そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

90-1

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「違う」を考える
~違わないこと~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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朝夕のご飯を食べるとき、20人とか30人で食べる家庭で生まれ育った私は、家族だけで食卓を囲む生活は別世界だと思っていました。両親がいなくても多くの大人が出入りする環境だったので、鍵っ子に憧れました。通勤のため朝早く両親が会社に行くというのはどんな感じがするのか不思議でした。幼心に自分の家はずいぶん周囲と「違う」家庭で、普通ではないという感覚をずっと持っていました。

その意味で、心のどこかで「普通」であることを求めていたように思います。インターネットで「普通」「定義」と入れて検索をしたところ、「いつ、どこにでもあるような、ありふれたものであること。他と特に異なる性質を持ってはいないさま」と出てきました。

小学生くらいだとまだ世界も狭く、比べるといってもクラスメートや同じ町内会や習い事をしている友だちくらいです。中学生、高校生と成長し、さまざまなひとと出会い、言葉も文化も違う国で暮らしてみると、そもそも「違う」ことが「普通」であって、同じ性質を持っていることの方が稀です。

他者と「違う」ことは孤立につながりやすいのではないでしょうか。実際に孤立していなくても、どことなく寂しい感覚に襲われるかもしれません。孤立感から逃げるように、みんなと同じであろうとしてしまいます。同じような音楽を聴き、似たような服装を好み、みんなが使うアプリを落とし、場にそぐわない言葉は心にしまいたくなります。

私は39歳ですが、年齢と経験を重ねるにつれ、違わないことよりも、違うことに価値を感じるようになりました。行動や考え方が似ていればそれでいいですし、「違う」ことがわかったら心の中で少しだけその違いをかみしめる、という具合です。

「違わないこと」は、「同じこと」でも「普通であること」でもありません。細かく見ていくと違うところだらけですが、大きな視点で見ると、その細かい違いが見えづらくなるだけで、やっぱり同じではなく、「違う」のです。それを個性というのかどうかはわかりません。ただ、無数にある細かい違いを意識すると、世界の見え方がずいぶん変わってくるように思います。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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