そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏によるエッセー

106-1

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言葉にしてみる
~理事長が買ってくれるよ~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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人間は目や耳、鼻や手などさまざまな部分を使って情報を獲得し、相手が何を考えているのか。いまどのような状況なのかを想像することができます。とくに言葉や文字は便利で、共通の下地があれば、ある程度のことは理解可能です。

それでも、本当に相手が考えていることを100%わかるわけでもないので、ときに誤解してしまうこともあります。私は子どもが4人いるのですが、三男と四男の双子は2歳でやっとコミュニケーションがしっかりできるようになってきたくらいです。

何か気に入らないことがあると「嫌だ!」という言葉と嫌そうな表情をします。「あぁ、嫌なのだな」ということはわかりますが、具体的に何が嫌なのか。どうしたら機嫌が直るのかは想像するしかありません。その想像が当たるときはいいのですが、なかなか当たらずに時間だけが過ぎ去っていくこともあります。

同じ国や同じ世代など共有している文化や時代が似ていれば、想像力でお互いの理解が進みやすくなります。長い時間を共有している家族や親友であればその精度は高まりやすいでしょう。ただし、「血がつながっているからわかるはず」というのは少し幻想なのではないかとも思います。

先日、6歳の長男が「モーターを使ってみたい」と言いました。将来はエンジニアになってロボットを作りたいというので、牛乳パックやLEGOなどでよく可動式のものも作っています。それが突然モーターを使いたいというのでしばらく悩みましたが、私が小学校のときに遊んでいたミニ四駆を思いついたので一緒に買いに行きました。

私のような大人も、長男のような子どもも同じ目線で遊びやすいものなので、少し範囲を広げてミニ四駆大会を開催する予定です。いまは大会用のコースも郵送料だけでレンタルできるのですね。

いろいろ声をかけたところ、子どもから大人まで大会用のコースでミニ四駆を走らせたい仲間が集まっています。そのなかには育て上げネットに通う小学生から高校生もいました。彼らは大会に向けて手書きのポスターを作ってくれたのですが、そこに書いてあることを二度見しました。

「大~っきなコースを借りて大人たちとミニ四駆であそぼ。
 参加者には理事長が1人1台買ってくれるよ♥」

とてもかわいらしい字で、期待度の高さが見受けられます。そして私はこう思いました。「日常的に親や先生など限られた大人としか会っていなかった子どもたちも大人慣れしたものだ」と。彼らがどのような気持ちで書いたのかは想像することしかできませんが、みんなで遊びたいけれどミニ四駆を持ってない、買えない仲間がいるかもしれない。それであれば理事長にちょっと「言ってみよう」ということだと理解しました。

なんでもかんでもリクエストに応えられるわけではありませんが、彼らが気持ちを文字にしてみてくれて、こちらの反応を楽しみにしていること。そして「ここまでだったら言ってみても大丈夫そうだ」という感覚を身に着けたのではないかということがとても嬉しかったのです。

友人や知人にも、ましてや普段一緒にいることのないひとに対して気持ちを伝えるというのは簡単ではありません。それでも「このひとだったら」と思うひとがいるのであれば、勇気をもって言葉を伝えてみることで、新しいことが始まるかもしれませんよ。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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