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一声かける勇気
~席を譲ることに躊躇なく~


工藤 啓
更新:2013/11/18

それなりに込んでいる毎日の通勤電車。ふとした瞬間に前の座席のひとが降車すると、心のなかで「なんてラッキーなんだ」と微笑みながら座ります。乗降が終わり、視線を上げてみると、つり革につかまったひとが立っています。

それは高齢者であったり、松葉杖を抱えているひとであったり、マタニティーマークをバッグにつけている女性であったり。そんなとき私たちは、少なくとも「あっ、譲らなきゃっ」と思います。優先席であるかどうかは関係ありません。自分よりも座るべきひとがいれば譲るのは当然です。ほとんどのひとがそう思っているのではないでしょうか。

しかし、時々、私たちは座席を譲ることに躊躇します。視点を変えて言えば、何かが私たちに、席を譲ることを躊躇させます。それはいったいなんでしょうか。例えば、高齢者だと思って声をかけたところ、「俺はそんなにトシじゃない!」と言われたことはありますか。それとも「いえいえ、次の駅で降りますから。本当にいいですから」と声をかけたものの、かたくなに断られた経験がありますか。

期末テスト前で昨夜は寝ていない。部活で遅くまで練習があったので疲労困憊である。自分は若いかもしれないけれど、電車内の誰よりも疲れているのだから、たまには寝てもいいだろう。誰でも譲ろうとして断られたり、本当に疲れていて眠りたいときはあります。自分が譲らなくても、誰か近くの人が譲るかもしれません。

それでもやはり、私たちは自分よりも身体や立場、状況が苦しいひとには躊躇なく席を譲りたいものです。席を譲らなくてもよい理由は誰からも問われていません。にもかかわらず、心の中はモヤモヤしながら、譲らなかった自分の正当性を見つけようとします。

私もそういうことが多々あります。人間それほど強くないのかもしれません。それでも勇気を出して、「座られますか?」と一声かける。相手が譲られても、そうでなくても、あのモヤモヤ、自己正当化のための理由探しに比べたらすがすがしいものです。そしてできることならば、躊躇なく座席を譲るひとには、心の中でもいいので、心から拍手を送りましょう。そういう社会になれば、きっと私たちはもっと安心して日常が送れるはずです。

工藤 啓
くどう けい

特定非営利活動法人「育て上げ」ネット理事長。1977年6月2日東京生まれ。大学中退後渡米。帰国後、ひきこもり、ニート、フリーター等の就労支援団体「育て上げ」ネット設立。2004年5月NPO法人化、現在に至る。
2005年…内閣府「若者の包括的な自立支援方策に関する検討会」委員/厚生労働省「キャリア・コンサルティング導入・展開事例検討委員会」委員/文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員/埼玉県「ニート対策検討委員会」委員/福島県「若者としごと」研究会アドバイザー/立川市教育委員会立川市学校評議員
著書「大卒だって無職になる」(エンターブレイン)、「ニート支援マニュアル」(PHP研究所)ほか

NPO法人「育て上げ」ネット
Lineup

【2015年 掲載】
84 親とのコミュニケーション~76

【2014年 掲載】
75 もし自分だったらどうする?~67

【2013年 掲載】
66 一声かける勇気~60

【2012年 掲載】
59 進学と奨学金~53

【2011年 掲載】
52 非日常下の成長~46

【2010年 掲載】
45 卒後生活への不安~37

【2009年 掲載】
36 仕事につながるナナメの関係~28

【2008年 掲載】
27 学校を辞めるということ~19

【2007年 掲載】
18 仕事を変えるとき~9

【2006年 掲載】
8 感情と積極性~1