第37回

昭和30年代は良い時代だったのか
(前編)


久田 邦明
更新:2008/03/03

昭和30年代がブームのようだ。そんなに良い時代だったのだろうか。

20代や30代の若い世代が昭和30年代を懐かしがるのは、まあしょうがない。知らない時代のことが羨ましくなることはある。しかし、当時を知るはずの50代から上の世代が「昔は良かった」と、昭和30年代を懐かしがるのは、どうしたことだろう。

その頃、東京の空はスモッグにおおわれて不健康な環境だった。映画館の汲取り式トイレは臭くてたまらなかったと、誰かが指摘していた。コンピュータグラフィックスを駆使した、最近評判の映画の描き出す世界とはちがうのである。昭和30年代を懐かしがる人は、そういう都合の悪いことは忘れているのだろう。

それだけではない。田舎では、地縁血縁の人間関係のしがらみが窮屈だった。暮らしの急激な変化のなかで、それまで「仕方がない」とあきらめていた問題にも耐えられなくなる時期だったのだろう。

都会では、アパートの四畳半や六畳一間に家族が暮らしていた。そんな貧しい住宅環境のせいで、まるで鳥かごのような2DKの団地が夢の暮らしだった。

ファミリーレストランやファースフード店があるはずもなく、たまたま入った蕎麦屋の無愛想な接客態度にも「運が悪かった」と我慢するしかなかった。コンビニや大規模店舗などは見当たらないから、近所の商店の貧弱な品揃えに文句をいうことも知らなかった。

なかでも忘れてならないのは、人と人との距離が近いせいで、しょっちゅう人間関係の軋轢が生じていたことだろう。些細なことまで他人の目を気にしないわけにはいかなかったのだ。「人に迷惑をかけるな」という決まり文句は、このことを思い出させる。これに加えて、豊かな暮らしを求める、新手の生存競争も始まった。昭和30年代は、ろくでもない時代だ。

久田 邦明
ひさだ くにあき

首都圏の複数の大学で講義を担当している。専門は青少年教育・地域文化論。この数年、全国各地を訪ねて地域活動の担い手に話を聞く。急速にすすむ市場化によって地域社会は大きく変貌している。しかし、生活共同体としての地域社会の記憶は、意外にしぶとく生き残っている。それを糸口に、復古主義とは異なる方向で、近未来社会の展望を探り出すことが可能ではないかと考えている。このコラムでは、子どもから高齢者まで幅広い世代とのあいだの〈世間話〉を糸口に、この時代を考察する。

Lineup

【2010年 掲載】
第78回 青年団が教えてくれること
〜第65回 大学をユースセンターへ

【2009年 掲載】
第64回 コミュニティビジネスの希望
〜第49回 地域で子どもを育てるスポーツ少年団

【2008年 掲載】
第48回 子どもの貧困
〜第33回 生涯学習を学ぶことの効用

【2007年 掲載】
第32回 期待されていない若者たち
〜第17回 地域文化の力

【2006年 掲載】
第16回 いじめをどうする
〜第1回 大学って何?