そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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里親のもとからの大学進学
~学費も生活費も自分でまかなう大学生~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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何らかの事情により家庭での養育が困難または受けられなくなった子どもたちがいます。児童養護施設やファミリーホームという場所が、彼らをもうひとつの「家庭」として支えています。

集団で支える場所の他にも、「里親制度」というものがあります。里親登録をした家庭が子どもたちを自宅で支える仕組みです。だいたい4,000人の子どもが里親のもとで暮らしています。

いま、高校を卒業すると80%近い高校生は大学や短大、専門学校に進学します。その一方で、児童養護施設や里親のもとで暮らす子どもたちの進学率は10%から20%くらいとなっており、高校卒業後に学びたくでも進学がかなわないケースが多いです。

仮に進学をしても、家族のサポートが受けられず、学費や生活費を自ら稼ぎながら学ぶことは難しく、経済的な理由で中途退学の道を選ばなければならない学生も少なくありません。

同じ大学生でも、お小遣いのためにアルバイトをがんばるひとと、家賃や食費など学費を含む生活費をまかなうためにアルバイトをしなければならないひとでは、使える時間や何かあったときの心配事は異なるでしょう。

わざわざ周囲に児童養護施設や里親のもとで暮らしていることを伝えることはないと思いますが、そのような環境にいることを知ってくれる、安心して相談できる友人の存在はとても心強いようです。

先日、里親家庭で育ち、今年度、大学に進学をした若者たちと話をしました。それぞれが学生生活を楽しんでいる一方、やはり、少なからず悩みを持っているようでした。信頼される友人として、もしそのような話を打ち明けられたとしたらどうでしょうか。

私自身も、児童養護施設や里親制度に詳しくなかったため、いろいろ調べました。彼らの悩みを聞いたとき、何か解決策をすぐに提案できる必要はないと思います。それは社会全体で取り組むべきものです。むしろ、友人として力になれることは、そのような環境にあるひとがいることを知り、話を聞いてあげられることです。

児童養護施設や里親制度に限らず、さまざまなバックグラウンドを持ったひとがこの社会にはおり、そのようなことを知っておくことで、豊かな人間関係を作ることができると思います。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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