第62回

青少年施策を考える
(後編)


久田 邦明
更新:2009/10/05

青少年育成の行政施策も、若者の社会的自立支援ということばに象徴されるように、一人ひとりの自助努力を促す方向へすすんできた。今年7月、子ども・若者育成支援推進法が公布されたことによって、国の施策も、高度経済成長期の青少年健全育成策から、この方向へと大きく舵を切ったようにみえる。

子ども・若者育成支援推進法では、地方自治体に向けて、子ども・若者支援地域協議会を置き、子ども・若者支援調整機関と子ども・若者指定支援機関を指定することを努力義務としている。マスコミが「ニート支援法」と呼ぶように、この分野で行政と協力してきた市民活動団体が想定されているようだ。無力化した地縁団体でなく、ミッションによって組織される市民活動団体に依拠して青少年育成をすすめようというのである。しかし、どうだろうか。個別的な課題解決を目的とする団体によって地域の子どもや若者が育つものか。近隣社会で大人が子どもに声を掛けるといった、日常的なはたらきかけが基本だろう。

このことを理解する市民活動団体こそ、わたしたちの社会の希望である。しかしその数は限られるだろうし、行政効率を求める行政施策の手法のもとで、どれほどのことができるのかという疑問も消せないのである。

こんなことをあれこれ考えると、第27期東京都青少年問題協議会の意見具申「若者を社会性をもった大人に育てるための方策について —社会の絆の回復を目指して—」(2008年11月)が注目される。

ここでは、個人の自立ではなく、社会が人々を阻害しない状態(社会的包摂性)の回復を提案する。「若者の自立支援」から「社会の自立支援」への視点の転換を求めているのである。

起草委員に宮台真司が加わっている。ベストセラーの『日本の難点』(幻冬舎新書)を意見具申の解説書として読むこともできるだろう。宮台は、「国土保全」(柳田國男)という伝統的な精神性に依拠しつつ、「感染的模倣」という人格的影響力による人々の結びつきによって、「共同体的自己決定」の条件づくりを提案する。理念的な市民像によって構成される社会ではなく、「相互扶助メカニズムゆえに包摂的な社会」を追求しようというのである。

ただ、意見具申の冒頭部分に宮台語録(?)があふれかえっているものの、他の委員が執筆する行政施策の整理や提案のところに目新しい記述はみられない。宮台にはそこまで付き合う気はないのだろう。今後は、子ども・若者育成支援推進法を拠りどころとしつつ、個人の自立ではなく、一人ひとりを支える中間団体の組織化を考える必要があるのではないだろうか。

久田 邦明
ひさだ くにあき

首都圏の複数の大学で講義を担当している。専門は青少年教育・地域文化論。この数年、全国各地を訪ねて地域活動の担い手に話を聞く。急速にすすむ市場化によって地域社会は大きく変貌している。しかし、生活共同体としての地域社会の記憶は、意外にしぶとく生き残っている。それを糸口に、復古主義とは異なる方向で、近未来社会の展望を探り出すことが可能ではないかと考えている。このコラムでは、子どもから高齢者まで幅広い世代とのあいだの〈世間話〉を糸口に、この時代を考察する。

Lineup

【2010年 掲載】
第78回 青年団が教えてくれること
〜第65回 大学をユースセンターへ

【2009年 掲載】
第64回 コミュニティビジネスの希望
〜第49回 地域で子どもを育てるスポーツ少年団

【2008年 掲載】
第48回 子どもの貧困
〜第33回 生涯学習を学ぶことの効用

【2007年 掲載】
第32回 期待されていない若者たち
〜第17回 地域文化の力

【2006年 掲載】
第16回 いじめをどうする
〜第1回 大学って何?