そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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セーフティーネットとしての高校
~給食が唯一の栄養源~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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私が通っていた都立高校は「お弁当制」で、毎朝、母親が作ってくれるお弁当を持って学校に通っていました。成長期でしたので、お弁当はだいたい二時間目と三時間目の間の休み時間に食べてしまい、お昼は購買で買ったパンなどでお腹を満たしていました。自宅を出るとき、リビングの机にお弁当が置いてあるのは“当たり前”でありましたし、朝ご飯や夕食も当然のように準備されていました。自らの食生活、栄養が脅かされるような経験はありませんでした。

先日、某定時制高校に招かれ、学生の前でお話をさせていただきました。事前の打ち合わせのため少し早めに到着すると、校長先生が「せっかくですから」と給食を食べさせてくださいました。給食なんて小学校以来でしたし、元来、好き嫌いの激しい私は、自分が食べられないものがでませんようにと祈るような思いでしたが、幸運なことに食べられる食材ばかりで、また、とても美味しかったです。

副校長先生と具体的な打ち合わせに入る前に、学生にとっての給食の意味を教えていただきました。それは多くの学生にとって給食が「唯一の栄養源」となっていることです。さまざまな事情はあると思いますが、自宅で食事が出てこないとか、カップラーメンやコンビニ弁当だけを食べている、また、保護者から昼食代などをもらっていても、日常生活で使うお金に充当するため、昼食を取らないで夜、学校に来る生徒もいるそうです。

残念ながらこれが見えざる日本の現状です。当たり前のように朝食やお弁当、夕食が出される家庭がある一方、給食が命綱となるような生活をしている10代がいる。栄養学的なことはわかりませんが、お腹がすいたままであったり、十分な栄養を摂れなければ、授業に集中することも、安心して学校生活を楽しむこともできません。

選挙権がなく、制度立案に参画することのない高校生がこのような現状を変えることはできません。だとすれば、それができる私たちが、セーフティーネットとしての学校の実情を理解して、学生が安心・安全に学校生活を送ることができる社会を創っていかなければなりません。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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