83-1

さりげなく優しい社会
~マタニティーマーク~


工藤 啓
更新:2015/10/13

8月に子どもが生まれました。双子です。一卵性双生児なので、同じDNAを持った双子です。最初は全然見分けがつかなかったのですが、2か月もすると違いがわかってきました。まったく同じなどということはなく、少しずつですが個性のようなものも出てきたように思います。

切迫早産のリスクがあったため、妻は長期にわたって入院しましたが、母子ともに無事に出産をすることができました。そして妻は「マタニティーマーク(リンク:厚生労働省/マタニティーマークについて)」をバッグから外しました。

街中や電車のなかでマタニティーマークを見かけたことはないでしょうか。もしかすると、既にお腹が大きくなっている女性がつけているものという印象があるかもしれません。お腹が大きければマタニティーマークがあるなしにかかわらず、座席を譲ったり、荷物を持ったりと手を差し伸べているでしょう。

妻や出産経験のある女性と話をすると、本当につらいのは、まだお腹が目立つほど大きくなっていない時期だと言います。妊娠によるつわりや体調不良、貧血症状があると満員電車はもちろんのこと、日常生活そのものがつらくなるそうです。しかし、外見からはとてもわかりづらい時期でもあります。

なかなか「譲ってください」とは言いづらいなか、「マタニティーマーク」に気がつき、そっと「どうぞ」と声をかけられたときの“ありがたさ”は言葉にできず、声なき声として「気がついてくれて本当にありがとう」という気持ちでいっぱいになるそうです。

もう半年ほど前ですが、比較的込んでいた電車で座っていると「マタニティーマーク」をバッグに着けた女性が前に立ちました。そして「どうぞ」と座席を譲ると、特に御礼を言われることもなく、その女性は自宅のソファーに倒れるように席に座られました。

私は、一番つらい時期は外見からはわかりづらいことを教えてもらっていたので、「あぁ、本当にシンドイのだな」と思いながら、雑誌を広げました。隣で立っていたひとは、その女性の対応にやや怪訝な表情を浮かべていました。

もし、その時期のつらさを知らなければ、「席を譲ったのに何も言ってもらえないんだ」と考えてしまっていたかもしれません。言わないのではなく、言えないくらいつらい時期があることを理解しているだけで、まったく感じ方が変わりました。「譲ってください」「もちろんどうぞ」「ありがとう」といった会話が気軽にできるといいのですが、さりげない配慮や優しさのある社会もまんざらでもないなと思うわけです。

工藤 啓
くどう けい

特定非営利活動法人「育て上げ」ネット理事長。1977年6月2日東京生まれ。大学中退後渡米。帰国後、ひきこもり、ニート、フリーター等の就労支援団体「育て上げ」ネット設立。2004年5月NPO法人化、現在に至る。
2005年…内閣府「若者の包括的な自立支援方策に関する検討会」委員/厚生労働省「キャリア・コンサルティング導入・展開事例検討委員会」委員/文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員/埼玉県「ニート対策検討委員会」委員/福島県「若者としごと」研究会アドバイザー/立川市教育委員会立川市学校評議員
著書「大卒だって無職になる」(エンターブレイン)、「ニート支援マニュアル」(PHP研究所)ほか

NPO法人「育て上げ」ネット
Lineup

【2015年 掲載】
84 親とのコミュニケーション~76

【2014年 掲載】
75 もし自分だったらどうする?~67

【2013年 掲載】
66 一声かける勇気~60

【2012年 掲載】
59 進学と奨学金~53

【2011年 掲載】
52 非日常下の成長~46

【2010年 掲載】
45 卒後生活への不安~37

【2009年 掲載】
36 仕事につながるナナメの関係~28

【2008年 掲載】
27 学校を辞めるということ~19

【2007年 掲載】
18 仕事を変えるとき~9

【2006年 掲載】
8 感情と積極性~1