そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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社会人になりたい
~社会人と会社人~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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先日、「働いていることが社会人ということですか?」という質問を受けました。大学中退後、しばらくひきこもりがちな生活をしていた男性は、学生でもなく、働けていない自分自身が何者なのかについて考えていました。

社会人とは、本来、非常に広い意味を持つ言葉ですが、日本社会では“働いているひと”を社会人と見なしているような気がします。学生時代の友人と当時のノリで話をしていると、「何言っているんだよ。俺たちもう社会人なんだぜ」と言われ、物理的にも経済的にも保護者から離れ、自立した人間であることを強調された経験が私にはあります。

雇用形態はさまざまですが、日本で働いているひとは90%以上がどこかの会社または組織に雇われています。つまり、会社人として生きているわけです。与えられた業務をこなし、ときには新しい仕事を創る。その対価として毎月の給料を得て生活しています。働いている会社人が社会人という認識は、働けていない状況にあるひとを社会人でない、つまり、社会の一員でないという錯覚に陥らせます。

彼は、働けていない自分は社会人ですらないと言います。理由を聞くと、社会人というのは働いているひとのことを暗に指しているからだといいます。私は、社会人とは社会に参加しているすべてのひとのことであり、参加している社会に対し何か寄与しているひとを表す言葉ではないだろうかと伝えました。

一方、会社人とは何かを考えると、自らが選んだ会社が、その目指す先に到達できるよう力(技術・能力・時間など)を提供するひとを示す表現ではないでしょうか。明文化されているかどうかはともかく、会社にも、NPOにもミッションやビジョンがあり、自らの活動を通じて目指すものがあるはずです。

そのように考えると、働いていることが会社人であり、会社人であることが社会人であるといったことにはなりません。会社人でなくても社会の一員としての社会人足りえます。残念なのは、会社人であっても、社会人としてはいかがだろうかという大人が少なくないということです。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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