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大人社会を読む
(後編)


工藤 啓
更新:2008/07/28

都内の都立高校で一時間目から講義をする機会がありました。朝一番の授業ですから、まだ夢から覚めていない学生もいます。ある男子学生は、私が教室に入る前から机に突っ伏して寝ていたようです。熟睡しているように見えました。講義が始まっても動けず、担当の先生からも「放っておいてください」と言われてしまいましたので、普段のように声を掛けることもしませんでした。

50分間の講義が終わる頃、彼は目覚めました。表情を見ると、よく寝たという感じは見受けられず、ちょっと体調が悪いように見えました。講義が嫌で寝ていたというより、それ以外の選択肢が持てなかったのかもしれません。先生に促されて、感想文だけは書いていました。学生の数が少なかったので、彼のアンケートがどれかはすぐに分かりました。「講義を聞けない状況だったのだから、感想文など書けるわけない」と思ったのですが、読んでみて驚きました。

感想文の内容は素晴らしく、何より、“大人が喜びそうな”文章なのです。「本日はお忙しいなか講義に来てくださりありがとうございました。今日の講義を活かして、自分の将来をしっかりと考えていきたいと思います」云々。

講義が終わって、休み時間に彼をつかまえて立ち話をしました。もちろん、説教などをするつもりはありません。ちょっと気になったので、「今日の講義は寝ていたけど、感想文はすごくしっかり書いてあり、びっくりしたよ」と話したところ、彼は「寝ていたのはすみませんでした。ただ、感想文などで“寝ていた”とか“つまらなかった”などと書くと、学校側の講師に対する印象や評価が悪くなるでしょう。だから、“そこ”はちゃんと大人の求めるものを書きますよ」と笑顔で答えました。

私は、彼に対してとても“大人”だと感じました。良し悪しはともかくとして、です。大人の事情を理解し、大人社会を読める学生。一般的には「かわいくない」「素直でない」という評価をされてしまうかもしれませんが、社会人としてはどうでしょう。企業人としてはどうでしょう。相手(お客様)のニーズに合わせて、的確に対応できる人材かもしれません。方々で学生と話をしますが、ある部分、非常に“大人化”している若者が目立ちます。それに対して、“大人”が“大人”としてどのように接していくべきなのか、時代や世代の変化を読んでいかないと、「イマドキの大人」と言われてしまうかもしれません。

工藤 啓
くどう けい

特定非営利活動法人「育て上げ」ネット理事長。1977年6月2日東京生まれ。大学中退後渡米。帰国後、ひきこもり、ニート、フリーター等の就労支援団体「育て上げ」ネット設立。2004年5月NPO法人化、現在に至る。
2005年…内閣府「若者の包括的な自立支援方策に関する検討会」委員/厚生労働省「キャリア・コンサルティング導入・展開事例検討委員会」委員/文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員/埼玉県「ニート対策検討委員会」委員/福島県「若者としごと」研究会アドバイザー/立川市教育委員会立川市学校評議員
著書「大卒だって無職になる」(エンターブレイン)、「ニート支援マニュアル」(PHP研究所)ほか

NPO法人「育て上げ」ネット
Lineup

【2015年 掲載】
84 親とのコミュニケーション~76

【2014年 掲載】
75 もし自分だったらどうする?~67

【2013年 掲載】
66 一声かける勇気~60

【2012年 掲載】
59 進学と奨学金~53

【2011年 掲載】
52 非日常下の成長~46

【2010年 掲載】
45 卒後生活への不安~37

【2009年 掲載】
36 仕事につながるナナメの関係~28

【2008年 掲載】
27 学校を辞めるということ~19

【2007年 掲載】
18 仕事を変えるとき~9

【2006年 掲載】
8 感情と積極性~1