そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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進学と奨学金
~家庭内でお金の話をするハードル~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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1955年の大学進学率は約8%でしたが、2009年の統計では50%まで上昇しています。短大や専門学校を合わせると70%を超えるひとが高校を卒業した後に進学しています。高校を卒業しても、もっともっと学びたいことがあるのは素晴らしいことだと思います。他方、その「学ぶ」こと、「将来の可能性を拓く」こと、を目指して進学したことが、逆に、学生を苦しめている現状を危惧しています。

今現在、大学生の2人に1人が奨学金を受けて大学に通っています。

日本では、進学に係る費用の多くを家庭が負担してきました。しかし、家庭の所得が減少傾向にあり、また、先の見えない社会状況のなかで、子どものために学費を捻出することが難しくなっています。その一方で、国立大学、私立大学共に、授業料や入学料は高止まりをしています。進学希望者の増加と学費負担の困難さが、奨学金を受ける学生の増加につながっていることは想像に難くありません。

奨学金には、無利息の「第一種奨学金」と、利息を付して貸与する「第二種奨学金」があります。奨学金を活用する学生の多くは第二種奨学金を使って大学生活を送っていますが、誰でも借りられるのではなく、そこには人物、健康、学力、家計などを見る選考があります。

そのために必要なのは、高校時代の過ごし方ですが、私はここに難しさを感じています。仮に、家庭の経済状況が苦しくても、奨学金を借りて進学をしたいと思った場合、中学三年生または、高校一年生という早い段階で、家族と進学資金を話し合わなければなりません。しかし、日本ではあまり家庭内でお金の話をすることはなく、逆に、高校卒業後の進路決定の段階で進学が難しいことがわかっても、奨学金の選考基準を満たしていない可能性があります。「もっと早くから知っていれば…」ということになり兼ねません。

奨学金を借りるのは自己責任の範囲という考え方も根強いように思います。しかし、それ以前に、奨学金を借りようと思えば10代半ばで、家族とお金について真剣に話さなければならないわけです。お金について家族と話す文化風土に乏しい日本では、奨学金の受給以前に大きな課題を抱えているように思います。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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