そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

37-2

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価値観は“ソーシャル”へ
~後編~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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若者のなかで個人と社会をとらえる距離感が急速に縮まっています。社会を構成するひとりの人間として、個人の幸せのみならず、社会の幸せも成し遂げたい。自らが、社会が抱える課題であると認識したものの解決に積極的にかかわっていきたい。そういう“ソーシャル”な価値観を若者が抱くようになってきています。

ただ、その価値観に対するアクションを継続させようとするときには、まだまだ局所的なハードルが残っている。そう感じる場面に出くわします。NPO法人「育て上げ」ネットにも、毎年、インターンシップの申し込みがあります。年々、その数は増えています。とくに期間をこちらから定めたりすることはありませんが、“不本意”ながら途中で去っていく学生もいます。

社会的な活動に取り組んだ結果、大学の友人との距離感が開いてしまったという例は印象的でした。「私はNPOでインターンしていることを話さないようにしています」と言う学生がいました。なぜかと聞いてみると、「企業でインターンをすれば就職で使えるが、NPOでインターンしても何もメリットがない。その時間をアルバイトにあてれば給料をもらえるのに」といった言葉がつらいと言うのです。

社会課題の解決を本業で目指す人間と違い、学生にとってのキャンパスは重要なコミュニティーです。理由はともあれ、そこで孤立してしまうのはとてもしんどいことだと思います。悪気はないにせよ、周囲の友人や保護者など、近しい関係性を持つ人々の価値観が“ソーシャル”な活動とは無縁の場合、個人がそれに抗うのは難しいでしょう。

どこのなにに価値観を置くかは個人の問題ですが、集団の中にあって自らの価値観が受容されないことに耐えられる人は少ないと思います。逆に、「大学の友人もみんな、ボランティア活動とかしていますし、いつも情報交換しています」とか、「ウチの親も、なんかのNPOに参加しているので応援してくれます」という学生もいます。

いま、“ソーシャル”なものに価値を置く若者が増えています。しかし、それが社会全体のムーブメントになるにはもう少し時間がかかるのかもしれません。個人と社会をつなげて考えられるのは素敵なことです。ぜひ、そういう価値観を持つ若者や友人がいたら、温かく見守ってほしいものです。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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