そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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友だちの悩み
~どんな悩みが相談しづらいのか~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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 更新:

人生の岐路に立っているとき、私たちは悩みます。大学に進学するのか、就職を選ぶのか。どこを受験するのか。実家を出て初めての土地で生活をするかどうか。そんなとき、両親や学校の先生、親友に相談するのではないでしょうか。ひとりで悶々と考えているのは苦しくて、誰かに正解を教えてもらいたいわけではないけれど、ちょっと話を聞いてほしい。自分の選択に対して助言や背中押しをしてもらいたい。仮に答えにたどり着けなくても、自分の気持ちを言葉にするだけで少しだけ楽になることもあるでしょう。

「人薬(ひとぐすり)」という言葉があるように、ひとはひとによって救われたり、気持ちが落ち着いたりする生き物です。ただ、私たちは人生の大きな分岐点でだけ悩むのではなく、一日の中で何度も、日常生活のなかで数えきれないくらい悩みます。そのなかにはちょっといいづらい内容もあると思います。

昨年、長野県がLINE株式会社と手を結び、県内の中高生にLINEで不安や悩みを相談できる取り組みを行いました。ありそうでなかったSNSを使った相談に、テレビや新聞が大きく取り上げました。

親や先生、友だちには言いづらいもので、対面や電話もちょっと。でもLINEなら相談してみようかなと思ったのか、非常に多くの相談が寄せられました。

LINEを利用したいじめ・自殺相談「相談内容」
相談内容 件数
(件)
割合
交友関係・性格の悩み11921.8%
恋愛に関する悩み8315.2%
学業・進学の悩み488.8%
いじめに関すること458.2%
学校・教員の対応458.2%
家族に関すること274.9%
ひやかし264.8%
性・からだのこと112.0%
相談終了後の返礼71.3%
不登校に関すること30.5%
その他7714.1%
無応答(相談にたどり着く前に
応答が無くなり終了)
5610.2%
合 計547 

(出典:LINEと長野県による、LINEを利用したいじめ・自殺相談事業の中間報告資料を公開「長野県とLINE株式会社によるLINEを活用したいじめ等相談の中間報告資料」)

その際に寄せられた中高生からの相談の内訳データがあります。これを見てどう思うでしょうか。友だちに相談している、相談できる項目はありますでしょうか。「性・からだのこと」や「不登校に関すること」は、友だちに打ち明けづらいかもしれません。

また、「家族に関すること」を家族に伝えることや「学校・教員の対応」を学校の先生などには言いづらいことかもしれません。こういう心の葛藤を伴うような悩みをため込んでおくことは心にも身体にもよくありません。それでも打ち明ける先がないからこそ、LINEを通じて顔の見えない相談員に向けてスマホをフリックしたのでしょう。

ここでみなさんと考えたいのは、親友や友人であるからこそ、本当は聞いてほしいけれど打ち明けづらい悩みを抱えているひとがいる、ということです。だからといって「なんでも相談してね」と言えば解決するかはわかりません。それでも少しでも友だちがうかないとき。何かを話そうかどうか迷っているようであれば、言葉をかけるのではなく、傍にいてあげる。ただそれだけでいいのではないでしょうか。

もしかしたら何かを伝え始めるかもしれませんし、そこにいてくれるだけで気が楽になるかもしれません。大切なのは傍にいる、それは物理的にいることでも、精神的にいることでもどちらでもいいのだと思います。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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