そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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学部・学科選び、その先
~将来どうなるかよりも、いまの気持ちで~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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いま、東洋大学社会学部社会福祉学科という都内にある学校で週に一日授業をしています。学生は、2年生と3年生が混じっていて、クラスの半分くらいは社会福祉士という国家資格取得を目指しています。3年生はそろそろ卒業後の進路、就職活動に向けて動き出しているところです。

社会福祉学科を選択しているということは、高校生のとき、将来は社会福祉の分野で働きたいと考えた学生が少なくないはずです。また、単純に社会福祉の分野に興味があったという学生もいますし、なんとなく選んだ学生もいるでしょう。

私の講座は「就労支援サービス論」というテーマを学ぶところですので、就労を望む方をどのように支えていくのか、どのようなサービスが提供し得るのかなどを考えます。それに加えて、いまの日本の社会福祉制度を維持することができるのか。できないとしたら何を変えていかないといけないのか。変えられない、変わらない場合、福祉サービスを提供している組織やそこで働く個人、サービスを受ける個人や家族にどのような影響が考えられるのかをさまざまなゲストとともに学んでいます。

先日、障がいを持っている方の生活が、最先端技術を使うとどう変わり得るのかについてゲスト講師から話を聞きました。目の見えない方が、スマートフォンから適切な情報を受け取りながら待ち合わせ場所までスムーズにたどり着くことができるようになります。(セットすれば)通り過ぎるお店の名前やメニュー、お客様満足度○○ポイントといったレーティングも出ます。自動販売機の前で「お茶が飲みたい」と言えば、お茶のペットボトルが何段目の右から何個目のボタンを押したらいいのかも教えてくれます。技術レベルではできていることをたくさん教えていただきました。

私は、「テクノロジーが進展すれば、いまは全面的に介助が必要なひとも、生活の大半を自ら行うことができるようになるかもしれない。そうすると介助の仕事も質は変わるだろうし、介助者の人数も少なくなるかもしれない。つまり、対人介助の仕事が減るのかな」と質問を講師と生徒に投げかけてみました。

一部の学生は、福祉分野は将来にわたって安定的に仕事があると思って社会福祉学科を選択したのに、と少しショックを受けているようでした。しかし、テクノロジーの進歩が、必ずしも福祉分野の仕事を消失させるのかは誰にもわかりません。仮にいまある仕事がなくなっても、想像もしていなかったような仕事がたくさん生まれることもあり得ます。

未来の世界を想像することはとても大切なことです。自分の将来、仕事のことなどを考えて学部や学科を選びたい気持ちも理解できます。しかし、実際に未来がどう変化していくのかはわかりません。想像したものと同じこともあれば、まったく異なる場合もあるでしょう。未来志向で学部や学科を選ぶこともよいですが、悩みや不安が大きくなってしまうようでしたら、あまり先のことばかりを考えずに、いま興味・関心のあること、いまの気持ちを大切にして選べばいいのではないかと思います。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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