心の出発点を、好きなこと、好きなものにまで広げて考えることで、行き着く志望学部は重層的な広がりを持ち、現実との接点が生まれます。

たとえば、同じ消費者心理を勉強するのにも、マーケティングや心理学など、複数のアプローチがあります。そこから、志望校の絞り込みへと繋げていくということです。大学での専門教育も、学際的に専門と専門とを横断しコラボレートするのが主流になっている今日に即した進路選択の考え方だと思います。成績がいい科目より、好きなことを専門に繋げて勉強した方が、モチベーションを高めると思います。

生徒たちの資質に信頼して学校も変化
国際化を見据えた取り組みが高評価

本校は、平成27年より始まった文科省のスーパーグローバルハイスクール(SGH)事業のアソシエイトに選定されています。

生徒の社会課題に対する関心と深い教養、コミュニケーション能力、問題解決力といった素養を身に付けて、将来、国際的に活躍できるグローバル・リーダーを高等学校段階から育成するもので、ディスカッション、フィールドワークを重視した質の高いカリキュラムの開発・実践やその体制整備を進めるとされています。本校でも異文化理解やグローバル・イシューについて、大学からの出張講義を受ける高大連携の一環として取り組みます。

このSGHアソシエイトの選定に際しては、横浜女学院が進めているカリキュラムの充実とキャリア教育の実践とともに、積極的に外に打って出る活動が担える生徒たちであるということも評価されたのだと思っています。

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