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風の声

大学で講師を務める評論家久田邦明氏のエッセー

第75回

第75回
就活こそ若者の生涯学習
(前編)

久田 邦明
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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大学生の就職状況がいよいよ厳しくなっている。大学の教育活動からみても、このことの影響は大きい。学生は3年生から浮き足立っており、4年生ともなれば、企業訪問、企業説明会、面接といった就職活動が常態化して講義を休む学生が目立つ。

そんななか、ある大学の男子学生が内定の話を聞かせてくれた。地元の道路整備の会社に決まったという。わたしは常日頃、地元で就職して地域の担い手になる途があると喋っている。即座に「よかった」とお祝いのことばを伝えた。小さな会社で地味な仕事のようだが、全国展開をする外食産業などで身体を酷使し神経をすり減らして働く若者の話を伝え聞くと、規模は小さくとも地元の会社の方がましではないかと、素人考えではあるけれども、思う。

その後、機会があって、あるまちの就職支援施設の責任者と会ったときに、この話をしたところ、我が意を得たりとばかりに、こういう話を聞かせてくれた。道路整備の会社は全国どこにでもある。ところが若者は、そういう仕事のことを知らない。道路はクルマで走るところだと思っているからだという。この業種の会社が特別におすすめというわけではないとしても、就職希望の学生の参考になる話ではないか。

営業職の就職先として学生がまず思い浮かべるのは、TVコマーシャルに登場するような一般消費者を対象とする企業だといわれる。じっさいには営業の仕事は企業間のものも多いにもかかわらず、そういう分野はなかなか視野に入らない。知識不足といえばそれまでだが、そんなことでは自分の進路を狭めるだけだろう。経済成長が望めないにもかかわらず大学生の数は増えるばかりである。昔のように大卒の肩書きに期待することができるはずもない。そうであるとすれば、視野をひろげると共に、地に足のついた情報収集が求められるのである。

久田 邦明(ひさだ・くにあき)
首都圏の複数の大学で講義を担当している。専門は青少年教育・地域文化論。この数年、全国各地を訪ねて地域活動の担い手に話を聞く。急速にすすむ市場化によって地域社会は大きく変貌している。しかし、生活共同体としての地域社会の記憶は、意外にしぶとく生き残っている。それを糸口に、復古主義とは異なる方向で、近未来社会の展望を探り出すことが可能ではないかと考えている。このコラムでは、子どもから高齢者まで幅広い世代とのあいだの〈世間話〉を糸口に、この時代を考察する。

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