そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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自治会活動
~フリーライドを許さない世界~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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フリーライドとは「タダ乗り」のことです。誰かが築き上げた信頼や仕組みを何も貢献することなく享受するようなことです。幼少期、地元のお祭りの屋台で使える引換券が自宅に届きませんでしたか。あれは自治会に加入している世帯の子どもだけに原則配布されます。つまり、両親が自治会に加入していたからもらえているのです。

玄関のところにさまざまな資料が挟まったバインダーが置いてあるのを見たことありますか。地域情報を「回覧板」にまとめて家から家に回し読みするものです。回覧板が届けられるのも自治会に参加している家だけです。子どもの頃に当たり前であったものは、保護者が自治会費を支払い、主に日曜日を使ってさまざまな地域活動に参加することで得られていたものだったのです。フリーライドは許されません。

先日、自治会のひとからこんな話を聞きました。「自治会は参加している住民の住所や名前、家族構成などの情報を集約しています。災害などが起こったとき、安否確認などを迅速に行えるのは自治会だけです。食料でも物品でも数に限りがあるとき、地域での助け合いは顔や名前を知っているかどうかが重要になるのです」。

まさにフリーライドを許さない世界と言えます。自治会に加入しているからこそ住所と名前が共有され、日常のやや面倒な行事などに参加することが顔の見える関係を生み出します。ここらへんは高校生であっても同じメカニズムが働いているのではないでしょうか。ある高校に所属しているからこそ、教室で授業が受けられます。体育祭や文化祭、部活に参加すれば仲も深まりやすくなります。

高校までは生徒が本当の意味で自主性に任されることが多くありません。毎年の行事や日々の授業カリキュラムはほぼ決められています。また、数学が苦手だから数学の授業は取らず、別の単位を取得して卒業するといった選択もしづらいのではないでしょうか。しかし、高校卒業後は自由度が高まります。何をするにも、どこへ行くにも自分の意志を優先しやすくなってきます。

楽しいことは積極的に。面倒なものにはかかわらない。そういうことも自由に決めることができます。ただ、自治会に限らず、いざというとき機能する組織やつながりはフリーライドを簡単には認めないでしょう。だからこそ、限られたお金や時間を何に使うのか。それに見合うだけのものが得られるのかについて考える癖と見極める力を日頃から身につけておきたいものです。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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