そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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仕事を変えるとき
~後編~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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D君は生粋の映画好き。ほぼ毎日、映画館やDVDで映画を鑑賞していました。希望進路は映画業界。大手映画会社が配給するもの以外にも、秀逸な作品はたくさんある。それを日本に輸入するバイヤーになりたいと希望していました。帰国後、実際に映画配給会社に就職し、海外の無名映画を日本でブレイクさせたこともあります。

しかし、先日話を聞いてみると、同業企業の取引先に転職していました。D君曰く、「日本にもクオリティーの高い映画はたくさんあり、それを海外に紹介する仕事に大きな意義を感じたから」というのです。価値観の転換は、「埋もれた名作が日本にもあるはず。それを私たち(外国人)に紹介する(売り込む)ことは、日本人のあなたにこそやってほしい」という取引先の言葉だったそうです。D君は現在も、ほぼ毎日映画を鑑賞して、邦画の魅力を探し続けています。

世界に通じるプログラマーになることを目指し、大手IT系企業で働くM君もまた転職していました。システム構築のプロジェクトに従事し、毎日夜中まで働きずくめではありましたが、昨年出合ったときは非常にやりがいを感じていたようでした。しかし、今度の転職先は製造系企業で、いわゆる中小企業です。IT関係でもないようで、不思議に思った私が転職の理由を聞くと「給与などの条件は正直悪い。ただ、偶然出合った社長に惹かれた。プログラミングの技術は活かせないかもしれないけれど、海外進出するにあたって自分の経験が一助となりそうなんだ」と答えてくれました。あれほどプログラミングにこだわっていたM君が異業種に就くとは驚きでしたが、ひとりの社長との出会いで価値観が変わったのです。やりたい仕事より、一緒に仕事をしたい「ひと」へと。

働く以前から、将来の仕事をイメージすることは大切なことです。しかし、社会経験の乏しい若者が、さまざまな価値観や「ひと」に触れることによって、キャリアプランを変更することは当然なのかもしれません。若者の意識変化に対し、どこまで大人・社会が柔軟に対応できるのか。採用氷河期と言われるなか、若者のどこに理解を示すのかで企業の価値もまた変化していくのでしょう。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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