そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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無業社会
~個人と社会~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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「無業社会 -働くことができない若者たちの未来-」(朝日新書)では、誰もが無業になる可能性を持っており、一度無業になるとなかなか抜け出せない社会を「無業社会」と呼んでいると前回書きました。

共著者の西田亮介さんとは、「できるだけ感情的な部分は切り離して本を作りましょう」と話していました。小・中学校の不登校、高校中退、新卒未内定、会社を離職することなどがあると、なぜか「自己責任」という言葉が出てきて、これらの行為や行動は“そのひとの問題であり、そのひとの責任である”とされてしまいがちです。「問題を個人に矮小化する」と言ったりします。

しかし、誰もが働くことができなくなる可能性を持っています。病気になることもあれば、怪我をすることもあります。一生懸命に就職活動をしても採用されなかったり、会社が倒産したことで仕事を失うこともあるでしょう。これらをすべて個人の問題にしてしまうと、安心して生活することができません。むしろ、一度でも「当たり前」の道から外れてしまったら大変なことになると、慎重に行動し、挑戦することに臆病になっていきます。

例えば、無業になってもすぐに適切で、充実したサポートが在り、すぐに抜け出せる社会になったらどうでしょうか。仕事を失うことに怯えるのではなく、むしろ、安心して物事に挑戦できるのではないでしょうか。「そういう社会っていいよね!」という想いを大切にしながら、どうしたら少しでもそこに近づけるのかをいつも考えています。

そのとき、私が大切にしているのが、なるべく個人の問題で片付けないことです。「何が彼/彼女をそうさせているのか」という視点を持つことで、(広い意味での)社会の不備を見つけ、よい方向に変えていくためには何が必要だろうか、と考えるようになります。実際に、社会に変化を起こしていくことは簡単ではありませんが、個人と社会の関係性がより複雑になっているなか、社会を見る“視点”を複数持つことは、これからの未来を切り開いていく上でとても重要なスキルになっていくと思います。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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