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非日常下の成長
~無人島に踏み出す~
日常生活から離れるといっても、精神的・物理的に「非日常」を体感するのは容易ではありません。確かに「非日常」ではあっても、学校や仕事が休みのときは多くのひとたちも同じように休暇中です。せっかくの機会も大勢のひとたちに囲まれることでその高揚感が薄れてしまうことがあります。
若者の成長につながる「非日常」を提供したいとあれこれ検討しても、一生に一回あるかないかの経験はなかなか見つからないものです。せっかく気候穏やかな秋ですから、アウトドアの「非日常」を作りたい。そんなとき岡山県で子どもや若者を支援する、NPO法人リスタートの方からご提案をいただきました。
「無人島に行きませんか?」
実現可能な「非日常」を探す私たちの前に突如現れた無人島へのお誘い。見渡す限り海しかない小さな島にヤシの木が一本、そんな景色を想像しながら詳細を伺いました。すると同NPOが県から管理委託している岡山県の黒島には漂着ゴミが大量に流れ着くため、定期的に清掃をしなければなりません。人手もあればあるだけ助かるということでしたので、私たちも合流させていただくことにしました。
自分たちしかいない空間、持参した水や食料以外は“買う”ことができない環境はまさに「非日常」です。みなで手分けして漂着ゴミをかき集め、大量のビンや缶のみならずテレビまで流れ着いている光景は、「非日常」にあって私たちの「日常」がいかなるものかを考えさせられました。
不思議なことに、船から無人島に降り立って数時間もすると水ではない飲み物が欲しくなり、普段は食べない甘いものを身体が求めます。私だけかと思っていたら、同行したスタッフも参加した若者も似たような状態でした。「非日常」のなかで、私たちは“ある”ことによって何かを失い、“ない”ことでそれら失われた何かを認識しました。
参加した若者はそれぞれの「非日常」を満喫するとともに、「日常」の自分を見つめなおします。無人島というサバイバルな環境で本能的に行動し、みなと協力し合ったことは毎日の生活でもできるはず。あれから数週間が立ちましたが、すでに参加者の思考や行動に変化が出てきています。社会参加に向けて、経済的自立に向けて一歩踏み出しています。これも「非日常」がもたらした成長の証であると私は考えます。